ハッピーフライト?
【はじめに】
まはるの頁にご来訪ありがとうございます。
本日の作品は2022年に執筆したものです。
私は「飛行機」が大の苦手ですが、その割にはご縁があるようです。
空港を舞台にしたドラマや映画も大好きです。
今回は、「ハッピーフライト」という作品をモチーフに、私自身の飛行体験を描いた作品のご披露です。
「ハッピーフライト」はとてもコミカルな映画で大好きです。
このエッセイを手直ししていたら、また観たくなりました。
(1)寅さんとおんなじ気持ち
どうしようもなく嫌いなのに、どうしようもなく惹かれる。
考えれば考えるほど矛盾しているのに、私にはこのように表現することしかできないものがある。
飛行機だ。
「あんな鉄の塊が空を飛ぶなんて!」
昔観た寅さんの映画で、渥美清さん、いや、寅さんが叫んでいた。
仰る通り!
このセリフを聴いて以来、私は「飛行機は好きか?」と問われる度に、寅さんの気持ちになって、全く同じセリフで応戦する。
そうして、悲痛な顔で訴える。「出来れば、乗りたくはないんだ!」と。
(2)唯一の楽しみ♪
しかし、実際には、自分で自分を裏切り、通算6回、往復にして12回も
鉄の塊でフライトしている。
決して小さくはない唸り声をあげて、鉄の塊は滑走路をひた走る。
私は、「来るぞ!来るぞ!」と身構えて、肩を強張らせ奥歯をギュッと噛む。
次の瞬間、気が遠のきそうなほどの浮遊感に見舞われ、瞬く間に空へと押し上げられる。
私はついに観念し、何があっても割れそうにない窓の外を見やる。
雲より高い上空にいるのだと思うと、もはや私の体中の全てが諦めに支配される。
「落ちない! 落ちない! 絶対に落ちない!」
誰にも聞こえぬように、心の中で呪文を唱え、あとはひたすら唯一の楽しみである機内食に神経を集中させる。
まるでお人形さんのように整った顔立ちのCAさんが、丁重語の極みといった口調で、こちらの好みのメインディッシュを尋ねてくれる。
ほどなくして、こじんまりとしたトレイに並べられた特別感満載の食事が運ばれてくる。
「大丈夫! 大丈夫!」
私は、もぐもぐと口を動かしながら、まだまだ呪文を唱え続ける。
時おり乱気流に呑まれながらいただく食事は、余りにも日常から掛け離れたものだ。
「こうなりゃヤケだ!矢でも鉄砲でも持ってこい!」
食事のトレイが空になる頃に、漸く私は「鉄の塊」というやさぐれた認識を「飛行機」に戻す。
そうしてやっと、これからの旅の期待へと胸を弾ませることができるのだ。
私にとって飛行機とは、なんとも厄介なものである。
(3)おもちゃなら怖くない!
そんな飛行機だが、私の部屋には、木製でできた飛行機と飛行機にまつわる数々の車のおもちゃが飾られている。
明らかに子供用のおもちゃなのだが、丸っこいフォルムが可愛らしくて、つい買ってしまった。いかにもそれらしく見せるために、JALのロゴマークも入っている。
はっきり言って、お気に入りだ。
買い求めたのは、「成田航空科学博物館」。
先月、施設のバスハイクで繰り出した。
館内全て、飛行機とそれに関連するもの一色。
機体の大きなエンジン部分の展示や、スチュワーデスと呼ばれていた頃のレトロな制服のマネキン人形。
なんと、ワクワクするではないか!
眺望抜群のレストランでは、大きな窓から滑走路を目指して低空飛行で飛んでくる飛行機を何機も見つめて、「うわぁ~!うわぁ~!」と歓声を挙げる。
要するに、見ている分には十分に楽しめるのだ。
我ながら現金なものだと笑ってしまうが、飛行機とは「見るは天国・乗るは地獄」だ。
そんな異空間に迷いこんだかのような1日。
私の脳裏にはある映画が蘇り続けていた。
(4)「ハッピーフライト」
「ハッピーフライト」
2008年の作品である。
田辺誠一さんと綾瀬はるかさんを主演にした極上のコメディー作品。
田辺さんが演じるのは、今日のフライトを恙なく終えれば、いよいよ訓練飛行が終わり、正式にパイロットとなれる人物。
一方、綾瀬さんは新人のCAでこの日国際線デビューという緊張感いっぱいの役どころ。
この二人を中心に、機内の或いは空港内で働いている多くの部署の人間模様を描き出す。
至るところまで計算し尽された物語は、疾走感と臨場感に溢れている。
飛行機が離陸する前の空港でのすったもんだや、物語のキーポイントとなる撮り鉄ならぬ無類の飛行機マニアのおたく風情の青年たちまで。
空港を取り巻くありとあらゆる光景が愉快に描かれる。
たった1日の出来事を事細かに描き、観ているこちらを架空の旅へと誘う。
(5)いやよいやよも、好きのうち?
よくよく考えてみれば、この映画に限ったことではない。
私は「飛行機」や「空港」が舞台となる作品をかなり好んで観てきた。
飛行機は絵になるのだ。空港もまた然り。
日常とは切り離された空間で、見聞きする全てが新鮮に感じられる。
滅多に行かない場所だからこそ、心が嬉しさで満たされる。
それこそが、空の、或いは、空の玄関口の最大の魅力だ。
戦々恐々のフライトを終え、無事に入国ゲートを潜る。
胸いっぱいに吸い込む異国の空気。
カタコトのハングルで買い物をしたソウルのショッピングモール。
「フライドポテト」という言葉が全く通じず、結局無理やりハンバーガーだけを頬張ったフランスのマクドナルド。
今となっては懐かしい空港のその先の物語だ。
私は改めて考える。
飛行機とは、「空を飛びたい!」と願った人類の英知の結晶だ。
その昔、空に憧れたライト兄弟が現代に息を吹き返したら、何と言うだろうか。
私たちは、絶え間なく進む文明の時代を生きている。
私もそろそろやさぐれるのを止めよう。
乱気流に呑まれようとも、CAさんの運んで来てくれるコーヒーをゆったりと味わおう。
空港特有の華やいだ賑わい。大きなスーツケースを持ち運ぶ人々。その風景に溶け込んで、私もまた、とびっきりの笑顔で闊歩しよう。
苦手なのに、どうしようもなく惹かれる飛行機。
この秋、7回目のフライトが待っている。
いざ、行かん! ハッピーフライト!
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