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#62: 小惑星: 快楽殺人者の末路

 小惑星が地球に衝突し、人類滅亡するまで、あと3ヶ月。残り3ヶ月の人生と分かったら、何をするべきだろうか。どう過ごすことが正解なのだろうか。正解などあるわけがない。人それぞれの幸せは違うのだがら。

第四章 快楽殺人者の末路
 
 やっと見つけた。これで最後の願いが叶う。残り2ヶ月弱。作戦通りとはいかないだろうが、見つけさえすれば、どうとでもなる。これで心残りなく逝ける。

  ***
 俺はいわゆる快楽殺人者である。首を絞め、悶絶した表情を見ることになによりも興奮し、快感を得られる。しかし、人類滅亡するまで3ヶ月と発表され、人々は変わった。俺が殺そうとしても嫌がるどころか、無表情の者が多く、俺のことを嘲笑う者もいる。
「今殺されても、どうせもうすぐお前を含めてみんな死ぬんだ。今さらこんな事をして過ごすなんて、寂しいやつだな。」
昨日殺したやつの最期の言葉が頭から離れない。
自分を理解してもらえるとは思わないが、揶揄されるのは気に食わない。あいつも最後まで、拒絶することなく笑っていた。俺は満たされない。

 ベンチで腰をかけていた俺に、50代くらいの男性がビールを渡しながら、話しかけてきた。
「お前さん、連続絞殺犯だろ?俺は警察には連続刺殺犯と呼ばれている。」
大分前から俺の殺人と並んで、ナイフで刺殺する事件が発生していた。その犯人がこの男というのか。しかし本当かどうかなんて関係がない。警察に関われない俺が、刺殺犯を警察に突き出すことは出来ないし、する意味もない。そして、ここで俺が絞殺犯と知られても、今警察は機能していない。俺はビールを受け取り、答える。
「そうか、お前はどうしてナイフで殺すんだ?」
「ナイフが人間にズブズブと刺さっていくときの感覚が、最高に気持ちが良いんだよ。共感してもらえるとは思わないがな。」
「じゃぁ、お前は今でも快感を得られているんだな。羨ましいよ。」
俺は本心で答えた。
「なんだ、お前さんは違うのか?絞殺出来れば良いわけじゃないのか?」
「俺は絞殺するときの悶絶した表情や助けてくれ、と苦しみながら言う姿を見ることで快感を得ることが出来るんだ。しかし、最近はみな生きることを諦めているからな。そういった表情が見ることがなくなった。俺はここずっと満たされていない。」
「そうか。それは辛いな。それなら自分を殺してみるのはどうだ?」
俺は刺殺犯の言っている意味が分からない。
「今、お前さんを満たせる相手はほとんどいないだろう。お前さんが自分をギリギリまで首を絞めて、悶絶した表情を俺が録画して、それを自分で見るんだ。悶絶した表情が見られる上に自分を殺すというのは、面白そうじゃないか?」
俺は考える。刺殺犯の言う通り、面白いかもしれない。
「面白そうだが、なぜお前が協力するのだ?」
「そんなの面白そう以外に理由はないだろう。お前のことは知らんが、俺は好きで殺人をしているわけではない。世間に許されない行為だと理解しているが、俺は人を刺さないと満たされない。人として欠陥品だ。お前もそうなんじゃないのか?満たされたいがために結果、人殺しとなっている。欠陥品同士で助け合おうじゃないか。」
満たされる理由は違うが、自分を満たすために同じ殺人という行為をしてきた刺殺犯に興味を持ち、俺はその案に乗ることにした。

  ***
 後日呼び出された廃工場に入ると、刺殺犯は梁からぶら下がった首をかけるためであろう輪っかになった縄や録画のためのカメラなどが準備されていた。
「準備が早いな。お前が首を絞めてくれるのかと思ったら、なんだ、絞首台のようだな。」
「やるとなったら、楽しみになってしまった。俺はナイフ専門だ。どこをどう刺せば苦しいかは分かるが絞首に関しては素人だ。それに自分でギリギリを攻める方が面白そうだろう。」
刺殺犯は笑って言う。自分で自分を首を絞めることは難しい。小惑星の件がなかったなら、俺は捕まり、死刑だっただろう。この方法はそんな未来も想像させる。良い設定かもしれない。
 俺は踏み台に乗り、首に縄をかける。
「始めるから、きちんと録画をしてくれよ。ギリギリまで耐えて、踏み台に戻るが、戻れない場合は踏み台の位置を直すなど助けてくれ。死んで見ることが出来なければ、やる意味がない。」
「任せてくれ。」
刺殺犯は、カメラを三脚にセットして、ニヤニヤ笑っている。俺は踏み台から降りた。一気に苦しくなり、俺は縄で締まっている首元に両手を持っていく。今まで殺してきたやつらはこういう感覚だったのか。俺は踏み台に足を戻す。
「なんだ、もう終わりか。もう少しいけそうだがな。」
「最初はこれで良い。今まで殺してきた人間の最期の苦しみが少し分かった。」
俺はビデオを見る。悶絶した表情ではないが、俺は少し満たされた。
「これは、思っていたより良いな。今は良い獲物もいない。それまでの代替え行為に良いかもしれない。」
「俺も見ていて思ったより面白かった。1人では、危ないからな。やるときは俺も呼んでくれ。」
刺殺犯は笑って言う。俺は頷いた。

