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コロナ禍でお買い物のデジタルパラダイムシフトは起きたのか? -その3

3.「お買い物のデジタルパラダイムシフト」は起きたのか?

まず結論から述べますが、「お買い物におけるデジタルパラダイムシフト」は未だ起きていないと言えます。
では、何が阻害要因になっているのでしょうか。
本章ではそこを明らかにしていきたいと思います。

3-1.デジタル技術のハードウェア面

ここは働き方の章と同じく、すでに技術の普及は進んでいると言えます。
消費者は高性能なスマートフォンを手にし、事業者は過去と比較すると、はるかに安価に業務用のコンピューターやサーバー、ネットワーク環境を調達できます。

私がIT業界に携わり始めた90年代後半は、ちょっとしたシステムを構築しようとすると、サーバー1台といった小さいハードウェア構成でも数千万円・数億円という投資になるのは当たり前でした。
たとえば、私は小売業のクライアント向けのデータ分析システムを担当していたのですが、大量のデータを保存するためのテラバイト単位のハードウェアの機器を導入しようとすると、それだけで億単位の投資が必要でした。
しかし、今は数万円で購入できるデジタル録画に使う機器などに、普通にテラバイト単位のハードディスクが装備されています。
しかしながら、後述のソフトウェア面を先出しすると、コンピュータリソースが劇的に安価に手に入るようになったからといって、私が小売業に携わり始めた約20年前と比較して、小売業におけるデータ活用が「劇的に」進んだかと言われれると、残念ながらそうではないと言わざるを得ません。

3-2.消費者のデジタルリテラシー

現代の消費者は、ありとあらゆるメディアから情報を入手することが可能です。
お買い物の領域に関しても、Amazonや楽天などのECサイト、価格コムやアットコスメなどの商品比較サイトを通じて、商品についてはどこでも詳細な情報を手に入れることが可能になりました。

しかし、残念ながら、実店舗型の小売業について、インターネット上で十分な情報が手に入れられる環境になっていません。
そのお店がどういうお店で、駐車場がどれくらいの規模で、どういった決済サービスに対応していて、何よりもどういう商品をどういった価格で販売しているのか、このお店で買うメリットは何なのか、といった情報を消費者がインターネット上で探しても、必要十分なデータは見つかりません。

これまでは、トラフィックの多い商業施設や繁華街に店舗を構えることにより、外出する消費者を自然に取り込むことができました。
しかしコロナ禍における経験から、消費者はあらかじめ行くお店を決めてから店舗を訪れ、目的のものだけを買うというスマートな買い方が進んでいます。
結果として、商業施設全体で見ると、顧客当たりの買い上げ点数が下がっている、というような声も聞こえています。

インターネット上で見つからない商品を探すために、店舗に行ってから探すという行為は、ECが普及する前は当たり前でしたが、今はECで何でも買える時代です。
インターネットで実店舗で何を売っているのか探せない環境が、ECへのシフトを加速させている面は否めないでしょう。

では、なぜ、消費者の求めるような情報発信を、実店舗型の小売業はできていないのでしょうか。
残りの2項でそれを明らかにしていきます。

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3-3.小売事業者のデジタルリテラシー

昨今、世の中全体でDXというコトバが叫ばれていますが、経営者がデジタルに精通しているケースも少なければ、デジタルマーケティングに強い人材がいるケースも稀と思われます。
ある程度以上の規模の事業者であれば、社内に情報システム部があるケースは多いでしょうが、情報システム部の仕事は、店舗運営に必要な販売管理システムやPOSシステムの開発・保守・運用を行うことであって、消費者の方をデジタルでどうやって引きつけるかというマーケティング視点で活動するミッションが与えられてきたケースは、ほぼないでしょう。
ECを運営する部門があるケースは多いと思いますが、ECの売上高を向上させることがミッションとなっており、実店舗とどう協業すべきかは二の次というケースが多いように思います。
EC単体で見ても、自社ECに関しては集客ノウハウがなく、楽天やゾゾダウン・Amazonのようなプラットフォーマーに集客を頼っているという状況が多いと思われます。

このように、小売業では、デジタルで集客するということについて、経営としても組織としてもほとんどノウハウの蓄積がないというのが現状です。
カインズのようにデジタル専門の部隊をすでに抱えている先進的な企業もちらほら現れていますし、良品計画は大規模なデジタル部隊の新設を経営目標に掲げています。しかしこれらの企業の成功事例を横目に、小売業とデジタルに精通した経営幹部を採用し、さらにエンジニアを集めるというだけでも、非常に困難なミッションになるのは明らかです。
我々のようなデジタル企業でさえ、エンジニアの採用は非常に厳しい環境です。
時間を買うために、ITコンサルティング企業を導入しているケースも多いですが、財務的な余裕がある場合に限られるでしょう。

そうはいっても、小売の事業者として、自社のデジタルリテラシーを高めるという点は喫緊の課題でもありますし、中長期的には必ず解決しないといけない課題であるのは確かですが、短期的には解決が難しいと考えられます。

3-4.デジタル技術のソフトウェア面

「働き方のデジタルパラダイムシフト」の面においては、Zoom というソフトウェアの存在が大きく寄与したという点を指摘しました。
デジタルを活用した働き方に精通した人事担当の役員や従業員がいなくても、すでに十分便利なソフトウェアがあったことで、従業員は多少の慣れさえ乗り越えれば、オンラインでも十分働くことができるようになりました。
会社としては、それを追認するだけで、一通りの事業をオンラインで推進することが可能になりました。

では、「お買い物のデジタルパラダイムシフト」にとって、Zoom のようなソフトウェアは存在するのでしょうか?

改めて、2.で指摘した「お買い物のデジタルパラダイムシフト」とは何なのかという定義を振り返ります。

つまり、「お買い物のデジタルパラダイムシフト」とは、以下のように、

2-1.事前の検索や、SNS上の情報で、その店舗がどんな店舗かが分かる
 たとえば、営業時間、駐車場の有無、どんな商品がおいてあるか、どんなキャンペーンをやっているか、どんなサービスが受けられるのか、など

2-2.店舗に行った後には、自社アプリなどで独自のサービスが受けられる
 たとえば、商品の陳列場所の案内、商品の詳細説明、商品の取り置き、自宅への即時配送、おトクな情報、手持ちの端末での決済、など
といったところでしょうか。

特に、外食業界・美容業界と小売業界との一番の差は「商品」に関する情報が求められることです。
飲食店が多くても数十というメニューだけを載せればよいのに比較して、小売店の場合は、どんなに少なくても数百、多い場合は数千から数十万という商品数を取り扱います。
なので、簡単にはカタログ化して掲載も出来ませんし、店舗に在庫があるかどうかという問題もあります。
大量の商品情報の発信が、小売業のデジタル化にとってもっとも高いハードルであり、また消費者が求めていることであることも間違いありません。

ECサイトの構築や、自社アプリ構築の領域においては、Shopifyやヤプリのような、安価なソリューションも多く登場してきました。
しかし、実店舗の情報について、そこに置いてある商品も含めて、「事前の検索や、SNS上の情報で、その店舗がどんな店舗かが分かる」まで発信できる環境は存在するでしょうか?

実は、プラットフォームそのものは存在します。
たとえばGoogleの提供するサービスを活用すれば、Googleマップ上で店舗情報を発信することができますし、どのお店でどの商品が置いてあるかも表現することができます。
Googleに申請しアカウントを取得し、1店舗ずつ個別に運用し、店舗の在庫掲載するために別途またGoogleに申請し、自社の販売管理システムから在庫データを切り出し、各店舗の在庫としてアップロードし、エラーが出れば適宜対応する、というような手順をこなせばいいだけです。
デジタルリテラシーが高く、そこに工数を割くことができれば今でも十分実現できます。
Twitter や Instagram を上記のGoogleのサービスと統合的に運用することも可能でしょう。
繰り返しになりますが、小売事業者の経営者や担当者の「デジタルリテラシーが高く、そこに工数を割くことができれば」という条件つきになります。
果たして、それは現実的でしょうか?

「働き方のデジタルシフト」の領域において、Zoom がなくても、他のテレビ会議システムで大人数で会議に参加し、資料は予め配布しておけば、オンライン会議は何とか成立したでしょうが、おそらくそれを実現するためには会議参加者のリテラシーの高さが必要で、ここまでリモートワークが当たり前化することはなかったでしょう。

本章の結論に戻りたいと思います。
残念ながら、現時点では、「お買い物におけるデジタルパラダイムシフト」は未だ起きていないと言えます。
そしてその原因は、「働き方のデジタルシフト」にとっての Zoom のような存在が小売業にないから、と言えると考えています。

4.Pathee社は何を目指しているのか?

本当の結論です。
Patheeが目指しているのは、実店舗型の小売事業者にとって、「働き方のデジタルシフト」にとっての Zoom のような存在になることです。

Pathee社はこれまで、自社メディア運営や、小売事業者のGoogleマップ対策のサービスを提供することで、その領域を目指してきました。
我々は、現状の小売事業者の経営者や担当者のデジタルリテラシーが必要十分に高くはなく、そこに工数を割くこともできないという課題に対して、それを解決するためのソフトウェアとサービスを提供することで、デジタルに精通していない小売業の担当の方でも、ワンタッチでインターネット上に店舗やそこでの取扱商品の情報を発信することができ、消費者にとってはどこで探してもどこで買ってもよいという、本当の「お買い物のデジタルシフト」を実現したいと考えています。

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