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LEONE #13 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第6話 2/2


「うあああああっ!」

「くああああっ!」

組織員たちが悲鳴を上げながら、一斉に床を転がった。男も何メートルを飛んでそのまま壁にぶつかった。

「ああああっ!」

そしてセロン・レオネもまた、壁にぶつかって床に転がった。

しかしセロンが彼らよりマシだったのは、少なくとも頭をぶつけて気を失わなかったことだった。セロンは床に転んだあとすぐに体を起こし、辺りを見回した。あっちこっちに壁、またはぶつかって倒れた組織員たちが転がっていた。

セロンはしばらくぼーっとした状態で彼らを見つめながら自問した。

(今、何が起こったんだ?)

彼は自分の拳を見つめた。しかしすぐに理性を取り戻した。

(そんなはずない。まだ薬が効いてるのか)

セロンは相変わらず焦土化している周辺を見回し、幸い近くに落ちていた神像を拾った。

今の衝撃が本当に自分の拳によるものなのか、それともどこかの宇宙怪獣の攻撃なのか、そんなのはどうでもよいことだった。

重要なのは逃げ道ができたという事実だけ。

セロンは体を起こした。急いで走るために足を運ぼうとした。

その時だった。

「この、クソアマ……!」

うめき声の中から、はっきりと聞こえてきた声にセロンは反応した。

さっきの男だ。壁にぶつかっても気を失ていないその男の手には、いつの間にか拳銃が握られていた。セロンが何かを言い出す前に彼はすでに引き金を引いた。

フロアー全体に数回、銃声がひびいた。

パン

パンパン

パンパンパン。

そしてその銃声の後も、彼は相変わらず引き金を引いて……いた。

セロンは強く目をつむった。しかしセロンは何の痛みもないことを不思議に思いながら目を開けた。ゆっくり自分の手を開けて確認したあと自分の体を見つめた。どこにも異常はないと判断してから、男がいる方向を見つめた。

男は相変わらずセロンに銃を向けたままだった。

男の額に一つ、胸元に五つ。容赦なくあいた穴から血がポタポタと流れていた。

「見なくてもいいものを見せてしまったな、レディ」

それと同時に後ろから声がした。セロンは素早く振り向いた。

そこにはまた違う男が立っていた。

彼はセロンに丁重にな目礼をしながら口を開いた。

「余計なお世話だったらどうか許してください。しかしこの身は正義の執行者、力のない人々の最後の避難所。狼藉ものに囲まれて、凌辱されそうな危機に直面しているあなたを見過ごすことはできなかったのです」

「……正義の……何…?」

セロンはポカンとした顔で彼の言葉を繰り返した。

新しく登場した男はいまだに煙が上がっている拳銃をくるっと回し自分のトレンチコートのポケットに差し込んだ。そして彼は違う手で自分の目を覆っていたが、おそらく裸のセロンに気を使っている様子だった。

男は相変わらず目を覆ったまま低く優しい声で話しを続けた。

「正義の代行者、か弱い人々の最後の避難所。とにかくレディ、私の紹介はあとでゆっくりと。まずは服から……」

「お……おい」

「うん?」

「コートから煙が出ているんだけど……」

「何?、熱っ、つつ!」

男はびっくりして自分のコートを触り、悲鳴を上げながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。おそらく銃が冷めてない状態でコートに差し込んだせいで少し焦げたようだった。

セロンはこの正体不明の男がぴょんぴょんと飛び跳ねている間にも、火傷して赤くなった手に息を吹きかけながら、ポケットの銃を取り出す間にも、悲しい声で文句をつぶやきながらコートを見てる間にもポカンとした顔で彼を見つめているだけだった。

