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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第8話「野菜の鮮度」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングル(LINEマンガで30話ほど無料!)へ向かった… 
 そしてnoteの回を追うごとにあらすじの項目が長くなりすぎているのでできる限り簡素にしようと思います。


■ あらすじ

 山岡・栗田コンビは流通大手である栄商グループの新規出店デパート、「ニューギンザ・デパート」の内覧会と取材に訪れる。栄商グループの板山社長は記者に囲まれ、自信満々に当デパートのウリである生鮮食品の品揃えや、レストランフロアの充実ぶりをアピールするが、山岡はそのことごとくに欠点を見つけ腐す。板山社長の堪忍袋の緒が切れ、東西新聞に広告出稿の一切を取り下げるほか、業界ぐるみで圧力をかけようとする。慌てたのは常務と広告部。社主室には大原社主、谷村部長、富井副部長、常務、広告部長が集合し、「そうなったら我が社は潰れる」と慌て、原因である山岡を厳しく叱責する。しかし当の山岡はそんなものはどこ吹く風と「雄山をひれ伏させるためには、たとえ相手が栄商グループでも、俺自身食い物の味にこだわり通さなきゃならないんです」と言い、社主室から勝手に立ち去る。
 山岡の向かった先は、栄商グループ本社前で、板山社長の出待ちをしていた。板山社長が山岡の姿を認めると、「この板山を怒らせたらどうなるか、世間に思い知らせてやるッ」まるで海原雄山のように権力を振りかざし、山岡を威迫する。その板山社長に、山岡はこう投げかけ、野菜の活け造りをご馳走したいと野菜畑へ誘う。

ここで当時の気持ちをちょっぴり思い出し、山岡の意を汲む板山社長は大人物だと思います。

 野菜の活け造りとしてまず初めに供したのは、トマト。しかも生えているのをもいでそのまま食べるという。それは活け"造り"なのか…? 板山社長は半信半疑で口にしてみるが、その味に「昔のトマトはみんなこの香りがしたんだっ!」と感動。お次はダイコン、畑から抜いてきたてのものをスライスして醤油を添える。板山社長は「うまい…」「昔のダイコンもこんな味だったよ…」とまたも昔を思い出す味に出会う。その昔とは、おそらく山岡の言うところの「金も力もない一匹狼だった頃」に食した味だったのだろう。
 この体験から商機のヒントを得て板山社長は商売人の魂が燃え上がる、この味を自分の店で提供できればビッグチャンスにつながるとみて、栄商グループの全店長と役員を緊急会議に招集する。その結果、ニューギンザ・デパートにはもぎたてのトマト、土付きのダイコンが並び、その良さを喧伝するセールスマンも設置された。それは好評を博し主婦を釘付けにし、板山社長いわく「大当たり」し、東西新聞社としても広告収入が増えめでたしめでたしとなるのであった。
 ちなみに山岡は大層板山社長から気に入られ、生鮮食料品売り場だけでなく、この回では全国各地の名産品売り場への苦言も商機につながるアドバイスと捉えられ、今後両人の関係は切っても切れないものになっていくのであった。

■ 板山社長の懐の広さ

 天然・自然礼賛のケが強くなってきた始まりともいえるものであったといえる今回のエピソード。今回山岡が板山社長に振る舞ったのは「有機」「無農薬」などには触れずあくまで「鮮度」を重要視していた。
 冒頭、ニューギンザ・デパートの内覧会&取材で訪れた山岡は生鮮食料品、主に野菜を検分してはケチをつける。板山社長は自分のグループの持つ技術の粋をこらして、できる限り美味しい野菜を届けるということには執心していた。だが「本当に美味い野菜」というものを、板山社長は見失っていて、それを山岡が「野菜の活造り」によって思い出させた…というのが物語のスジだ。
 満座の報道陣のなかで恥をかかされて、東西新聞社への広告差し止め&圧力という大人気ない手段にうってでたのも、まあむべなるかなというところ。板山社長も自分が抱えている従業員の名誉を守るために、そうした強硬手段に出るのも理解できるが、美味しい「野菜の活造り」を口にして柔軟に考えを変えることが出来た。これって成功体験を積んできた人間にはとても難しいことなんだけど、板山社長は自分がこれまで積んできたレンガを崩してでも商機に貪欲に食らいつく大人物と評していいと思う。

こんなことを言われても貪欲に改善策を吸収しようとする板山社長は立派だ

■ 1980年代の野菜

 たぶん「相当まずかったんだろう」ということが推察される。
 2024年を生きる我々にとっては想像しがたいところではあるけれども、その日スーパーで買ってきた野菜が不味かった経験なんてまずないだろう。
 個人的には芸能人が畑に行って、もぎたての野菜を食って「甘~~~~い」なんて評していることがその証左であるようにも思える。
 野菜は、えぐくて青臭く苦いものっていうのが常識だったんだ(それらを甘く育てられた技術はのちのちやります、多分)栄商グループも、もとの仕入れからして間違ってて、その鮮度を保とうが何しようが美味しい野菜になりようがないというのが真相ではないかなと思う。

■ 板山社長という心強い味方を得た回

 それはそうとして、山岡は板山社長の全幅の信頼を得た。今後板山社長のお世話をすることもあるし、お世話になることも多々ある。それなりに社会的ステータスを持つ人間とのつながりを得た、という点でこの回は特筆すべき回だと思う。板山社長は裸一貫からの成り上がりであることを自らわかりつつも、あがく人だから一般庶民的読者からしても応援したくなる。
 彼が得た社会的ステータスを濫用するエピソードもあるけど、斜に構えて斜め上のことをしたがる山岡を善導する数少ない財界人であるように思う。人と人とは巡り合うべくして巡り合う、ということをちょっと、ほんのちょっとだけ思ったりするいいエピソードだと思う

■ 今さら読む『美味しんぼ』

  たぶん初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素とは、このような時代のエッセンスや息吹なんだろうと思う。
  真剣に読んで損はしないのではないか、そう考えてこれから1話ごとに私見を交えつつ読んで感想をアップしていきたい。



・実は、本業は…
 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。≠鉄道オタク の視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも出しています、もしよろしければ是非以下を…
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