見出し画像

コロナ禍でお買い物のデジタルパラダイムシフトは起きたのか? -その2

2.お買い物における「デジタルパラダイムシフト」とは?

前編では、「働き方のデジタルパラダイムシフト」を見てきました。
本編では、これと対比するための「お買い物のデジタルパラダイムシフト」を論ずる前に、そもそも「お買い物のデジタルパラダイムシフト」とは何かを明らかにしたいと思います。

まず、コロナ禍で小売業に何が起きているのかという点について、各種報道などから見てみたいと思います。

・海外からの観光客が激減したことにより、インバウンド需要に頼っていた百貨店や観光地の土産店などが大きく売上を落とすことになり、この傾向は今後数年間続くことが予想される
・政府・自治体からの要請によって、多くの商業施設が臨時休業し、そこにテナントとして入居する小売店舗も大きく売上を落とすことになったが、現在は概ねオープンしており回復傾向
・在宅勤務の浸透によってオフィス街の人出が減り、オフィス街にある小売店が長期的に低迷することが予想される
・在宅勤務の浸透によってオフィスワーク需要が減り、外出着の需要が低減することが想定され、アパレル企業などが長期的に影響を受けることが予想される
・ECはコロナ禍で大きく流通総額を伸ばしたが、多くの小売事業者、特に実店舗を中心に展開してきた小売事業者にとって、実店舗の売上減をカバー出来るほどの規模に至っていない
・外食産業が苦戦していることの反作用として、巣籠もり需要(食料品やインテリア)を取り込んでいる小売業は好調
・外出機会を減らしながら効果的に買い物や外食を行うために、スマートフォンなどで事前に情報収集したり予約したりする傾向が顕著になった

概ね、以上のようなことがおきてきた2年となります。

すでに米国やヨーロッパ、イスラエルなどではワクチンの接種が進んでおり、急速に経済の正常化が進んでいます。
日本も目下ワクチン接種が進んでおり、1〜2年後には海外との往来も正常化していくでしょう。
すでに休日の市街地の人出はコロナ前並みと言われている状況ですので、いずれ飲食店への自粛要請も解除され、インバウンドの需要も戻ってくるものと思われます。

ただ、前編でも述べたとおり、働き方が大きく変わったこと、いち消費者のデジタルリテラシーが非常に高まったことは、不可逆的な変化をもたらすものと思われます。

では、小売業を取り巻く環境の中で、上に挙げたようなもののうち、どういった変化が不可逆なものとして今後も定着していくのでしょうか。
一般的には

・一部企業・職種の在宅勤務の恒久化によって、平日の都市部人口が減り、需要が郊外やECにシフトする
・消費者のデジタルリテラシーが急激に高まったことにより、デジタル化に成功している事業者が、相対的に優位になる

と言われています。

本稿は「お買い物のデジタルパラダイムシフト」が主題ですので、働き方と同じような形で整理を行いつつ、そもそもお買い物にとってのデジタルパラダイムシフトとは何なのか、お買い物において働き方と同じようなデジタルパラダイムシフトが起きたのか、起きていないとすると何が阻害要因になっているのか、ということを論じていきたいと思います。

では、「お買い物のデジタルパラダイムシフト」とは何なのでしょうか。

幸いにも、コロナ禍までの10年において、小売店舗は大きくデジタル化の波にさらされることはありませんでした。
ECによる影響は大きかったものの、一部の業界を除いてはEC化の歩みは遅く、実店舗中心の小売業はデジタルのことをそれほど考えなくても、売上への影響はほとんどなかったというのが実態ではないかと思います。
コロナ禍による外出忌避からECに移った需要があるものの、街やショッピングモールに人が戻っていることからも分かるとおり、再びECから店舗に需要が戻ってくると思われます。
加えて、実店舗ならではの、家族や友人と歩き回ってお買い物を楽しむという価値は変わらないでしょう。

スクリーンショット 2021-09-30 12.02.16

外食業界や美容業界は、コロナ禍の前から、食べログ・レッティやホットペッパービューティーといった、非常に強力な専門サイトが生まれ、来店前にインターネットで調べるという行動がすでに一般的です。
対して、実店舗およびそこで売っている商品をインターネット上で探すという行為は、まだ一般的ではありません。
しかし、コロナ禍で消費者のデジタルリテラシーは、事業者側が考えるよりはるかに高くなりました。
なぜECではすぐに商品が見つかるのに、実店舗の商品が見つからないのか?、といった素朴な疑問を消費者は持ち始めています。
多くの飲食店がテーブル上の端末や消費者自身の端末からの注文などを行えるようにして、UX向上を図っているのと同じく、小売店もデジタル化によるUX向上を図っている店舗の方が便利だと消費者は考えるようになり、そういった店舗に自然と足が向くようになるでしょう。

つまり、「お買い物のデジタルパラダイムシフト」とは、以下のように、

2-1.事前の検索や、SNS上の情報で、その店舗がどんな店舗かが分かる
たとえば、営業時間、駐車場の有無、どんな商品がおいてあるか、どんなキャンペーンをやっているか、どんなサービスが受けられるのか、など
2-2.店舗に行った後には、自社アプリなどで独自のサービスが受けられる
たとえば、商品の陳列場所の案内、商品の詳細説明、商品の取り置き、
自宅への即時配送、おトクな情報、手持ちの端末での決済、など

といったところでしょうか。

特に、外食業界・美容業界と小売業界との一番の差は「商品」に関する情報が求められることです。
飲食店が多くても数十というメニューだけを考えればよいのに対して、小売店の場合は、どんなに少なくても数百、多い場合は数千から数十万という商品数を取り扱います。
なので、簡単に一覧化して掲載も出来ませんし、店舗に在庫があるかどうかという問題もあります。
大量の商品情報の発信が、小売業のデジタル化にとってもっとも高いハードルであり、また消費者が求めていることであるのも間違いありません。

スクリーンショット 2021-10-04 10.38.36

本稿の最後となる次編では、ここまでの考察を踏まえ、「お買い物のデジタルパラダイムシフト」は起きているのか?、起きていないとすると阻害要因は何なのかという点を明らかにしたいと思います。

▼バックナンバーはこちら