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コロナ後の小売業界について


Patheeの冨田です。

色々な方が、with コロナ / after コロナ の未来予想図を描かれているので、不肖私めも記事を書こうと思います。

まず、私自身の考え方の論点を明らかにしておきたいと思います。

1.人間の本質的な部分は変化しない
2.本質的な部分は変わらないが、技術によって行動は変わる

この論点に沿って話をさせてもらえればと思います。


1.人間の本質的な部分は変化しない

人間には色々と欲望があります。その欲望は時代が変わっても、人間が人間という種である限りつきまとうと、私は考えています。
人間の欲望には色々あります。
 食欲、性欲、睡眠欲、金銭欲、権力欲・・・
数え上げればキリがありません。
歴史は繰り返されるとよく言われます。
人間は理性的な生き物ではありますが、根本的には欲望の方が人間のより本質に近い部分にあり、だからこそ歴史においてプレーヤーは変わっても、同じようなことを繰り返すのだと考えています。

歴史というほど長い時間軸でなくても、人間は忘れる動物という面もまたあります。東日本大震災の際には、放射能の危険性・津波の危険性が非常にクローズアップされていましたが、今、ほとんどの人はそこまで放射能や津波の恐怖を身近に感じていないのではないでしょうか。

では、この前提をコロナウイルスの問題にあてはめると、どうなるでしょうか。

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ようやく緊急事態宣言が解除され、外出自粛も緩和されつつありますが、1ヶ月半に及ぶ外出自粛生活を通じて、ずっと家には閉じこもっていられない、疲れると多くの人が感じられたと思います。

とりもなおさず、外に出て活動したい、というのも、人間の本質的な部分であることが立証された形です。

私自身、10年くらい前は、Amazonも楽天もあるし、今どきどこのブランドもECをやっているし、ネットスーパーも立ち上がりつつあるし、家でのエンターテインメントも充実していくし、人間が外出する時間はどんどん減るんだろうなと考えていました。
ただ、その状態で10年くらい経過し、日本の小売マーケットにおけるEC化率は少しずつ伸びてはいるものの、業態にもよりますが、現時点でもECが実店舗を大きく脅かす存在にはなっていないと認識しています。
日本の小売業の中で苦境に陥っているのは、コロナウイルスの影響が出る以前から、人口動態や嗜好の変化も含め、世の中の変化に追い付けなかったところであって、ECの影響は限定的であったというのが私の理解です。

コロナウイルスの問題が起きる直前までは、私の身の回りを見ても、いつも行っているスーパーは賑わっているし、流行っているショッピングモールはますます来場者数が増えているし、ユニクロもJINSも実店舗の既存店売上高は伸び続けているし、これをどう読み解けばいいのだろうと、不思議に思っていました。
コロナによる自粛要請が始まり、今度こそ極端にECシフトが始まるのかと思いきや、思ったよりはECは伸びなかったというのが、実店舗とECを両方運営している事業者から聞こえてくる声でもあります。

結局のところ、消費者は、実店舗で家族や友人と相談しながら、楽しくモノを買いたいというのが本質であって、変わらない部分であると考えています。

2つめの論点に移りたいと思います。

2.本質的な部分は変わらないが、技術によって行動は変わる


たとえば、異性との出会いを求めたいと思ったときに、少し昔であれば、出会いのある場所に出かけて男性は声をかける、女性は声をかけられるのを待つ、というのが一般的だったわけですが、今はTinderなどのアプリで画面をスワイプするだけで出会いが成立します。
少し昔は映画を見るにも、映画館しか選択肢がなかったわけですが、30年前にはビデオレコーダーの登場で家でも見られるようになり、今は自宅で高画質な映画をいくらでも見られます。
ゲームも、昔はボードゲームやカードゲームだったものが、今ではリアルな3Dの中を歩き回って、疑似体験できるようにまでなってきています。

しかし、一歩引いて見た時に、技術によって人間の中に新しい欲望が生まれた、ということはないのではないでしょうか。
技術によって大きく行動が変わってはいるものの、本質的な人間の欲望そのものの変化はなく、それを満たすための手段が進化しているのだと考えています。

では、コロナウイルスの影響による外出自粛によって、何が起きようとしているのでしょうか。
これまでは、実店舗におけるデジタル化は、純粋なデジタルの世界と比較してかなりゆっくりと消費者に浸透してきた歴史があります。
事業者側も消費者側も、それで特に不便を感じてこなかったという面があります。
しかし、結論から言うと、この1ヶ月半で、消費者のデジタル化への時間軸は数年進んだものと見ています。

海外の事例になりますが、米国の最大の小売事業者としてWal-Martがあります。
10年ぐらい前までは、Amazon旋風の前に、Wal-Martも風前の灯火ではないかというのが、主要なメディアの論調でした。

Wal-Martは、Amazonに対抗すべくデジタル対応を進めてきていました。
買い物リストに登録しておけば、売場のどこに目的の商品があるのか分かる機能や、ネットで注文しておけば店舗でピックアップできるといった機能を、アプリに作り込んで来ていましたが、これまではそれほど多くの消費者には浸透してこなかったようです。
しかし、コロナウイルスの影響で、店舗には入店制限がかけられ、なるべく密室でほかの人と接触する時間を短くしたいという意識が高まったことにより、一気にアプリの普及が進んでいます。
結果として、既存店売上高を3割以上成長させています。
おそらく、その利便性を知った消費者は、おそらく今後もアプリを活用し続けることになるでしょう。

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日本でも、上記のような状況の兆候は見え始めています。
いくつかの我々の小売業事業者のお客様と情報交換させて頂いている中では、あらかじめインターネットで店舗の状況を事前に調べてから来店されるケースが、非常に増えているとお聞きしています。
その中でも、Googleマップで、店舗が開いているかどうかや混雑しているかどうかを調べてから来店されるケースが多いそうです。
そういった環境の中、コロナウイルスによる影響で、消費者は、インターネット上には実店舗についての情報が思ったより少なく、かゆいところに手が届くサービスがないことに気付きつつあります。

このような消費者の変化にどう寄り添っていくかが、これからの小売業に求められる非常に重要な要素になるのは間違いありません。

ひとつ留意点があるとすると、小売業というのは非常に地域性が強い事業だということです。
日本のような狭い国土で、少し電車に乗ったり車で移動すれば、何らかのお店がある日本において、広大な国土を抱える米国や中国と同じようなサービスが流行るわけでもありません。
なので、米国や中国の事例の表層だけを真似ても、消費者の変化には追随できないと考えています。

幸か不幸か、日本の小売業界では、今のところ、Wal-Martのようなレベルで実店舗とデジタルを融合できている事業者は少ないのではと考えています。
そして、これは、むしろ、多くの小売事業者にとって大いなるチャンスとみています。
日本では、日本の環境にあったデジタルの活用方法があり、それをこれから見出した事業者が消費者に選ばれる時代になっていきます。
これまでの勝ち組の小売業が、これからも勝ち続ける保証はない時代ということです。

Patheeも微力ながら、そういう志を同じくする小売事業者のデジタル化に寄り添っていきたいと考えております。
よろしくお願いいたします。

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