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映画「ザ・フォール 落下の王国」~作り話の真実とは?~

          二人で作った物語の中の
          英雄たちが教えてくれた
          絶望の淵に落下しても
          生きてさえいれば
          この世界は美しい    

この映画のオフィシャルサイトより

 物語はパワーだ。文学や映画、演劇などで語られる物語を通して、私達は勇気や生きる希望さえ抱くことがある。作り話かもしれないが、生き方を左右するぐらいのパワーを秘めているのだ。

 「ザ・フォール 落下の王国」もまた、青年が少女に語る物語によって、二人の人生に変化が訪れる映画なのだ。撮影中の大怪我で入院しているスタントマンの彼が、左腕の骨折で治療を受けている5歳の少女と知り合い、彼女に愛と復讐の壮大なお伽噺を語り始める。少女を利用して、ある目的を遂げるためだった。

 アレキサンドリアという名の少女役を演じた、ルーマニア出身のカティンカ・アンタルーの自然な演技が秀逸で、他の役者以上の存在感がある。あと一人というか、一匹の演技も忘れられない。ウォレスという名の猿だ。「子役と動物には勝てない」という言葉があるが、彼らの演技に涙腺が緩むのは間違いないだろう。

 ただ、ターセム監督が構想に26年、撮影に4年を費やした意図が見えてこなかった。お伽噺に隠された意味について、私なりに考えてみた。少女の名前(アレキサンドリア)はアレキサンダー大王に由来している。彼は東洋文明と西洋文明の融和を目指したと言われている(異論もあるが)。彼をキーワードにすれば、この映画のテーマも浮かび上るのではないか? 映画の冒頭で、青年が少女にアレキサンダー大王について説明する場面もある。

 勝手な解釈を許してもらえば、「落下の王国」は様々な問題を抱えた「世界」の比喩で、東西文明(各国)が力を合わせて困難に立ち向かってほしいとの、監督の思いを表現した映画ではないか? 

 地球規模のロケーションを敢行した意味も、そういう意味で納得できる。お伽噺に、悪に立ち向かう6人の勇者が出てくるが、彼らは6大陸(南極を含む)を表わしていると考えてもいい。極端に言えば、青年が西洋文明で、少女が東洋文明と見立てると、また違った映画の見方が出来ると思う。

 この映画からパワーを貰えるかどうかは人それぞれだが、物語の感動が私達一人一人の物語を形作るのは間違いないだろう。作り話の真実が、明日への糧に繋がっているのだ。