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【連載】アフリカの野生アニマル物語 (15)インパラのハーレム

しなやかな身体が夕陽を浴びるとき、インパラは黄金色に輝く。
瞳も黒真珠のように光沢を放ち、見る者を射すくめる。
野生の輝きはなんて美しいのかと、陶酔してしまう。

インパラは、ランニングフォームにも息を呑む美しさがある。
背中を弓反りにし、四肢を前後に大きく伸ばして飛ぶがごとくに走る。
ジャンプは空中に静止しているように見え、
「跳ぶ」と書くより「飛ぶ」がふさわしい。

インパラは鹿ではなく実はウシ科。
ウシが飛ぶなんて、驚嘆すべき芸術ではないか。

サファリに出ると、インパラを見られないということはまずない。
だから、そのうちにインパラを珍しく思わなくなり、
サファリ客が写真を撮らないと、サファリジープは素通りしてしまう。
それが僕にはもったいない。

力のある成熟した雄は20~50頭の雌と、
その子どもたちを率いて自分の王国、つまりハーレムを築く。
発情した雌とならランダムに契りを結び、
自分の優れた遺伝子を後世に残そうとする。

雌ばかりかと思った群れに近づくと、
ふいに雄が登場し、竪琴のような角をジャキッと構える。
その表情は厳しく、「やいやい、なんだてめえは」と警戒している。

そんなハーレムの敵は、捕食者ばかりではない。

ハーレムで生まれた少年インパラは、やがてハーレムを出て、
若い雄だけのグループに加わる。
少年は雄社会で日ごろから仲間同士で角を突き合わせて特訓に励み、
いつの日か自分のハーレムを築こうとチャンスを狙う。

時機が熟せば、他者のハーレムに殴り込みをかけ、
雌の一部を横取りしたり、君臨した雄を排斥したりして、王になる。

王になれないと…、
タンザニアのタランギーレで見た雄は、表情に自信がなく、
サファリカーがやってくると及び腰で逃げた。

ケニアのマサイマラでハーレム乗っ取りを企てた雄は
一撃で追い返され、しょんぼりしていた。

野生の世界において、雄は力がすべて。
けれども、甲斐性のない雄だって居ていいのだよ。

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