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小豆餅80's - ぼくちゃんの冤罪事件

つげ義春のまんがに、窓から夜だったか世界だったかが入ってくるのを恐れて、布団に隠れたり、逃げたりするシーンがある。あれはわかる人間とわからない人間がいると思うが、わたしは6歳にしてすでにわかってしまう羽目になった。それの発端となったのが小学校に入ってすぐに発生した冤罪事件だった。犯人とされたのは小さな僕ちゃん、つまり私だった。

小学校1年生の1学期か2学期か、教室で道徳の授業が行われていた。そこでどういう経緯か、ある女の子、「ゆみこちゃん」という名前だったと思うが、問題提起を桜林貞子先生に行った。

その問題というのが、下校中にスカートめくりをされた。という主張だ。ゆみこちゃんは色白で三つ編みで少し気の強そうな可愛らしい女の子だったが、自分が受けたハラスメントに泣き寝入りをする分けにはいかないという熱気に溢れていた。教育者として、教育を受けるものの熱気には応えないわけにはいかないだろう。老齢で定年寸前だった桜林先生は全力でセクハラ阻止に協力することとなった。

先生はゆみこちゃんに、「誰がやったのですか?」と単刀直入に聞いた。
ゆみこちゃんは迷いもせずにある男の子の方を指差した。
それは私だった。

私にとっては100%記憶にない事であり、すぐに何かの間違いだと思った。
当然自信満々でゆみこちゃんの主張を否定した。
「先生、ぼくはやっていないです。見てもいない。人間違いではないでしょうか?」

裁判の進捗は6歳のわたしにはあまりにも早かった。
先生はわたしと一緒に帰っている、当時親友だった「いっくん」に矛先を向けた。
「石川くん。あなた村松くんと一緒に帰っているでしょ。スカートめくりしたとこ見なかった?」
「はい。見ました。村松くんがやりました。」

私は耳を疑った。親も助けてくれない、この小学校1年生の教室で突然行われた裁判で、訴えられた直後に突然出廷した親友に、身に覚えのない犯罪を証言されてしまったのだ。そして、目から大量の滝のような涙を流して、声を振るわせながら、私は桜林先生に言った。
「ぼくは絶対やっていません。信じてください。」

ADHD気味で、授業を抜け出して砂場で遊んでしまったり、問題行動多めの私を信じてくれるものはいなかった。

その後、私は特に小学校でこの件に関していじめにあったり、ほじくり返されて嫌な思いをした経験もない。それは幸運だったと思う。記憶にないのだが、犯人は本当に私だったのだろうか?ゆみこちゃんのスカートをめくりたいと、常日頃思っているのであれば、自分を疑う気持ちにもなるだろう。しかし、私は知っていた。私がゆみこちゃんに一切関心がなかったことを。

二重人格という精神病があるが、それの類だろうか。まさか「ゆみこちゃん」や「いっくん」が私を罠に嵌めて、何かを利するわけでもなかろう。真実は闇の中である。

窓の外からアレがはみ出して、侵食してくる。それに完全に消化されてしまうのが怖くて、いまでも私はそれと戦い続けている。

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