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【旅日記】全国あちこち港めぐり1

《プロローグ》
港には物語がある。

あるとき、魚網を無造作に積み上げた鉄筋民家の前で薄茶色のネコと出会った。ぼくと視線が合った彼は、ついて来いよというように「ミャア」と鳴き、先に立って歩き始めた。

言われた通りについていくと潮の香りが強くなり、やがて小さな漁港へ出た。「ミャ」。ぼくを自分の縄張りへ連れてきたことに満足したのか、彼は一段高い堤防を乗り越え、消波ブロックの隙間に姿を消した。

思想に右左、裁判に白黒、戦に勝敗があるように、海派か山派かで勢力が二分するように思う。

ぼくは海派だ。
海べりに立ち、前方を見渡す。
水平線の向こうにある国へ行ってみたいという冒険心。
深い海を北へ南へ旅しているクジラを思う想像力。
波はどこから来てどこへ消えていくのかという好奇心。

台風接近中に外海へ出た八丈島行きフェリーの二等室で
悶絶していたこともある。

勇気が欲しいとき、冷静になりたいとき、ぼくは海を見にいく。

海を見るには港がいい。日本には主な商港が1100、漁港は3000以上(社団法人日本船主協会ホームページ)もあるという。フェリー港、観光港、ヨットマリーナなどを含めるともっとある。

海に囲まれた日本の港は地形や水深、潮の流れをうまく取り入れ、商港であれ漁港であれ、機能的かつ個性的に築かれてきた。防波堤の角度や配置が芸術的な港も少なくない。

そして何より、港には人々の営みがある。あの日出会った薄茶ネコとの友情も、海を見に港へ行く理由の一つなのかもしれない。

旅立ちの港、釣りの港、祭りの港、うまい魚を食わせてくれた港…。
これは愛すべき港たちの記録なのだ。

/もちろん続く。/

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