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テクノロジーによる思想の分断に、情報入手の民主化で歯止めをかける

都市開発とテクノロジーの融合は未来の街づくりを見据えた上で重要なミッションの一つです。

インタビュー第一弾は、ニューヨーク市で都市開発に関わるKarenさんに豊かな都市を作るために必要な情報提供の話を聞いていきたいと思います。

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Kohei: みなさん、本日もPrivacy Talkにお越し頂きありがとうございます。本日はニューヨークで都市開発に関わっているKarenさんにお繋ぎし、お話を伺いたいと思います。Karenさん、本日はお越し頂きありがとうございます。

Karen: 貴重な機会をありがとうございます。

なぜKaren氏と話そうと思ったか

Kohei: ありがとうございます。まずは彼女のバックグラウンドを紹介したいと思います。

現在はニューヨーク市経済開発会社(NYCEDC)のシニアバイスプレジデントとして、都市開発における新技術の活用と起業家育成に携わっています。ニューヨーク市のブロックチェーン活用戦略や公的資金で運営されるVR/ARラボに関わり、AIやデータ活用を中心に都市開発を進めています。

Karenさんは弁護士として、スタートアップや起業家のアドバイザーも複数務めています。以前立ち上げた法律事務所でテクノロジー企業の社内整備、ファイナンス、事業戦略を担当し、さらに ActionCam という、必要な人に情報を届けることを目的とした公共政策問題に関する教育サービスを立ち上げました。

加えて、Stanford Startup New Yorkの創設者として800以上のスタンフォードの起業家・投資家のネットワークを構築し、サウス・ブロンクスで教育プログラムを提供するミドルスクール Mott Hall Charter School のボードメンバーも務めています。

スタンフォード大学で学士を取得し、ハーバードケネディスクールで修士を取得後にジョージワシントン大学ロースクールで法務博士を取得しました。

本日は貴重な時間を頂きありがとうございます。Karenさん。

Karen: 本日は招待頂き、光栄です。

Kohei: ありがとうございます。早速今日のアジェンダに移っていきたいと思います。

ActionCam創業の理由は、オバマケア政策で混乱を招いたフェイクニュースと偽情報

Kohei: 自分も起業家として事業に取り組んでおり、Karenさんの取り組みはとても刺激的です。初めに、設立したスタートアップ企業 ActionCam のお話を伺いたいのですが、どういった経緯でスタートアップを始めたのでしょうか?理由と背景、設立時のモチベーションなどお伺いできると嬉しいです。

Karen: はい。改めて今日はありがとうございます、Koheiさん。

私が ActionCam を始めたのは、まさにオバマ政権でアフォーダブルケア法が署名された時期でした。オバマケアという名前を聞いたことがあるかもしれませんね、まさにその法律です。

米国に住む多くの人が当時心配したのは、加入済の健康保険の適応対象外に(自分が)なる可能性があるのかでした。ですが、適応外になるか否かを判断するのに必要な情報にアクセスするのは容易ではありませんでした。

当時は多くの人が混乱していました。法律事務所でその対応に追われたことを今でも覚えています。アフォーダブルケア法に詳しい同僚の弁護士に確認し、質問に答えていました。

そのときに考えたのがコンピューターや家の電話、スマートフォンなどで(人々が)適切な情報を入手する方法はないかでした。

十年ほど前、不適切な情報が多く出回っていました。今もそうですが、米国では大量の情報がオンラインに溢れ、適切な情報を探そうにも正しさを判断するための出典を見つけるのも難しかったです。インターネットの世界で誰もがブログ、メディア、投稿へのコメントなどコンテンツをアップロードできることも、正しい情報を見つけにくい原因の一つです。

オバマケア政策がどんな影響を実際にもたらすか分からないことは混乱を生みました。人々は、(政策が)自分に与える影響を懸念するようになっています。

そうしたときに信頼する人からもらう情報とは別に、必要な情報を見つける場所をプラットフォームとして作る必要性を感じました。政策によって(自分はヘルスケアサービスの)恩恵を受けられるのか、あるいは恩恵を制限されるのか理解できるようにしたかったです。

ヘルスケアサービスを使うには、真実であり、正しく、ポシティブな情報と、そうでない懸念すべき情報との線引きが必要でした。

ActionCamを始めたのはそういう背景からです。オバマケア政策で顕著になった、誤情報の問題を解決したいと思ったのがきっかけでした。

政治や社会問題の事実を対話するフォーラムが分断を救う

Karen: 特に、情報の出典の信頼性だけでなく、情報自体がわかりやすいものであることに配慮しました。

弁護士、政策立案者、経済の専門家でなくても、内容を理解できる必要がありました。世間一般の方々が、政策が自分にどんな影響をもつかをわかることが大切です。

先ほど話した、情報の線引きと情報のわかりやすさを作ることは ActionCam を立ち上げた理由です。とりわけ、一般の人が日常的に政策を理解して公共サービスを受けられる仕組みを作りたかったですね。政策を実行するだけでなく、人々が集まって理解し、考えを共有する場を作ることは重要です。私たち一人ひとりが何を懸念に考えているかを(市民は)理解する必要があります。

社会に政策が受け入れられるにはなにが問題かを考えます。

オバマケア政策では、米国の既存のヘルスケア保険制度に与える負の側面が大きかったですね。これ以外にも、超党派が進めた移民政策の転換やシリアの銃規制も考えると、オバマ政権で議論された政策の一部は(人々に)負の影響を与えた問題と言えると思います。

