LEONE #12 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第6話 1/2
序章:Running On Empty
第6話 ビル・クライド登場
「黙れ。下品なヤツが」
セロン・レオネは血が混ざった唾を、ペッと床に吐きだした。
「貴様の手に引きずられてルチアーノに犯されるくらいなら、ここで舌を噛んで死んだほうがましだ」
(機械の体だから舌を噛んでも死ねるかはわからないが)
言葉を飲み込んだセロンは拳を握って、両手を上げた。
外見はどうであれ、アンドロイドはアンドロイドだ。普通の女の体より耐久性は高いはず。少なくとも女子高生の拳よりは強いはずだ。もちろん痛覚も具現化されているようだが。
それに比べて、男はさらに顔をしかめていた。それは怒りや痛みに起因するするのではなく、嘲笑からくるものだった。
「…あきれた。お前、今俺とやろうってのか? 拳で?」
「そうだ」
「はあ? お前じゃなくて俺の頭がどうにかなりそうだ」
組織員たちが爆笑した。
セロンは歯を食いしばった。正直、自分でも呆れて笑ってしまいそうだった。
もうダメだということは知っていた。何とかこいつらをそそのかしてここを抜け出すという計画は、あのイカレ野郎が出てきて完全に失敗してしまった。
おそらくセロンに残っている未来は、彼らの言うとおりこのままルチアーノのところに連れていかれることだろう。
そしてルチアーノが、本気であのふざけたことを言ったのであれば、今夜はルチアーノが望んだとおり、乱暴で熱い夜になることに間違いない。
だから今セロンがやろうとしているのは、何の意味もない行動であった。そんなことくらい、誰よりもセロン自身がよく知っていた。
しかし、仮にルチアーノの女になったとしても、いつかセロンは復讐をするつもりだった。何年、年十年かかってもいつか必ず彼の額に銃口を当て、「タリアの復讐さ」と囁いてやるつもりだった。
思いっきりかかってきやがれ、このクソ野郎ども!
どうせなら傷跡でも残してくれ。この俺、セロン・レオネが、今日の屈辱を絶対忘れないように。
「おいおい」
男があきたように手を振った。
「ルチアーノが今日お前を抱いて一日で飽きるかもしれない。そしたらヤツは間違いなくお前のその体を俺たちに渡すのは目に見えてる、その時を考えてでもいいところ見せたほうがよくないか?」
「……殴られてからでもそんなことが言えるかな」
「……小娘が偉そうに。おい、みんな銃は控えとけ、素手で十分だ」
男はふぅ~と息を吐いて首の関節を回した。他の組織員たちはそれぞれクスクス笑いながら彼の言う通りにした。
セロンは息を止め姿勢を構えた。敵に向けて囁く。
「行くぞ」
「はぁ、クソったれ……」
男も適当に拳を握って構えた。彼は渋々相手するという感じで、負けるどころか、一発も当たるとは一ミリも思っていないのが目に見えてわかった。もちろんセロンもそんな期待は少しもしていなかった。
それでも、セロンは床を蹴った。
タッ!
タッ!
タタッ!
それこそ女子高生並の、あまり早くもない走りで床を蹴りだした。わずか数歩で、男の目の前に到達し拳を振り上げた。
男はただその拳を軽く握るつもりで手を伸ばした。
セロンの拳が、男に向かっていった。
そして……。
轟音とともに、巨大な衝撃が艦船全体に響いた。
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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