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私たちの表現の自由は機械化によってどこまで守られるのか

デジタル化が進んだ社会では、新たな消費者問題がデジタル空間で生まれるケースが増えてきています。

今回は消費者団体Euroconsumersで訴訟や学術部門を率いるマルコさんに、これからの消費者団体の在り方とデジタル関連法に関して、お伺いしていきたいと思います。

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これからの消費者団体に求められる新しい役割

Marco:はい。特にデータ保護分野で消費者団体が担う役割はこれから変わっていくと思います。例えば、欧州委員会が提案したデータガバナンス法への対応が想定されます。

他にもデータ法の制定も消費者団体の活動へ影響があると思います。私たち消費者団体はデータ共有の仲介を担うことを提案しています。データは経済的な価値を生み出す可能性を持っているので、専門家が円滑なデータ取引を仲介することで、よりデータの経済的な価値を高めていくことができると考えています。

これからの消費者団体はデータ取引の仲介役として専門的な役割を担うべきであると思います。データの仲介役として、個別にデータを利用するのではなく、経済的な価値を生み出すデータの集合体を上手く活用できるような動きを推進していくことが必要だと思います。

データの経済価値を高めていくためには、信頼できる仲介者が必要です。消費者団体は協力団体や会員と連携することができるので、消費者団体は信頼できるデータの仲介者を担うことが求められるようになると考えています。

図:消費者と企業の仲介役となる消費者団体

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私たちがこれまでに消費者のデータを不当に利用する企業に対して改善するように働きかけてきたことは、未来のデータ取引にも同様に求められると考えています。

加えて、消費者団体が未来のデータ経済にどんな役割を担うことができるか考えることも必要です。今取り組んでいるように、消費者が抱える問題を支えることも必要ですが、積極的に新しい役割を担っていくことも必要です。私は消費者団体には新しい機会が試されているのだと思っています。

Kohei:なるほど。欧州政府は域内の消費者団体が消費者を保護するための活動を支援すると発表するという記事を拝見しました。消費者を保護するために、何か特別な解決策はあるのでしょうか?

欧州が抱える健全な市場を作るための課題

Marco:消費者を保護するためには、各国の団体が協力する必要があります。例えば、現在4か国の欧州の団体が協力して、健全な市場のために取り組みを始めています。

各団体の活動が日々積極的に行われています。裁判も積極的に実施していて、企業によってもたらされた消費者の損害を積極的に救済する動きも始まっています。

欧州では米国の懲罰的損害賠償に類似した制度がないので、消費者が訴えることができる補填範囲は制限されてしまいます。欧州では被害者である私が、加害者を懲罰的損害賠償で訴えることができないのです。

残念ながらこれは欧州の司法が抱えている問題です。この問題は、現在提案されているいくつかの法案が通過しても変わらないでしょう。欧州が抱えているこの問題は、いずれ変わっていく必要があると思います。

Kohei:なるほど。未来に向けてデータ保護法はより厳しくなっていくと考えられます。データ保護が厳しくなった社会で消費者団体は社会からどのような役割を期待されるのでしょうか?

Euroconsumersのサイトでもインタビューが紹介されていましたが、マルコさんのご意見を教えてもらえると嬉しいです。

私たちの生活に密着するサービスから生まれるデータの行方

Marco:これからデータ共有が進んでいくと、消費者団体が担っていくべき新たな役割が生まれると思います。例えば、欧州委員会が提案しているデータ法はその一つです。データ法は消費者が日々利用しているプロダクトやサービスによって生み出されるデータが対象になります。

これからの動きとして、GDPR(一般データ保護規則)の第20条で記されているデータポータビリティ権に類似した、第三者へのデータ共有の動きが広がっています。これは、消費者が日々プロダクトやサービスから提供されるデータを自ら管理できることを求めている権利です。

図:消費者がデータを自ら管理する

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現在のデータ取引では、データの提供先から別の提供先へデータを移動させることが当たり前になっています。一度購入したものを修理し、再度取引する二次流通と同様のことがデータ市場でも起きるのです。これからの未来に向けて分かっている事は、データと物の間で新たな相互作用が生まれるということです。

デバイスごとに相互に繋がっているということですね。もしデバイスを自由に利用しようと考えたとすれば、デバイスから提供されるデータを誰かに預けるのではなく、自分自身で管理する必要があると思います。

自らデータを管理できないことは、ユーザーはデバイスから提供される一定の知識が得られているだけで、データの所有者は別の人であるということになります。

Kohei:ありがとうございます。そうですね。新たに提案されているデジタル関連法案を見ると、より複雑なデータエコシステムへの対応が必要だとわかります。消費者団体は、様々なステークホルダーとの協力関係を作っていくために重要な役割を担っていくことになると思います。

とても重要な示唆を頂きありがとうございます。次にお伺いしたいのが、著作権に関するお話しです。Euractive(欧州のメディア)でマルコさんは欧州司法裁判所の決定に関してコメントされていました。

今回の決定に関する詳細を教えて頂くことは可能でしょうか? この決定が著作権を保有する人たちの表現の自由にどういった影響があるのか教えて頂けると幸いです。

私たちの表現の自由は機械化によってどこまで守られるのか

Marco:そうですね。今回は欧州司法裁判所が著作権司令第17条に関して行なった決定です。第17条ではユーザーが著作権を持つコンテンツを共有するサービス提供者に対して責任を設けた内容です。これをユーザー生成コンテンツと呼んでいます。

第17条では、サービス提供者が違法コンテンツアップロード対策を実施しないことに対する責任を回避することを記しています。自動フィルターもそうです。これはポーランドによって提案されました。

この決定はユーザーの表現の自由を奪う規制であると懸念しています。裁判所では、ユーザーの表現の自由が保証されており、第17条で記されている内容を、自動フィルターツールを開発して使用する際には、十分検討する責務があると考えています。

図:自動フィルターツールによる検証リスク

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ユーザーの表現の自由を保証するためには、風刺作品がサイト上でアップロードされることも認めるべきだと思います。風刺作品は法的には問題ないコンテンツですし、同じ部類のコンテンツも同様です。技術的な要素以外に、こういった重要な事柄も考える必要があります。

法的に問題ないか否かを自動フィルターで精査する際に起きうるリスクが明らかになっていないので、裁判所ではこの問題点を強調したのです。他にも、今回の指令はオンラインコンテンツサービス提供者の重荷になっています。

自動でフィルタリングを行うツールだけでは、どのコンテンツが著作権に反していて、反していないかを判断することがとても難しいことに加えて、ツールだけで判断できない例外を許容する必要がある場合も存在するからです。

人工知能を活用した自動フィルターを導入するだけでは、違法かどうかを見分けることは難しいと思います。私が懸念していることは、導入したシステムが過度に著作権保持者の権利を保護しすぎてしまい、法的に問題がないコンテンツもフィルターが弾いてしまうケースがあることです。

Kohei:なるほど。その場合、どうすれば自由にコンテンツを共有する権利を主張すれば良いのでしょうか?

今のインターネット空間は私たちが共有したいものは共有することができる場所になってます。現在議論すべき問題は、インターネット上で共有したコンテンツが権利侵害を起こした場合にどのような影響が起きるのか予測が難しいということだと思います。

消費者団体の立場からは、権利侵害に対してどのような対策が効果的だと思いますか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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