青の魔法(2)
(最初の物語は↑)
恋人のことが心の底から好きだった。
自分の夢や仕事よりも、彼女と一緒に過ごす時間が大切で、あの時の幸福で楽しい日々が忘れられず、別れてから何年もの間、きっとまた元通りに戻れるだろうと考えていた。
あの時、もし違う選択をしていたのなら。
この関係が終わることはなかったのかもしれない。
飲みかけのペットボトルをためる癖も、
料理をしたら洗い物をしないところも、
別れた後は、すべて愛おしいものだったと気づく。
俺の古い携帯には、今も元恋人との写真がたくさん残っていた。
+++++
「仕事終わった?」
「うん。終わったよ。」
電話をして、彼女が宿泊するホテルのロビーへと迎えに行った。正直なところ、赤坂はよく知らない。
普段の俺は、新宿、渋谷あたりが行動範囲。
お酒は好きで、大体朝まで飲むことが多い。
今日は平日のど真ん中か。
明日も朝から仕事がある。結構怠いな。
今夜は早めに解散しよう、そう思いながらふかふかのソファに腰掛けた。
「お待たせ。迎えにきてくれてありがとう。
今日は私が案内するよ。韓国料理、好き?」
「好きだよ。」
「大好きでよく行く美味しいお店があるの。」
その店に何度も通い詰めていると豪語する彼女は、どうやら地図が読めない上、方向音痴らしい。
彼女は、駅からの道はわかるけれど、このホテルからは行き方がわからないの。だからGoogleマップで調べてね!と俺に指図する。
仕方なく、携帯を出して調べることにした。
「こっちだよ。」
「ありがとう〜」
ノリが良くて、陽気なひとだなと思った。
特別タイプではないけれど、気も使わないし居心地がいい。なんとなくこれから仲良くなれそうだと思った。
店に着くと、韓国人のおばさんが流暢な日本語でいらっしゃいませと接待をするものだからとても驚いた。
席に着き、疲れた身体に生ビールを流し込む。
キムチやおかずが乱雑に音を立ててテーブルに置かれる。彼女がオススメする生マッコリを頼む。
「てか、所作綺麗だね。落ち着いてるし。」
大きな亀に入ったマッコリを掬い丁寧にグラスに注ぐ彼女をみて、そのまま思ったことを口にした。
「え、そう?あんまり意識したことないけど。」
彼女はなぜか少しだけ不機嫌そうだった。
いい感じにほろ酔いになり、店を出て歩く。
外は寒い。寒い寒いと言いながら、冬に食べるアイスは美味しいなんて話をする。
二軒目を探している時に、彼女はここなら来たことあるよ、とある居酒屋を紹介してくれた。
通りがかりに雰囲気が良さそうなワインバーを見つけた俺は、せっかくだから行ったことがないこっちのバーにしようよ、と提案した。
彼女は「私ワインだいすき!」と浮き足立っていた。
...この人もワインが好きなんだな。
俺の友達と年齢も近いし、ワイン好きな女ってなんか話し方が似てるなと、どうでもいいことを思いながら、テーブル席に座り赤ワインを注文する。
シャンパンを目の前にしてニコニコ微笑む彼女。
さっきの不機嫌さは消えたようだ。
本当はワインが飲みたかっただけなのかもしれない。
あまりに美味しそうに黄金色の飲み物を飲むものだから、その味が気になった。
一口飲むと爽やかな泡が弾けて、美味い。
泡はすぐに消えてなくなった。
これなら俺も飲めるな、と思った。
+++++
「明日どうする?」
「迷ってるけど、待ち合わせは渋谷にしよう」
昼からのデートは久しぶりだ。
どこに行くかはその時のノリで決めよう。
渋谷のヒカリエにいると言われて急いで向かう。
「よ!元気してた?久しぶり。」
「うえーい」
まだ2回しか会ってないのに、昔からの知り合いのような感覚があるから不思議だ。
「何が食べたい?パスタ以外で。」
「和食かな。え、パスタ嫌いなの?」
「パスタは昨日食べたから...。」
「ふーん、そうなんだ。」
昨日は職場の人たちとディズニーの映画を観て、
今度ノリでディズニーランドにも行くことになったよ、という話をした。
彼女は、仲良しでいいじゃん!と笑いながら俺の話を聞いていた。
食事をした後は、代々木公園に行くことにした。
手前のイベントスペースには何度か来たことがあるが、奥の公園は初めて訪れる。
「せっかくの休日なのにこんな公園でごめんね。」
彼女が楽しんでいるのか心配になって聞いた。
「私公園好きなの。それに話すのが楽しくて。飲み物と屋根があればどこでもいいよ。たくさん話をしたかったから。」
俺の友達とは大違いだ。その友人はいつも俺を銀座のワインバーに連れて行き、美しいもの、高級なもの、初めての体験をさせてくれる。何度も飲みに行く仲だし、家にも遊びに来たことはあるが、対等とは言えない関係だった。
この人とは、同じ目線で色んなことを楽しめそうだと安心した。
+++++
少し前に、3年同棲した元恋人に復縁をしたいと伝えた。元恋人には既に彼氏がいて、遠距離だけどそのうち結婚して地元に戻る予定だと聞かされた。本当にもう無理なんだな、とここでやっと諦めがついたタイミングだった。そのあとすぐ彼女と出逢った。
もともと独占欲が強い俺は、自分と仲良くなった人に対して、他の異性と仲良くしないで欲しいという身勝手な願望を抱くことがある。
ふざけながら他の人と仲良くしないでと伝えるが、彼氏にもならないし、将来の責任も持たないのに、
独占欲だけはなぜか湧いてくるという矛盾。
俺は自分にも人にも嘘はつけないしつきたくない。
元恋人と戻れないのなら、暫く恋愛はしない。
これからは自分の夢や目標、仕事に力を入れよう。
いい人がいたら付き合いたいとぼんやり思っていたが、元恋人に振られてはっきりと目が覚めた。
まだ元恋人のことが好きなのかもしれない。
情けないな。あの時の楽しさが忘れられない。
これからは、恋愛よりも自分の人生を叶えたい夢や目標を軸として生きていこう。
そんなことをぼんやりら思っていた。
(続く)
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