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【意匠法改正】画面デザインの解禁で得をするのは誰か?

令和3年に改正された意匠法では、画面デザインを単体で意匠登録できるようになりました。この改正は単なる保護対象の拡張にとどまらない、我が国意匠法の立ち位置を根本から変えてしまうかもしれない可能性を秘めています。

 大阪梅田でフィラー特許事務所を経営している弁理士の中川真人です。フィラー特許事務所では、知財の本場である米国で広く一般的に用いられている知的財産戦略のメリットを日本の法律の枠内でも極力再現できるように工夫した知財経営のノウハウを提供しています。

 今回は「意匠法の改正による画面デザインの解禁の目的とそれで得をするのは誰か」というお話をします。画面デザイン解禁の目的には米国の影響を強く受けている可能性が高く、単なる保護拡張にはとどまらない裏事情が潜んでいるかもしれません。

なぜ画面デザインは保護されていなかったのか

 意匠法が改正され、従来「物品のデザイン」に限定されていた意匠法の保護対象が画面デザインの保護にも及ぶようになりました。意匠法は製造業を中心にした活用を想定し制定されているため、従前から物品と分離したデザイン単体は保護対象ではありませんでした。
 そのため、画面デザインは部分的には認められていたものの、液晶時計の液晶部分とか、携帯電話の操作画面とか、液晶時計は液晶部分がなければそもそも機能しないからという理由で、携帯電話の操作画面は携帯電話のデザインの一部として、あくまで「時計」や「携帯電話」という物品のデザインとして保護されるにとどまっていました。
 しかし、令和3年の意匠法改正で物品から離れた純粋な「画面デザイン」だけでの意匠登録が解禁されたのです。細かな要件はあるものの、物品から離れたデザインが単体で意匠登録が可能になるという改正は、意匠法制定以来の大規模な方向チェンジであると同時に、従来の法趣旨や学説を覆すことにもつながり、一部の法学者や実務家からも悪評が立てられるほど物議を醸している大改正なのです。
 では、なぜ「重い腰」「ガラパゴス」の悪名高い日本の官僚が、半ば同業者の専門家を敵に回してでもこのような大改正をしたのでしょうか。フィラー特許事務所では、これを「国際調和」と考えています。

意匠法の創作説・競業説・需要説とは?

 物品から離れたデザインが単体で保護されることに異議を唱える理由は、意匠法の法目的の解釈にまで関わってきます。意匠法はデザインを保護することで産業の発達を目指すという法律なのですが、そもそもなぜデザインを保護することで産業が発達するのかという答えが定まっていないのです。
 意匠法は、さらに19世紀に作られたパリ条約という条約の要請で作られた法律です。条約の要請上「意匠法」を制定する義務はあるのだけれども、なぜデザインを保護することで産業が発達するのかという答えは各国で用意する必要があったのです。
 そこで、まずはデザイナーの創作自体に価値があるという創作説出所識別能力を発揮してお客さんを購入に導けるという競業説よいデザインは良く売れるという需要説があり、特許庁は創作説で法律を作り、事業者は競業説でデザインを決め、争いになったら裁判所は需要説で問題を解決してきました(一般論として)。

画面デザインは需要説と相性が悪い?

 問題なのは、最後の需要説と画面デザインの相性の悪さです。先ほど、携帯電話の操作画面はあくまで携帯電話のデザインとして認めていたと説明しましたが、それは「よい画面デザインの携帯電話であれば、その携帯電話がよく売れる」という理屈が成立するから保護対象として認めてよいという建前をとっていました。
 しかし、その携帯電話の操作画面だけに意匠登録を認めるとなると、別にその携帯電話の操作画面はどの携帯電話に表示しようが権利として効力を発揮するわけですから、「携帯電話の操作画面だけに意匠登録を認めても一体何が売れるというのか?」という問いに答えられなくなるのです。

 一方、創作説と競業説ではこのような問題は生じません。結論から言うと、今は「画面デザイン」だけが独立して商取引の対象となり、ライセンスされ、譲渡されると言う実情があります。そしてそれは、特に米国発のITベンチャーに顕著で、知財ミックス戦略を駆使した「画面デザイナー」が米国の意匠特許制度を活用して一産業を構成しています。
 そのため、国際潮流に合わせるには、画面デザインのデザイナーの創作自体に価値があり、出所識別能力を発揮してお客さんを購入に導けるという法目的に合致すると考えて、需要説(裁判所と学者に人気)に多少問題があろうが問題ないとして、このような法改正を断行した可能性が極めて高いのです(あくまでフィラー特許事務所の見解)。

改正趣旨を考えると制度自体も米国発のITベンチャー文化に寄っていく?

 さらに、令和3年の意匠法改正に先駆けること数年前に、ハーグ協定のジュネーブ改正協定という意匠登録出願の国際登録制度に日本も加入していたという事情もあります。この場合、外国で認められている意匠制度は日本でも保護できる制度を用意しておかないと、逆に日本から外国に出願する際もその制度の利用が認められないという相互主義が発動して、日本からの出願も外国で保護されないし、外国からの出願も日本で保護されないと言う不都合が生じます。
 そのため、国際的に発展している「画面デザインによるビジネスチャンス」に日本も上手く合流できるよう、「重い腰」「ガラパゴス」の悪名高い日本の官僚も、割とあっさりと「画面デザインだけでの意匠登録」を解禁したのでしょう。

 このような経緯を考えると、我が国の画面デザインに関する審査の運用や制度設計も、極力そのメインユーザーである米国発のITベンチャーの文化に寄っていくものと強く想定されます。
 知財ミックス戦略を推すフィラー特許事務所もこの流れは看過できませんので、画面デザインに関するビジネスチャンスに興味のある方は、法人・個人を問わず、一度フィラー特許事務所にお問い合わせをしてみてください
 単なる制度説明ではない、本物の活用方法をアドバイスできる国内唯一の特許事務所であると自負しています。上記の解説を読んで「この事務所は確かになんか違う」という印象を抱かれたはずです。

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弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp