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【旅】ミャンマーそろり旅3/ヤンゴン環状線

ヤンゴンとマンダレー間を飛行機で移動した。楽ちんだった。
深夜のタクシーをつかまえた。ボロ車のドアはちゃんと閉まらなかった。
トラックの荷台を改造したバスに飛び乗った。がたぴし揺れた。
小さな村を馬車で駆けた。赤ちゃんとお母さんが一緒だった。
交差点で客引きする自転車サイカーと運賃交渉した。三人乗りも可能だ。

次は何に乗ろうか。

軍事政権の潜水艦はさすがに無理だろうと思い、
ヤンゴン鉄道の環状線に乗ってみることにした。

約3時間かけて、ヤンゴンを南北縦長に1周するという。
乗車賃は外国人料金で1ドル。
中央駅では発車ホームに行くのに、線路の上を歩いた。

ヤンゴン鉄道は、走ると本当に「ガタンゴトン」と鳴る。
木製ベンチはあらかた埋まり、
ほんの小さな隙間を見つけたおばさんが「どっこいしょ」と
お尻を割り込ませてくる。
だが、知らない人の片足が膝に乗っかっていたとしても、
誰も文句は言わない。ミャンマーの国民性を見た気がする。

列車が走り始めると、民族衣装「ロンヂー」をはいたおじさんが
車内中央に歩み出てきて、演説をぶち始めた。
もちろん何を言っているのか分からない。

観察していると、肩から掛けた布カバンから小瓶を取り出した。
人差し指で中身をすくう。白いクリームだ。
するとそれを乗客の膝や手首に勝手に塗りつけていくではないか。

いぶかしがる乗客はおらず、
なされるままに白いクリームを塗りこまれていく。

そして「ふんふん」と何かを納得したような表情でうなずき、
おじさんから謎の小瓶を買っていく。関節痛に効くのか?

それが終わると、別の男が現れ、
1枚の紙をかざしながら、同じように何かをわめく。

今度はビルマ語の経典のようなものらしい。これが飛ぶように売れた。

八つ切りのスイカ、コップ一杯の飲み水、豆菓子…。
車内行商は大声、早口が売れる秘訣のようだ。

車窓を流れる景色も五感を刺激した。
田畑の緑は目にまぶしく、村の子どもたちが走り回る歓声が聞こえ、
ドブ川に放置されたゴミの山からねっとりとした臭気が鼻をめがけて漂う。

田園風景の中の駅に停車すると、窓から麻袋に入れた玉ネギや、
ひもでくくった葉菜の束がどかどかと投げ込まれる。
30㎏ほどの固まりなので、身構えていないと後頭部が危ない。

農民家族総出で、ヤンゴン市街のマーケットに運ぶのだろう。

土の匂いに包まれた列車は、
ガタンゴトンと歩くように線路をいくのであった。
(つづきます)

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