 それからというもの刺殺犯とともに何度かやった。俺はギリギリに挑戦し、自分の悶絶する姿を見ることが出来るようになった。
「なかなか良い表情じゃないか?俺は刺すことにしか興味がなかったが、これはこれで面白いものだな。」
刺殺犯が言う。自分が反対の立場になると言うのも良い経験だな、と俺は感じていた。しかし、自分だけではやはり充分に満たされることはなかった。この経験を通して、他人の首を絞めたいという欲求に駆られ始めていた。
「お前は最近やっているのか?今ではニュースも殺人のニュースなどやっていないからな。少し街も落ち着いてきたから、良い獲物がいるかもしれない。そろそろ再開しようかと考えている。」
「今は落ち着いてきて、最後まで生きる希望を持つ人間が増えた。お前を満足させる獲物も見つけられるかもしれない。だが、お前が再開するのなら、この遊びも終わりか。俺はこの遊びが気に入っていたから残念だな。だから最後にもう一度見せてくれないか?」
「俺もこの遊びが気に入っている。新しい獲物を見つけても、終わりにする気はないぞ。」
「あぁ、そのときはまた誘ってくれ。しかし、新しい獲物を見つけたら、もうこの遊びでは物足りなくなるだろう。どちらにしろ頻度は少なくなる。だから、最後に最高の表情を見せてくれよ。それを見て、俺も本職に戻る。」
「分かった。お前には今回提案され、協力までしてもらったからな。今まで以上にギリギリのところまで我慢してみせる。」
俺はそう言って、スタンバイする。刺殺犯は録画の準備をしている。俺が首に縄をかけ、ぶら下がると刺殺犯は俺に近付いてきた。俺は苦しい中で疑問に思う。今まで刺殺犯はその場で眺めているだけだった。
 そして刺殺犯は踏み台を蹴飛ばした。おい、どう言うことだ?俺は踏み台がなくなり、完全に縄が首に食い込み始め、意識が薄れていく。
「俺は刺殺犯ではない。お前に娘を殺された復讐者だ。妻も娘の死に苦しみ、人類滅亡まで3ヶ月と聞き、今のお前のように首をつった。そして俺はお前に復讐をすることを決めた。やっとお前に辿り着いたよ。お前が自ら、娘や妻と同じように苦しむ姿を見ることが出来て、俺は満足だ。心残りはない。あぁ、もう聞こえていないかな。」
俺は意識を薄れていく中、刺殺犯と名乗っていた男の言葉を聞いた。俺はたくさんの人間を殺してきた。小惑星を待つより、俺に相応しい最期かもしれないな。そう思いながら、俺は完全に意識、いや命を失った。

  ***
 絞殺犯は完全に息絶えたようだ。はじめは話をするだけで嫌悪をし、自分の言葉も演技といえど吐き気がした。何度も踏み台を蹴りたい衝動に駆られたが、その度にもう少し苦しませてからにしようと自分に言い聞かせた。しかし今は復讐を遂げたというのに、何も感じない。悶絶した表情でしか満たされない男。自分を満たすためには、殺す以外の方法がない男。そして自分を満たすために自分を苦しめる行為も厭わない男。憎しみはいつの間にか哀れ、不憫な男という思いに変わりつつあった。「欠陥品か、的を得ていたな……」独り言ちる。再開すると言わなければ、実行に移せなかったかもしれない。だが、再開するのならば、俺のような人間が増えることを見逃すことは出来ない。
 さぁ、家に帰ろう。最期はお前と妻と同じように、小惑星を待つことなく、妻の隣で同じ死に方をする。妻ともう一度会えるかもしれない。お前にはもう会いたくないがな。

第四章 完

【あとがきという名の言い訳】
こういうストーリーは初めてで、何度も読み直し、書き直しました。特に最近詩や独り言ばかりでストーリー自体書くのが久しぶりだったからなぁ💦本来なら絞殺犯をシリアルキラーにして、復讐する方がスッキリすると分かっていましたが、出来なかった。今性善説と性悪説を考えていたから(笑)そのため全体的に中途半端になったな、と思います💦もう少し絞殺犯の気持ちを書いてただの悪者じゃないキャラを表現したかったし、復讐者の絞殺犯への思いを書きたかった。でもそうすると長くなる…noteはあまり長くしたくない。特にこの小惑星シリーズは。まぁ、シリーズ全部書き終えたら、全体的に見直してみよー。そう言いながら、実は今5か6話連続の話を書いている私。最終章にやっと辿り着いた。お蔵入りにならないと良いなぁ…

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