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新型コロナ不況に小売のマーケターはどう向き合うか Vol.3 ECエバンジェリスト 川添さま

Patheeは「テクノロジーで人々と小売コミュニティを繋げることで社会にインパクトを与える」をVisionに事業をしています。
新型コロナウイルス対策で外出自粛している中で小売業のマーケターからどのような施策をいまやるべきか、自粛緩和時に向けて今何を準備していけばいいかというご質問をいただくことが増えています。そこで今回から最前線で活躍しているマーケターにPatheeのマーケティングマネージャーの原嶋がインタビューをしてこの課題にどう向き合えばいいかをお聞きしていきます。
第3回はECエバンジェリスト川添隆さんにインタビューさせていただきました。

ビフォアコロナとのギャップを埋めるための消費が増えている

原嶋:
川添さんはECエバンジェリストとして小売業界のいろいろな会社とコミュニケーションを取っているかと思いますが、新型コロナの影響で小売業界はどのような影響を受けていると感じていますか。

川添:
個人の方で5、6社ぐらいの小売業とかまた小売に関連するBtoBの企業などのアドバイザーをさせていただいております。業種や店舗数、それぞれの程度は違えど、店舗がメインとなっている企業の多くがマイナスになっています。ただコンビニ・スーパー・医薬品・酒・デリバリー関連などでは売上はあがっています。ECを展開していれば、ECの売上が伸びている傾向はあります。しかし、全ての商材が伸びているわけではないこと、また、店舗+ECをやっている場合は店舗のカバーまでには至っていないことが大枠なのかなと思います。

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(参照:https://netshop.impress.co.jp/node/7524

例えばアパレルをメインで見ていくと、3月は既存店前年比が25~40%のマイナスですが、4月は既存店前年比が70%前後のマイナスになっています。これは非常事態宣言以降に、主に百貨店、駅ビル、ファッションビルなどの休館があり、店を開けなくなったからでしょう。

一方で3月のワークマンや西松屋はプラスになっています。ワークマンは路面店が多い、現場仕事はなくなっていないので需要もまだまだ残っている、西松屋は子供のストレスがあり子供服を買ってあげるのではという推測をしています。特に専門店の業態は、多くはマイナスの影響を受けています。

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(参照:https://netshop.impress.co.jp/node/7545

原嶋:
小売業界が外出自粛の影響を受けている中で、ユーザーの買い物体験が変わってきていますでしょうか。

川添:
そうですね。まず買い物体験の以前に、いまは日本全体でコロナへの恐怖というネガティブな気持ちがありますよね。
ただその感情も個人ごとにはばらつきがあると感じてます。メガネスーパー代表の星崎が「危機感」と「臨場感」という言葉を使っているのですが、本来今の時点ではどちらも高いレベルで必要です。例えば、経営している方は会社運営の「危機感」、店が開けない状況にある方は「臨場感」を高く持っていると思います。ただし、その一方でどっちも感じていない人もいます。その人たちはビジネスパーソンであり、同時に1人の生活者でもあります。
もちろん、外出をしないなどの行動はとっているはずですが、全員が全員同じレベルで変わっているわけじゃないというのは考えた方がいいかもしれません。

リモートワークで働き方を変えなくてはいけなくなりました。周辺のウェブカメラが欲しいとか椅子を買うとか、今までの家での過ごし方とオフィスとしての働き方との「違和感=ギャップ」を埋めるための消費がおこっているのはSNSでよく見かけますよね。すなわち、そういったビフォーコロナとのギャップが生まれている部分には、埋めるための購買が生まれているというのが今起きているユーザーの買い物体験の一つの変化だと捉えています。

原嶋:
周りを見ていても「危機感」と「臨場感」の人によっての違いは感じますね。
買い物体験の変化のところになるのですが、ECの売上が伸びてきているというお話が先ほどあったのですが、今回をきっかけにECの比率が大きく伸びていくと思っていますか。

川添:
アパレル各社の数字感でいくとまずファッションモール系は思っているほど上がっていないと聞いています。一方ブランド側の自社ECは1.2倍から1.5倍、多いところだと2倍伸びているようです。非常事態宣言が出てからはもう少し伸びている傾向もあるでしょう。
でもアパレル業界のEC化率は12%〜15%、自社ECだけにフォーカスすると全体に対する比率は3%〜6%です。仮に店が休業で、その分が自社ECに乗っているなら、売上は2倍どころではなくて30倍とかになるはずですがそれは起きていないですよね。オフラインでの偶然的な出会いなどの情報接触が減ってしまい、ビフォーコロナとのギャップがない領域に関しては、これまで通りの消費意欲の延長のままではないかと思っています。