いや、正確にはその男に視線を向けたまま必死に頭を回転させていた。この状況を理解するために努力をしていた。

その間に男はまるで何事もなかったように姿勢を正した。茶色の髪の毛を整えたあと、片手では目元を隠しセロンの前に近付いた。

「正義の代行者、か弱い人々の最後の避難所」

「いや、それはさっき聞いた……」

「とにかくレディ!」

男がいきなり大声を出したせいで、慌ててセロンはうなずいた。そして男は丁重に頭を下げて挨拶をしそのままセロンの前に片膝をついた。

「時間がない、まず俺の紹介をしないといけませんね」

まずは服からじゃないのか。

変に思いながらもセロンは頷いた。男は胸元に手を当てると咳ばらいをした。

「ゴホンゴホン、レディ。この身はすでに数十の銀河を旅し、多くの人々に正義の光をもたらすことによりついたあだ名も数々」

男は胸元から手をはなして、手を開いた。そして次々と指を折りながら聞いてもいないあだ名をいくつも挙げた。

「“リサイクラー”、“悪の掃除者”、“狼のような者”……他にもいろんなあだ名があるが、それらすべてが私の呼び名です。しかしレディ、母から授けられた私の名前を聞きたいのであれば……」

そこで、男は大きく深呼吸をした。

息を吸った後それを吐き出すように低くて重厚な声で囁いた。

「我が名はビル・クライドです」

そして男はそのまま顔を上げた。

セロンと男の視線が合い、男は無言でセロンを見上げた。沈黙のまま男はセロンをじっと凝視した。

(なんだこいつ。何でこんなにじーっと見てるんだ?)

そう思ったセロンは、ふと自分が今も裸体だということを思い出した。

事実、セロンにとって自分が裸体だということはそんな重要な問題ではなかった。彼の精神は本来、身体健康な20代の男だったし、ついさっき女性になったことに対していまだに実感がなかった。年頃の少女が裸体をさらすことで感じる羞恥心なんて、セロンには想像もつかなった。

あえてセロンが感じる否定的な感情といえば、自分に対するいやらしい視線によるわずかな不快感程度だった。

しかしさっき頭に風穴ができてしまった彼は、ほかの組織員たちの不安感を消すためにわざとセロンの首を絞め、胸を揉んだ。

立たせて裸体を丸ごとさらけ出し、下品な言葉で罵った。彼は性別とは関係なく肉体的痛みと羞恥心を呼び起こし、セロンはいまだにその気分をすべて振り切ってない状態だった。

だからセロンが顔を赤く染めながら無意識に腕を上げて胸を隠したのは、あの事件の影響による偶発的な行動であった。

問題はそのような行動を無意識にしたという事実自体が、セロンにもっと羞恥心を呼び起こしたということだ。

「いや、その。ちょっと待て」

セロンは慌てながら男、いや、ビル・クライドから離れた。

彼自身がすでに感じていた。精神と身体のシンクロが進行したかのように、頬はもちろん体全体が赤く燃えてきていた。

(俺が何で、どこから来たのかもわからない馬の骨の前でこんな……!)

セロンは自分を責めながら、倒れた組織員の一人から慌てて上着を脱がした。

ビル・クライドは相変わらずセロンを見つめ続けていたが、それに比べてセロンは彼と目を合わすこともできなかった。頬を赤らめて視線を床に向けた。ただ手だけが素早く動かし服を脱がしていた。

「その、いや、おい。勘違いするな」

脱がした上着を着ながら、セロンは言い訳のような言葉を並べた。

「今これは君がいるから恥ずかしがってるわけじゃないぞ。ただこのちょっと慣れない状況で、自分が無意識にした行動に驚いているだけだ。クソっ。バカみたいなこと言ってるって自分でもわかってるけど……」

その時黙ってセロンを見つめていたビル・クライドが立ち上がった。

あ。

セロンは無意識に息を止めた。

クライドの目からは、さっきまでの丁重な雰囲気が完全に消えていた。彼の顔は固まり、氷のように冷たい目をしていた。

突然の変化に彼が慌てている間、クライドはあっという間にズカズカとセロンに近付いてきた。そしてセロンは何かの行動をとる前に、クライドの手がセロンの顎を軽くつかんだ。

え。

えぇ。

セロンは今完全にあっけにとられていた。彼に出来ることはただボーッとクライドを見つめるだけだった。そしてクライドは軽くつかんだセロンの顎を少し上げ、セロンの顔に自分の顔を近づけた。そうして互いの鼻と鼻の先が当たりそうな距離まで顔を近づけてから……顔をしかめながらしゃべった。

「なんだ。子供じゃないか」

え。

……あれ?

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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」


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