欧州が見据える20年後の新しい未来とルール設計
デジタル化が進んだ社会では、新たな消費者問題がデジタル空間で生まれるケースが増えてきています。
今回は消費者団体Euroconsumersで訴訟や学術部門を率いるマルコさんに、これからの消費者団体の在り方とデジタル関連法に関して、お伺いしていきたいと思います。
前回の記事から
消費者団体の立場からは、権利侵害に対してどのような対策が効果的だと思いますか?
様々なステークホルダーが対話することで生まれる新しい価値
Marco:そうですね。そういった問題が起きた場合、私たちはいくつかの企業と対話の機会を設けようと考えております。
権利侵害問題が発生した場合は、消費者と企業の間に立って交通整備をする人を任命する必要があります。法的にも問題ないコンテンツが理由なく自動フィルターで削除された場合等、権利侵害だけでなく、その都度最適な対応を促すことが必要だと思います。
ただ、対策だけでは不十分で、消費者団体が企業からも仲介者として信頼される必要があります。企業もユーザーからのリクエストに逐一回答していくことは難しいため、信頼できる仲介者が間に立って、適切な対策を検討することが重要です。
図:信頼できる仲介者が担う役割
権利侵害問題が発生した場合は、ここで紹介したような対策を取ることが考えられます。この対策に辿り着くまでに、これまで長い間議論を重ねてきました。これからも業界と消費者団体が間議論を重ね、より安全で消費者の考え方を尊重できるデジタル環境を準備したいと思っています。
Kohei:ありがとうございます。そうですね。私たちの国でも同様の問題が度々取り上げられるので、欧州に限らず、世界全体で考えるべき問題だと思います。とても難しい問題だと思いますが、未来に向けて解決策を考えていく必要がありますね。面白いテーマだと思います。
Euroconsumersの取り組みは先進的だと思うので、このテーマを引き続きお話ししていきたいと思います。次にお伺いしたいのは、Euroconsumerが発表した新しい取組に関してお伺いさせてください。Euroconsumerが主催で開催されたカンファレンスに私も参加させて頂き、非常に感銘を受けました。
ここからはEuroconsumerの新しい取組に関してお伺いできればと思います。カンファレンスではConsumer Empowerment Projectという新しいプロジェクトを、EuroconsumerとGoogleと共同でスタートしたと発表されていました。
Googleとの連携を始め、これまでの消費者団体では実施していなかったイノベーティブな取り組みだと感じました。
消費者を中心とした新しいプラットフォームとは一体何か
Marco:そうですね。ありがとうございます。今回はプロジェクトの話をさせて頂けるということで、数週間前に始まったプロジェクトの詳細をお伝えしたいと思います。Consumer Empowerment Projectの詳細はオンライン上に公開しているので、是非ご覧ください。
このプロジェクトは、カンファレンス内で欧州委員会のディディエ・レンデルス委員から発表があったように、新しい消費者アジェンダとしてスタートしています。
(動画:Consumer Empowerment Project - CEP | Overview)
この消費者アジェンダは複数のステークホルダーに参加してもらい、消費者からの声が届くような環境を整備し、消費者保護を実践するものです。
消費者団体が仲介役となり、産業界や市民が連携してデジタル社会の環境整備を進めていきます。欧州委員会ではデジタルサービス法やデジタル市場法が提案され、新たなデジタル法制度の整備が進む中、法規制だけに囚われない環境整備を進めていくことが必要だと考えています。
図:法だけに捉われない環境整備
法の下で求められる対応に限らず、複数のステークホルダーが集まって様々な利用者の権利を考慮することが重要です。消費者の権利を中心に、”一体どういった解決策が最適であるか” 異なるステークホルダーで集まって対話することが必要だと考えています。
EuroconsumerとGoogleはこの新しいプラットフォームを "Consumer Empowerment Project" と命名し立ち上げました。このプラットフォームには既に新たなパートナーも参画し始めています。
例えば、欧州の中小通信企業業界団体ACTAが参画してくれています。これまでは通信業界と大手テクノロジー企業はそれぞれ異なる分野で活躍していましたが、今は協力して同じ領域で協力する動きが始まっています。
どちらの業界もデジタル環境を整備していくためには重要な役割を担っているので、協力することが必要です。加えて、Prometheusというイタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャを中心に展開している市民団体シンクタンクも参画しています。さらに、市民の権利に関する科学的な研究を行っているベルギーを拠点としたAISBLも参加しています。
産官学が一緒になって生み出す新しいデジタル時代の学びの形
さらに、私たちは複数のステークホルダーが参加できる方法を模索していて、大学と連携した消費者リーダーシップアカデミーというプロジェクトを来月スタートする予定です。
このプロジェクトはイタリアのボッコーニ大学とスペインのマドリッド国際大学と共同で設計したコースです。新たにベルギーやポルトガルの大学との連携も検討しており、今後より広範囲の学術的な取り組みとして推進していきたいと思っています。
(動画:Consumer Leadership Academy (CLA) | Overview)
私たちがConsumer Empowerment Projectを通して生み出したいものは、異なるステークホルダーがオープンで気軽に対話ができる場所です。私たちは対話の重要性を信じていて、Consumer Empowerment Projectは対話を軸としてます。
Kohei:なるほど。素晴らしいですね。異なるステークホルダーの人たちは、何をきっかけにして一緒に未来を作っていくことができるのでしょうか?