様々な考えをもつ人がいることを前提に、多くの人が(政策を)理解できる仕組みが必要だと思います。

ActionCam は、情報の理解を促すために動画やインフォグラフィックを積極的に取り入れました。人々が自ら行動を起こせるように意図していました。

オバマケア政策に関して、ActionCam では、ある地域でヘルスケアサービスを使えるという情報提供をしました。サービスを受けるまでのアクションを伝えることで、政策理解の次の行動を促します。

(ActionCam を始めて十年経つ頃、ActionCam というサービス名称をAct in Factに変えることを考えました。私たちのモットーである真実、行動、インパクトを名前に反映させたかったのです。ただ、公式に名前を変更することはできませんでした。)

現在、米国の政界や社会全体で、支持する考えにより人々が分断されていると感じます。収集する情報出典に依存し、他者の考えを受け入れなくなり、真実を知る必要性を感じなくなっている気がします。

ですから、建設的な議論ができるフォーラムのような場が必要です。共通言語やフレームワークを用いて対話し、政治や社会問題の事実を共有する場が必要です。私たちはそうした場を用意したいと活動してきました。十年前にも場作りと対話が必要でしたが、今はそうした場が一層求められていると思います。

Kohei: なるほど。提案された政策のもつ便益を示す情報に、容易にアクセスできることは大切ですね。政策があまりに複雑だと、市民が理解できず恩恵を受けられないのは問題だと思っています。私は地方政治に関わった経験がありますが、政策を(市民に)理解してもらうのは骨が折れると学んだのです。

テクノロジー至上主義による思想の分断に、情報入手の民主化で歯止めをかける

Kohei: 内容を理解する以外に、新たな情報を入手する方法が少ないことも問題だと思います。市民の政策(情報)の入手状況について、当時どのような取り組みをし、どのような変化があったのでしょう?

Karen: その問題はいくつかの出来事が層のように重なっているので、まずその層を整理する必要があります。

図 市民に公共サービスを届けるために解決が必要な3つの問題

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情報入手は、社会で生活する人々にとって問題の一つです。これを解決するには、基礎的な教育が必要です。誰もが情報にアクセスできるには、情報入手とは何かを先に考える必要があります。同じ情報でも、読み手が全く異なる解釈をすることもあります。

最も深刻な問題は教育だと思っています。

政策立案者や弁護士は、テクノロジーや政策で多くの問題を解決できると思っています。しかし、実態は異なります(テクノロジーや政策だけでは解決できない)。私たち弁護士や政策立案者が事実に基づいて思考し、メディアを通じて全ての人が理解し、社会の一員として参画できる環境を用意する必要があります。

これが一つ目の問題です。

二つ目の問題は、デジタルリテラシーを学ぶ機会です。

オンラインで入手できる情報はますます増えますが、(個人の)課題に(役立つ)真実の情報を理解するのが重要です。

どこの情報源から発信されているのか。それは正しい情報なのか。
撮影された写真は、真実を映しているのか。

全ての(情報)技術の背後には、情報にアクセスする人々がいます。人々はウェブサイトに掲載された情報を当たり前のように見るようになりました。

インターネットの公開情報を理解することに加え、私たちが目にするそれらの情報は、私たちのネット上での活動をもとに選別されていることも理解すべきです。

図 見たい情報しか出てこないインターネット検索の問題

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インターネットでの活動履歴によって、インターネットで入手できる情報が異なることは理解すべき重大なことです。逆に、見たくない情報を入手する機会はありません。プラットフォームの仕組みは、私たちが入手できる情報を自然と決めているのです。プラットフォームが持つそうした仕組みを理解する必要もあります。

教育を通じて、情報リテラシーを身につけることは大切です。その一部を紹介しました。教育機会を持てること自体も、その人の経済的な自立を促すために必要な問題です。

Karen: 私が目指すゴールは、多くの人に情報を入手するための教育機会を提供することです。そうした教育環境を用意できれば、キャリア形成や経済的な自立を促すことにつながると思っています。

情報に対する教育を通じて(リテラシーを)底上げすれば、教育を受けた人たちがテクノロジーやデータに関心を持ち、自ずと質問や自発的な活動が生まれてくると思っています。自発的な活動が生まれてくる環境を設計することで、人々は日々生きがいを感じ、自分が選んだ仕事や環境で働く人が生まれてきたり、起業家として社会をより良くしていく動きが生まれたりすると思います。

テクノロジーで前述した環境を提供することができなければ、教育機会の差によってテクノロジーの分断がさらに広がるでしょう。これは、特定の地域だけの問題ではなく、世界全体の問題です。特に、米国で起きている分断は、テクノロジーの発展を追求した一つの結果だと思います。教育は、私たちの経済発展や人々に機会を提供するためにも重要な役割だと思っています。

暮らしているコミュニティの中で、腰を据えて相手の話に耳を傾け、理解することが大切です。

これら3つの点が、情報入手の環境を整える方法だと考えています。

Kohei: ありがとうございます。教育は、新たなテクノロジーが社会に浸透する際に、必要な技術を開発する人たちと利用者のリテラシーギャップを埋めるという意味で大切だと思っています。

テクノロジーの便益を受けるには、十分にテクノロジーを理解して活用することが条件です。テクノロジーの良さを十分に理解する手順を飛ばし、テクノロジーの普及だけを進めると「自分たちの知らないところでデータが売り買いされている」という不信感を市民の方が抱くことになると思います。

テクノロジーを使って社会をよくしようと始まった取り組みも、テクノロジーの便益を理解する前に普及させたことで不信感を抱かれ、結果的に受け入れられず終わるのはもったいないと思います。特に、公の領域でテクノロジー普及を考える際にはテクノロジーの理解の壁の問題が出てきますね。

インタビューは第二弾に続きます。

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Interviewer, Translator 栗原宏平
Editor 今村桃子
Headline Image template author  山下夏姫

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