原嶋:
あくまで延長となると現状の売上不振の解消で一番の策をECだと考えてる人たちは今のタイミングで本来はどのような施策をすることが良いでしょうか。

川添:
まず施策の前段階で、顧客を知ろうっていう顧客理解が必要です。
ビフォアコロナとWithコロナでは同じ人(顧客)であっても、環境の変化によってインサイトが変わっているかもしれないことを大前提にした方がよいでしょう。今の自分たちのブランド・業態が対象としてるお客さま・ニーズはどういうものか、どういう生活スタイルなのかを改めて知る必要がありますね。それに対して、抜本的に調整するなら商品やサービス自体をチューニングしたり、新たにそろえる。それができなければコンテンツやコミュニケーションを変えるという流れだと思っています。例えば、シャープのマスク販売、各ECサイトが「自宅試着」を解禁しているのは前者、ウィゴーやビームスの店舗スタッフによるライブコマースは後者だと捉えています。

原嶋:
当たり前が一番大事ということですね。顧客層がかわるかもしれないという確認をどのような手段でするといいと思いますか。

川添:
例えば、簡易的にやるのであればLINE公式アカウントやTwitterなどのプラットフォームを利用したアンケートとかありますね。またGoogleフォームで設問数を増やすことも可能ですし、自社ECにアンケートがあれば会員データを紐づいた形で収集することが可能です。後者の場合は、過去の注文データを照らし合わせて変化が見れるかもしれません。例えば、「着る服が変わっていますかとか欲しい服が変わっていますか」のアンケートをしてる人がいましたね。
そういう既存のつながりをまず使ってみることですかね。

原嶋:
そのアンケートの結果気になりますね。笑 どういう結果が出ましたか。

川添:
やはりというか変わっているんですよね。
母数はそれほど多くなく、属性に偏りがあることが前提ですが、極端な結果としては、男性だとアウター、スーツはいりません、でもネクタイは欲しい。という結果だったようです。それはきっと、自宅でのリモートワークだから仮にジャケットを着るにしても、人を避けながら外出するのにアウターを着るにしてもあり合わせでも問題ないということの表れかなと。ただし、オンラインミーティングって上半身は見られるし、気分を変えたり同じ相手との打ち合わせを考えると、ネクタイをすれば少しビシッと見せられるし変化も入れられるという心理から起きている新しい購買意欲だと思いますね。

情報のオンライン化を改めてしっかり行っていかないといけない

原嶋:
そういう変化がある中で小売業はどう変わっていけばいいですか。

川添:
どの企業でも可能なのは、コミュニケーションとコンテンツを変えていくことでしょうね。
自分たちで使える、かつ顧客が使いやすいプラットフォームを選択して、オンライン接客などコミュニケーションの形をかえる。ブランドそれぞれでプラットフォームが変わってよいと思います。
(参考: https://evanh.jp/n/n0ccd1be003ae
さらに接客をオンライン化することの大事さだけでなく、ブランドや商品・サービスとして必要な情報を網羅的にオンラインにおいておくことの大事さを感じています。
これまでの延長だと新商品とか販促的なイベントなどの情報をタイミングよく出すという事にはみんな気をつけてます。しかし、現時点ではオンラインで情報が完結している必要がありますよね。ということは、ブランドが大事にしていることや、商品情報が網羅されている必要があります。例えばB2Bのサイトって、サービス説明や事例、FAQなどが網羅してありますよね。オンラインサイトが営業資料になっている。極端に言えば、ECサイトに書いてあることを、スタッフが話すだけで売れるようなコンテンツとコミュニケーションの補完関係がつくれると強いですよね。D2Cブランドは当たり前のようにやっていますが、店舗メインの企業はできてないところの方が圧倒的に多いです。