強いビジョンが必要なのか、異なるステークホルダーが交われるようなコミットメントが必要なのか教えてもらうことはできますか?
Marco:ありがとうございます。この取り組みは昨日スタートしたものではありません。Euroconsumersが始まって、これまで積み重ねてきたものが今のプロジェクトに繋がっています。これまでに “working with global market players” という内部プロジェクトを推進してきたのですが、こういった取り組みの積み重ねがあって、今があります。徐々に通信業界と大手テクノロジー企業が対話を進めることもできるようになってきています。
例えば、私たちの組織で務めるディレクターがブラジルで5Gの委員会メンバーに選任されました。これまで消費者団体が担っていなかった役割を、私たちの組織が担い、少しづつ進めています。
5年以上前に始めた計画が、年月を経て結果に結びつき始めています。これまでの結果が消費者にとっても良い影響を与えることになると思いますし、消費者の権利を広げていくために、私たちが期待されている重要な役割は議論できる場を生み出していくことです。
図:消費者の権利を守るために必要な議論
欧州が見据える20年後の新しい未来とルール設計
私たちは消費者がデジタル社会の中心である環境を作っていきたいと考えていて、欧州が今置かれている状況は、まさに最適な環境であると思います。何故なら、新しい世紀のターニングポイントであり、イーコマース指令(EC指令)が出されてから20年が経過しています。
欧州では次の20年に向けたルール設計が進んでいます。ルール設計の過程で、私たちは消費者にとって利益のある環境を作りたいと考えています。 何故なら理想を掲げた十字軍のように、対立することは消費者の利益とは相反するからです。
これからデジタル環境を支える重要なプレイヤーと対話をしていきたい思います。消費者が日々利用するサービスが改善され、より良いサービスへと変わっていくと考えているからです。
Consumer Empowerment Projectが掲げている野望は、消費者の権利だけではありません。私たちは、消費者に優しいプロダクト開発が当たり前になるようなデザイン開発パートナーシップも進めていきたいと思います。
消費者の権利がプロダクトやサービスに当たり前のように組み込まれる世界は、欧州のデータ保護規則で求められるプライバシーバイデフォルトやプライバシーバイデザインが実現される世界と同じ環境だと考えています。
Kohei:ありがとうございます。Marcoさんのお話を通じて沢山のことを学ばせていただきました。様々なステークホルダーに一つの場所に参加頂いてまとめていくためには、新しいイノベーションを生み出す強いビジョンが必要だと思います。
今日のお話はとても興味深い内容でした。最後に、ご視聴頂いている皆様へメッセージをお願いすることはできますでしょうか?
Marco:私からは、今起きていることをお伝えしたいと思います。ステークホルダーの方々とオープンに対話することが必要だと考えています。消費者の立場で考えることが必要で、これまでのように一つの視点だけで物事を見る方が簡単だとは思います。
そんなこれまでの消費者団体のありようも、これから変わっていく必要があると考えています。視聴者の皆様にはConsumer Empowerment Projectやその他の取り組みを拝見頂き、もし興味があればご連絡くださいとお伝えしたいと思います。
対話を行うことで、これまで消費者団体が担っていた消費者ほどの役割から、企業との取り組みによって、新たに良いものを作っていけると考えています。
Kohei:ありがとうございます。対話を行うことは新しいイノベーションを生み出すために不可欠であると思います。マルコさんとのインタビューでたくさんの学びがありました。
今日はお話しできてよかったです。ありがとうございました。引き続きお互いにアップデートしていきたいですね。プロジェクトの今後の動きも教えてください。
Marco:インタビューの機会を頂き、ありがとうございます。改めて、 My Data is Mineでは参加を募集しています。もしインタビューを聞いている方で興味があれば、 http://cep-project.org へ訪問頂いて、応募してください、受賞者は、欧州のリスボンで開催される “Web Summit” へご招待致します。
Kohei:ありがとうございます。直接お会いできることを楽しみにしております。
Marco:ありがとうございます。
データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、Facebookで気軽にメッセージ頂ければお答えさせて頂きます!
プライバシーについて語るコミュニティを運営しています。
ご興味ある方はぜひご参加ください。
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?