ぼくのいちかみはひよこ
金沢駅から7分ほどのゲストハウス。
そのドミトリールームの窓から、朝日が差し込んでいる。
金沢は、雨が多いイングランドみたいな気候だよ
と、周囲から言われていたけれど、2回目の金沢も見事に晴れた。朝日の差し込む窓を見上げて起き上がる。
日本の女性の美しさを表すことばで、
一髪、二姿、三器量というものがある。
顔は化粧をすれば隠せるが、髪の毛は化粧で隠せない。だからこそ髪は、その人をあらわす美しさの目安にされていたのかもしれない。
金沢の街を見ていると、美しいなぁと感じる。瓦に、よその地域にはない重厚感と優雅さがある。
一般的な僕の知っている瓦は、黒と銀を混ぜたような灰色の瓦で、まるで石のような質感なのだけれど、金沢の瓦は少し違う。
真っ黒で艶があり、まるでオニキスのような質感なのだ。
調べてみると、石川県の瓦は焼き物の釉薬をかけて焼き上げる釉薬瓦なので、汚れにくく、寿命も長く、そしてなによりよその瓦にはない美しさがある。
まさに、美しい髪のようなその質感は、もし金沢という町が女性なのであれば、それはそれは明らかに美人なのだろうと、そう思わせてくれる。
今日は、イシノアサミ「ひと色展」に訪れるために金沢へやってきた。
春と夏のちいさな隙間がとっても心地いいんだよねぇ、とでも言いたげな、春空なのか夏空なのかわからない快晴の空が、人々や新緑の木々や車や町を覆う。車の窓を開けると、青や緑の涼しい風が車のなかを吹き抜けていく。
イシノアサミ「ひと色展」の付近に着いたけど、約束の時間よりも90分以上早い。
そしてなおかつ僕は博多の人間である。
博多の人間は、待ち合わせの時間に少し遅れてゆくくせがある。
これはうっかりとか、待たせてやろうという魂胆でやっているのではなく、たぶんだけど、相手を待たせるということで自分が下手(したて)に出て、
「すいまっしゃえぇんっ!娘がぐずってしまったもんやけんっ!ほんとすんましぇんっ!」
「なあに、別にいいとよいいとよ、なんね、娘さん、パパと離れるのがいややったとかねぇ」
とかなんとか、最初からハイテンションでも違和感ないし、会話の糸口が自然とできるみたいな作用があるのではないかとそう思っている。
そしてイシノアサミは、ひとと接する時にとても緊張すると豪語している。これはぴったりの時間に行ってあわあわどぎまぎちょきちょきさせるよりも、すこし時間をスライドして訪れよう、と博多っ子気質が炸裂するのであった。
「ひと色展」会場から車で13分ほどの古めの喫茶店に突入する。白壁に、赤茶けた丸い瓦のスペイン的な建物。
店内はビロード風の赤い布張りの椅子とソファ。
さっそく、ブレンドとチーズホットサンドを注文する。
しばらくすると女性が料理を運んできた。ぼくは腹が減っていたので、チーズサンドがテーブルに置かれるか否かのその瞬間にチーズサンドをひったくり、かぶりつく。
よく見ると、チーズサンドの脇にポテトチップスが添えられている。あたいそういうの好きなのよ、なんかハンバーガーとポテトみたいな組み合わせ的なそういうやつが好きなの。どれぐらい好きかっていうと、きなこ棒くらい好きなの。ばりぼりばりぼりりりり。
ひとごこちついて、コーヒーを啜って驚いた。
深みのあるチェリーのような風味だけを残しながらも、酸味はほとんどない。そのあとに苦味がふわりと軽い通り雨のようにやってくる。うん、まさに至高のグルメ。
え、これって、めちゃくちゃアタリの店を発見しちゃったんじゃなかろうか。そしてホットサンドにはうっすらとカラシマヨネーズが使われていて、大人の味だ。いままで食べたホットサンドの中でも12本の指に入るぐらいの味である。あ!!!!!!!!!
博多時間は待ち合わせ時刻から数分の遅刻を厳とするのに、気づけばもはや待ち合わせの時間から5分も過ぎてる!
これは博多時間ならぬ、沖縄時間の「待ち合わせ時間に家を出る」というやつではないかっ!!!南下しすぎたっ!ホットサンドが悪い!!結論、国が悪い!
