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【連載】アフリカの野生アニマル物語 (20)忍者ヒョウ

足音を消し、気配を殺す。
茂みを歩くと、黒斑模様の毛皮が背景と同化する。
木登りが得意で、枝の上から獲物に飛びかかる。

仕留めた獲物は自分より大きかろうが重かろうが枝の上に運び、
誰にも邪魔されずに食事を楽しむ。
単独行動主義派で、早朝と夕方から夜にかけての時間帯を除くと、
目撃率は銀行預金の利率といい勝負。

ヒョウはまさしくサバンナの忍者であり、スナイパーだ。

ヒョウの狩りは実に巧妙に行われる。

インパラやガゼルを茂みの中で待ち伏せ、
あるいは、木の上から飛び降りて急襲する。

牙や爪は的確に頚静脈か頚椎の急所にヒットし、
獲物が苦しむ間もなくとどめを刺す。

ヒョウの美しい毛皮はコートその他に化けて、
香水臭いおばちゃんたちに買われていく。
違法な密猟のせいで、ヒョウは最も貴重で、
出会うことさえ難しい大型肉食獣になってしまった。

南アフリカの紙幣には、ライオン、バッファローなど、
“ビッグ・ファイブ”と呼ばれる代表的な野生動物が印刷されているが、
ヒョウは最高額の200ランド紙幣だ。

ヒョウは、川や湿地の周囲に形成された、
小規模な樹林をすみかにしていることが多い。

ケニアのサンブルで横倒しになった枯木に
1頭のヒョウが乗っかっていた。

足を4本ともだらりんとぶら下げ、うとうとしている。
忍者らしからぬスキだらけの昼寝だ。

ヒョウ出現の情報が、サファリカー同士の無線で素早く回され、
次々とその川沿いに車が集まってきた。

周囲がざわついてくると、ヒョウは目を覚ました。
車の集団をチラとも見ず、くつろいだ姿勢になった。
「さてもうすぐ日が暮れる。今夜はなにを捕まえようかな」と
これからの予定とか作戦を思案しているようにも見える。

彼、あるいは彼女は、その後、川下の方に姿を消した。

その消え方は、木の葉隠れのように一瞬の出来事だった。

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