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【セカンドブライド】第30話 カエルさんとの新生活準備

11月に入籍をしてから、急ピッチで新生活の準備を整えて行ったた。

家族四人で、安心して暮らすための基盤を整えたいと思った。
家族四人で、幸せになりたかった。
家族四人が、帰って来たらホッとする様なお家を思い描いた。

結婚祝いとして、カエルさんの両親と私の両親からそれぞれ200万円ずつもらっていた。両家の両親に感謝し、その400万円元手として一気に環境を整えて行った。

先ず最初にカエルさんが前の家族と住んでいた家のローンを完済した。

そして、その家を売った1000万円を頭金として、3000万円の家を買った。
残りの2000万円はローンを組んだ。県を跨いだことで、家の値段が倍に跳ね上がったことに、カエルさんに対して申し訳なさを感じる一方で、感謝の気持ちを感じた。

私たちが購入したのは、ハウスメーカーの建売で、一階にLDKと和室、二階に3部屋と言う作りの真っ白な外壁の家だった。日当たりも良く、玄関を出ると駅が見える便の良さだった。それでも静かな住宅街の中にあった。

二人で「このお家可愛いね。私たちのお城だね。」と言い合った。「こんな良いお家に住めるなんて嬉しい。ありがとう。」と言うとカエルさんは得意気な顔になって「いいえ。オレも嬉しいよ。」と言った。子供たちにも一部屋ずつ子供部屋として与えることが出来る、そのことも嬉しかった。

ローンを組むための手数料や、新しいお家の外構の整備、また、新しい家のカーテンや家具を揃えたりすると両家からのお祝いはほとんど残らなかったが、4人で住む家の準備は整い、結婚したという実感が沸いてきた。

そして、私は、カエルさんの望みに応えるべく、勤務していたシステム会社に年末いっぱいで退職する意向を伝えた。そして、年始からは鈴木商店で働くことにした。

大学を卒業してから15年続けたエンジニアとしての生活は快適だったので、終止符を打つと思うと寂しかった。でも、「私は、特別優秀なエンジニアと言う訳でもないじゃないか。」と思った。だから「旦那様」が望む新しい環境で頑張ろうと前向きに捉えた。その方が自分の身の丈に合った生き方なのかも知れないとも思った。

また、一緒に暮らすにあたって、家計は私が預かることになった。
「オレ、前の時もそうだったし、お給料全部渡すからぱるちゃんが家計やって。オレはお小遣いもらえれば良いよ。」とカエルさんが言った。
「分かった。ありがとう。お小遣いも、前の結婚の時と同じで大丈夫?」と聞いたら、カエルさんが答えた。
「うん。前の時は10万円だったよ。」

「あれ?」と思った。以前にお小遣いの話題はしたことがあり、その時には6万円だったと言っていた。

「オレの周りではお小遣い6万円って多い方なんだ。オレの周りはタバコ吸うのも多いんだけど、もっと少ない小遣いで何とかやってる。オレはタバコも吸わないから。だから嫁さんからもらってたお小遣いに満足してたよ。」と得意そうな顔で話していた。その時の情景をはっきりと覚えていた。

受け流すことは出来なかった。「あれ?前に聞いたのと違うね。前は6万円って言ってた…よね?」と確認する様に聞いてみた。

一瞬にしてカエルさんの顔が気まずそうになる。そして、黙り込んだ。

1分にも満たない会話に、穏やかな水面に小石が投げ込まれた時の様に心がざわついた。でも、取沙汰して騒いではいけないと思った。

「みんなで幸せになるのだ。」心の中で言った。

落ち着いて考えた。アプローチはどうであれ、カエルさんはお小遣いが多い方が幸せになれると言っているのだ。

「まず、嘘は止めよう。じゃあさ、これからは7万円でも良いかな?」と以前のお小遣いにプラス1万円した額を提示してみた。
するとみるみるカエルさんの顔が明るく笑顔になった。
そして、「ぱるちゃんって優しいんだね。大好き。」と言った。

自分自身の利益のために、嘘をつく人は、ずっと嘘をつく。
嘘を重ね、ばれないことで、本来生まれるはずの罪悪感さえ薄らいでしまう。そう、思ったら怖かった。

もう一度、自分の心に向かい、不安を打ち消すために心の中で言った。
「忘れよう。取るに足らない小さなことだ。無かったことにしよう。」

躓きたくはない。
みんなで、幸せになるのだ。



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