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感染症発生動向調査について

千葉の対応は続いていますが、すこしずつ通常運用に戻ります。千葉関連で何か情報があればまたお知らせしますね。

さて、小児の救急を考える上で、地域での感染症の流行状況は非常に大きな意味があります。また、今回の千葉のように公衆衛生的な対応が必要な状況が起こった場合には特に重要です。

先日息子の保育園で、看護師さんとお話ししていたところ、地域の流行状況・動向を把握する方法はないか?という質問をいただきました。ということで、今回は地域の感染の状況をどうやって把握したら良いか?ということをすこしお知らせしようと思います。

感染症発生動向調査

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づいて、全数把握対象疾患と定点把握対象疾患が定められています。

全数把握が求められる疾患は、発生数が希少、あるいは周囲への感染拡大防止を図ることが必要な疾患です。

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定点把握を行っている疾患は、発生動向の把握が必要なもののうち、患者数が多数で、全数を把握する必要はないものです。都道府県が指定する「指定届出機関(定点医療機関)」は、

1. 五類感染症のうち厚生労働省令で定める患者
2. 二類から五類感染症の疑似症のうち、厚生労働省令で定める患者

を届け出ることになっています。

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「週報」をチェックする癖を付けよう

これらの調査を踏まえて、毎週感染症動向の週報が出されます。流行は週単位で移り変わりますので、この情報の価値は非常に高いといえます。都道府県単位で集計されていますので、ご自身の地域の発生動向を把握されておくことは意味があります。

例えば愛知県の情報を見てみましょう。9月12日更新分です。

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朝夕少し涼しくなったとほぼ同時期に、いわゆる「夏風邪」である手足口病、ヘルパンギーナが激減しています。それと入れ替わるように、RSウイルス感染症が急速に増加していることが解ります。

これらは実際に外来をしていると、「風速」として感じるぐらい明らかに違います。次の週に週報を見て、やっぱりね、と思うわけですが。

週報にはこれらに加えて、麻疹・風疹など流行に注意すべき疾患の患者発生動向が掲載されますので、地域毎の流行を把握し、対策を講じることができます。

地域差を考えてみる

現在台風の対応をして頂いている千葉県の報告と比較してみましょう。

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やはり夏風邪が減って、RSウイルス感染症が急速に猛威を振るっている、という状況のようです。季節性の変化については共通しているということがいえそうです。RSウイルスは乳児を中心に、急速に呼吸困難を来す重篤な細気管支炎を引き起こします。やっかいなのは年長児〜成人では「ただの」鼻風邪をおこすのみで、あえて診断されない風邪のウイルスです。これらが流行に拍車をかけます。小児科の先生方はもちろんご存じですが、特に災害医療に関わる方は、これらの流行状況と疾患特性をある程度把握しておく必要があると考えています。

「週報」活用方法

保育園・幼稚園では是非これらの週報を掲示し、啓発を促して抱くと良いのではないかと思っています。これにくわえて、保育園・幼稚園毎の局地的な流行も加味して診断していますので、保育園・幼稚園での流行状況は随時保護者の方に情報発信して頂ければと思っています。

一方で、これに過剰になるあまり、医学的に不当な検査、不必要な検査を保護者が要求され、あわてて医療機関を受診するケースも多く見られます。例えば流行期のインフルエンザなどは、検査をしなくても診断がつきます。検査の特性を考慮すると、かりに検査が陰性であってもインフルエンザとして扱うべき(診断すべき)状況もありえます。にもかかわらず保育園から「検査を要求されている」と仰って検査が陽性になるまで受診される方もおられます。子どもにとっては発熱でツライ中、不必要な検査を受けに来るという状況もママ見られます。もしかしたら「検査そのもの」は要求されていないのかもしれませんが、少なくとも保護者の方にはそう伝わっているようです。正しい診断についての知識をこの機会に知って頂ければと思います。

ERで働く研修医の先生方も是非この週報ぐらいはチェックしておくことをおすすめします。外来での「検査前確率」がグッと変化し、検査の選択治療の選択にキレが増すこと請け合いです。

災害対策をするときにも地域の流行を把握しておくことは公衆衛生学的な観点から大変重要になります。避難所ではたくさんの方々閉鎖空間で同居することになりますので、特に重要です。


【参考文献】
東京都感染症情報センターホームページ
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/

愛知県衛生研究所ホームページ(愛知県のページからのリンク)
http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/

厚生労働省ホームページ「感染症発生動向調査について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115283.html



小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン