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LEONE #40 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第8話 1/3


1章:The Good, The Bad and The Ugly

第8話  カウボーイ(2億GD)の夜 パート3


発信機を捨てて馬小屋から逃げ出した後、二十分。一番先にセロンに追い付いたのは例の保安官たちだった。

「おい、お嬢さん!」

向かいのビルの屋上から、カルビンが愉快な声で叫んだ。

「俺たちに捕まったほうがまだ安心でしょ。優しくしてやるから!」

「ふざけるな!」

セロンは悲鳴のような声を上げながら、狭い路地に飛び込んだ。

発信機はもう使えないはずだが、その役割は十分果たしたようだ。

首席保安官が持つ発信機を追うレーダーで彼らは真っ先にセロンを発見した。そして、そのとたん他の賞金稼ぎたちもこの騒動に気付いたのか、一帯に集まり始めた。

タイムアタックは始まっていた。賞金稼ぎたちはすぐさまこの一帯を締め付けてくるはずだ。

支店長のやろう、あの時殺すべきだった!

不可能なことを知りながらも、そのような後悔が思い浮かぶのを防ぐことはできなかった。

セロン・レオネとしては信じがたいことだった。

その男、『ペイV』銀行の支店長、アダム・コープランド。

恐怖心から何もできない男と見くびっていたが、何と発信機が付いたカバンを押し付けることで、見事に裏切ってくれた。

問題はそれだけでなかった。発信機がカバンに付いていたということは、すなわち、自分の情報が漏れた場所が銀行であることを意味した。

位置も、写真も、全部銀行での取引が問題だった。

それはつまり…………。

「本当に口座を追跡されたのか…………!」

知らないうちに強く噛んだ唇から、細い血潮が流れた。

少なくともセロンが知る限り、セロン自身こそレオネ家の当主であると同時にレオネ家の唯一の生き残りだった。

一体どこから口座の情報が漏れたのだろうか?

不注意に情報を管理した自分のミスだったのか? 

それとも、奴らが死んだ者をよみがえらせて、拷問でもしたのだろうか?

それともレオネ家ではないのに、その口座について知っている人がいたというのか?

「ここだ!」

その瞬間、路地の反対側から、ある賞金稼ぎの集団が道を塞いだ。セロンは急いで立ち止まろうとしたが、足がいうことを聞かなかった。彼女がよろめいている間、賞金稼ぎたちは笑いながら銃を抜いた。

しかし……。

「このバカ野郎、銃は納めろ!」

「生け捕りだって聞いてないのか!?」

雷のような叫び声とともに現われた、もうひとつの賞金稼ぎの集団が彼らを蹴飛ばした。

セロンはそのすきに、後ろ向きに逃げ出すことができた。

こんなことが、もう何回も繰り返されていた。セロンには圧倒的に不利な状況だったが、彼女にもまだ二つの有利な点があった。

ひとつ。生け捕りしないと懸賞金が出ないという条件のおかげで、敵が武器を使うことができない。

そしてもうひとつ。

ダッ!

「いやは! 当たった!」

あちらの屋上で狩人一人が叫んだ。セロン・レオネは眉をひそめて、肩に刺された注射器を抜いた。その姿を見ていた屋上の賞金稼ぎが浮き浮きした声で叫んだ。

「ゾウも倒せる麻酔銃だ! これ以上は逃げられない…………あれ?」

セロンは彼に向かって嘲笑をし、注射器を取って床に投げつけた。

その後、何事もなかったように、再び路地へ走り去った。

賞金稼ぎは、呆然とその背中を見つめていた。

そしてもうひとつ、セロン・レオネの体は疲れることがない。薬物も通用しない。

…………

…………

…………


「フム」

カルビンはゆっくりと双眼鏡を下ろした。彼のそばにいた保安官が尋ねた。

「どうです? カルビン兄貴」

「どうも普通の女ではないようだな」

彼はあごひげを撫でながら答えた。

2億GDの懸賞がかかった時点で、相手が子供だとしても油断してはならない思っていた。

外見だけでターゲットを判断してはいけないということは、経験上身についていた。実際過去には、ただの平凡な老婆だと思っていたターゲットが希代なる殺し屋だったこともある。

今回のターゲットが特に脅威的だとは思わなかったが、それでもいろいろと変な部分が多かった。

「薬も効かない、体力も強い…………その上、これほどの数の賞金稼ぎに追われながらも、全然怖がっていない」

こちらは数百人の老練な懸賞金の狩人だった。

普通の女の子なら、逃げるどころか、ビビって小便でも漏らさなければ幸いな方だったが、とにかくターゲットは今まで逃げおおせていた。

もちろん、『カウボーイの夜』が始まった以上、この都市を抜け出すのは不可能なことだ。しかし、これだけの狩人が動く時は、時間が長引けば引くほど、予想できない事態が発生する確率も高くなる。

「仕方ない」

カルビンはため息をついた。隣に立った保安官がうなずいた。

「では、やはり……」

「そう。お前たちには申し訳ないけど、取り分が減る方法を使うしかなさそうだ」

彼がさっと体を回した。まるでターゲットがどうなっても構わないといった態度だったが、実情は少し違った。彼は少しだけ取り分が減る代わりに、より確実な方法を選んだだけだった。

「言葉が通じ合うやつらには、全部連絡を入れろ。今すぐ」

彼は冷静な声で付け加えた。

「包囲網を作って、しっかりとウサギの追い込みを見せてあげよう」


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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」

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