原嶋:
イベントとかセール以外の情報を出し切ろうというのは例えば商品情報などをしっかりオンライン化して発信していくことなどでしょうか。

川添:
そうですね、ECサイトで話をするともちろん一通りの写真や商品説明はどこのサイトにでもあると思います。ただし、「時間があったら店舗で実物確認」という選択ができない状況なので、そこまでは足りない情報があるのではと考えています。
例えばD2Cファッションブランドのオールユアーズの場合、看板商品のジーンズはユニセックスなので体型や好みでサイズ選択が必要になります。なので、男性(または女性)のこの体型だとこういったシルエットに見えますよとかサイズ×体系によるシルエットの見え方の違いを、ECサイトやInstagramで写真で見せてくれています。また、穿いていった後のエイジング(ジーンズの色落ち)も、年数や職業によって丁寧にそろえてあります。
オフラインであれば店舗スタッフが丁寧に一点一点に説明してくれますが、オンラインではそれができない。そもそものオフラインとオンラインの違い、なおかつ今はオンラインのみということ理解した上で、ある意味、「社内では当たり前だよね」というような情報ほどオンライン化していくということが大事だと思います。

そもそものECが持つ役割はカタログ機能、決済、物流とあとは顧客情報管理だと考えています。極論、カタログ機能さえあれば他の役割はECシステムがなくても、やろうと思えばできます。カタログに関しても、SNSを代用することすら可能になっている中で、ECサイトにはより質と量、カバレッジも含めて求められるでしょう。どうしてもEC部門として運用しようとすると少ないリソースで効率を追求する体制になってきます。現時点で難しいのであれば、暫定的にでも、社内の他の人手を使ってSNSを充実させていく方が良いかもしれません。

原嶋:
ECのカタログ機能をより充実していくことは大事ですね。オンライン化していく中で店舗側の変化はどのようなものがあると思いますか。

川添:
少しずつ営業は再開され、その時の状況につながるような施策をメディアも注目しています。生活者側の「店舗に行く」という気持ちには変化が出てくるはずです。
今回必需品と嗜好品が明確に分かれましたよね。ただ嗜好品の中にも感情的に欲するものと感情的に欲しないものがあると思うんです。例えば、音楽というのは、イベントが出来なくなったりライブができなくなったり、嗜好品として必須でない扱いになってしまいました。でもオンラインでもライブを楽しめるぞという動きが出てきています。それによってオンラインでも一体感が出たり、投げ銭なども生まれています。アーティストによりけりでしょうが、ユーザーとアーティストは感情的につながっているはずで、人間の心の拠り所として音楽は必需であると捉えています。

小売周辺では、駅ビルのように通勤経路にある、なんとなくフラッと寄っていた店舗は必需ではないはずです。完全に収束すれば、こういった場の役割は戻るでしょうが、しばらく時間はかかりそうです。

一方で、農家や宿泊施設、飲食関連のクラウドファンディングなどは増えています。また、ブランドからお願いを求めるような施策も見受けられます。ビフォアコロナでもありましたが、応援・支援的な位置づけの購入がより増えている印象です。そういうのも感情的な結びつきの1つだと捉えています。

ここだったらブランド・お店は応援したいとか、何か魅力があるよねとか、利用者のことをいつも考えてくれるよねとか、あのスタッフさんに会いたいとか、そこに外れたものは忘れ去られていくでしょうし、仮に再開したとしても再訪する優先順位は落ちるんじゃないかと思います。
ある意味、ブランドやお店が「信頼にたる人か?」というように見られていると感じます。

原嶋:
ブランド価値を上げていくっていうのは今までも言われてきましたが、「場所」でケアしていたので真剣に向き合っていなかったという企業はありますよね。
そういう企業がブランド価値を上げていくために意識しないといけないことは何かありますか。

川添:
ブランディングって言うと、ビジュアルや振る舞いを整えていくという感じがあると思うのですが、そのブランド自体の人柄を作り上げていくみたいなものって考えるといいんじゃないでしょうか。このブランドっていうのは、あったかいとか私のことを考えてくれてる、かゆいところに手が届く、あの人がいるからとかそのブランドにある種、人かのような人格を持たせること。それがないと人間って思い出しづらいじゃないですか。そして今は「あなたはどんな人(ブランド)なのか?」に対して、生活者も敏感になってきていると思います。だから、賞賛も批判もどちらも拡散しやすい状況なのかなと。
本来、どの企業やブランドも、「我々はこうしていきたい、このために存在している」というようなビジョン、ミッションがあるはずです。一方、感染拡大防止をしながら、利益を得て雇用を継続するという相反する2つをやっていく必要があります。そういう難しい状況だからこそ、社員としてもユーザーとしても拠り所となるような、「その人らしさ」が求められているのではないでしょうか。


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