喫茶店から音速を越え、ひと色展会場の前をドリフトし、すぐ横の駐車場に滑り込む。
(なお、すぐ横の駐車場は料金が高いので、すこし離れた別のところに停めるほうがよいそうだ)
あった…。
イシノアサミ ひと色展 会場。
noteの写真でよく見るやつだ。
車を降り、てくてくてくてくと、歩いてゆく。
すると、
イシノアサミだ。
展示スペースの隅で、姿勢よく本を読んでいる。
あれは、イシノアサミに違いない。
え、っていうか、え、めっちゃ美人のひとやん…
「ど、どうも、こんにちわ…」
「ああ!あんこさん!」
イシノアサミは一言でいえば、美しいひとのオーラをまとっている。
二言でいえば、おとな少女って感じがする気がする。
三言でいえば、木とか動物とかじゃなくてなんか草みたいな感じがする気がしないでもない。
だから、美しいおとな草少女って感じなのである。
そして彼女は瞬間瞬間に、まぶたでシャッターをきるように、ヒトやモノを見つめる。だから、
イシノアサミ
= 美しシいャおとッタな少草女ー
なのだ。
で、髪型的には、こんな感じなのだ。
イシノアサミが、ひと色ひと色手掛けて、手描いていった「いろの子」たち。
彼らを生で見るのは初だったのだけど、なんだかこう、誰かが彼らを描いた、というような気がしなかった。
彼らはすでにこの世界に存在していて、それをイシノアサミが撮影したかのような、そんな印象である。
なので、生の「いろの子」たちと目が合うと、不思議な感覚になってくる。
きらきらというような音が聞こえたり、口の中に味のようなものが生まれたり、風が吹くような感覚や、涼しくなるような感覚。ほら、夏休みに寝転がってソーダバーをかじっているああいう感覚。そういう“感覚”のようなものが、つぎつぎにやってくる。
noteで写真で見るのと、生で見るのとでは、雰囲気が全く違う。
色の再現度という観点もあるんだけど、生で見ると、何人かの「いろの子」が笑いかけてくるかのような雰囲気もあった。
迷ってる人は、行ったほうがいいと思う。
ほら、あれだよ、金沢の寿司なんて、安くてめちゃくちゃ美味いし。観光名所たくさんあるし。行った方がいいよ、ひと色展。
腰の砕けているあんこさんは、赤いスツールに座ってイシノアサミとスペシャル対談をしていたのだけど、しばらくするとダンディーな長身の男性が現れた。イシノアサミいわく、会場となっている、ここのゲストハウスのオーナーさんなのだという。
イシノアサミとも初対面なのだけど、さらに初対面のオーナーさん。
それなのになぜか、オーナーさんは一緒に御飯を食べようと言ってくださり、ひがし茶屋街の食べ物をテイクアウトしてきてくれて、三人で食卓を囲むことになった。
腰の砕けたぼくはきのこのようにテーブルのそばに生えて、オーナーさんとお話させていただく。欄間や砂壁があんまり他所では見ない作りのもので、興味をそそられる。そうやっていろいろと話が発展していく間、イシノアサミはキッチンでしゃかしゃかしゃかしゃかと食器の準備をしたり大忙しなんだけども、音を立てずに準備をしてゆく。
おとな少女たるゆえんである。
オーナーさんテイクアウトの品を囲んで三人で食事をして話しをしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。
人と出会う、ということが難しくなった世の中で、この日の食事の時間は、とても貴重な体験だった。
あっと言う間に時間は過ぎて、帰る時間となった。
たくさんの訪れた人達が、ひと色展会場に、書き置きを残している。
ぼくも何かを書き残さねば。
イシノアサミがお茶請けに買ってきてくれたひよこ豆の甘納豆。
黄色で形も色もまるでひよこ。
よし、とにかくそれを描こう、ということで、もてるすべての力を使い、ひよこたちをかきつらねた。
はて、イシノアサミとはどういう経緯で出会ったのだろうか、と思い出してみるけど、最初のきっかけは、この「いろの子」にコメントしたことが最初のことだったような気がする。
noteで会う友人三人目のイシノアサミ。
顔も素性も知らない人たちが集まるnoteでできるご縁。じゃあ、noteでは、「いちかみ」にあたる部分はなんなのだろうと考えた。
記事の最初の1、2行のような気もするけど、それはもう喋っているのと同じことになる。髪の毛は、見るだけの印象だからそれは違う。
そうなると、その人の記事のヘッダーが、「いちかみ」にあたる部分のような気がする。
ということはぼくは、イシノアサミの「いちかみ」である「いろの子」に惹かれて、交流が生まれたわけであります。
みなさん、ひと色展、行ったほうがよいですよっ!なんか素敵な出会いがあるはずっ!
イシノアサミさん、栗の甘納豆どちゃくそに美味しかったそうですっ!!ありがとうございますっ!
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