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【セカンドブライド】第19話 カエルさんと公正証書

娘が生まれた時に、何となく想像していた女の子像。娘が成長する内に何だかこの子は違うと気づいた。とにかくお転婆で、体を動かしている時が一番活き活きとしているのだ。

1歳半の時にはジャングルジムのてっぺんまで上がれたし、2歳になった頃にはブランコも上手に立ちこぎが出来た。幼稚園に入ってすぐ、担任の先生に「鉄棒が上手ですね。」と言われたので、「ミナミの鉄棒、ママにも見せて。」と言ったら空中逆上がりを連続で何回転もして見せた。「そんなこと出来たっけ?」と聞いたら「年長さんがしていたから真似したの。」と嬉しそうに言った。運動会では毎年リレーの選手だったし、水泳を習いたい言うのでスイミングに通い出したら1年ちょっとでエリートコースの選手になった。

最初の結婚をしている頃、娘を何回かスノーボードに連れて行った。でも、シングルマザーになってからはほとんど連れて行けなかった。子供は親の状況を見て我慢する。少なくとも、娘は雪山に行きたくても自分からは言えなかった様子だった。カエルさんがスノーボードをしていると言う話を聞いて、「ミナミもスノボしたい!」と目を輝かせて言った。カエルさんは嬉しそうに連れて行く約束をしてくれた。

娘の嬉しそうな顔が嬉しかった。
娘に楽しみをくれたカエルさんに感謝した。

実現したのは、小春日和でスノーボードの季節ももう終わりかけのことだった。日帰りで南会津にあるスキー場に行くために、とびきりの早起きをした。スキー場に到着してからは満足するまで滑り、冷えた身体を温めようと温泉に入った。そして帰途についた。周りは暗くなってくる中で一般道の渋滞の中を走っていた。前の車のブレーキランプが度々赤く光る。力尽きた子供達は後部座席で眠っていた。私は、気怠くて眠いのを我慢していた。

片手で運転しながらこちらを少しみて、カエルさんが「ぱるちゃんは、公正証書って作った?」と言った。

「私は裁判離婚だから、作って無いよ。公正証書は取り決めを書いて、公証役場で証書にしてもらうんだよね?養育費とか、払われない場合に強制執行が出来るんだよね?」と言ったら、

「うん。司法書士さんからもそうやって説明受けた。嫁さんからそれを作れって言われてさ、大変だったよ。養育費は、ちゃんと払うって言ってんのに、信用されてない感じがしてあんまり気分良くなかったな。家の会社で昔、横領事件があってさ、その時にお世話になった司法書士さんにお願いして作ってもらったんだ。公証役場とかも行かなくちゃで、面倒だわ、出費が多いわ大変だったよ。」と言った。

「でも、離婚は取り決めしないといけないこと多いから。後々もめないためにも作って良かったと思うよ。」

「うん。オレ、頑張ったよー。」

どうしても、子供を育てる側の目線で話を聞いている自分がいた。離婚をすると言うことは、結婚した時の約束が反故になると言うことだ。「幸せにするね。」「一緒に頑張ろうね。」そんな風に言い合った二人が別々の道を歩き出す。状況が変われば人の心も変わるのだ。子育て中に離婚した時には、養育費は払われなくなると思って備えた方が良い。

私の場合、元夫からの養育費は4回だけ振り込まれて途絶えた。養育費について、裁判の和解調書に明記されており、それは、公正証書と同様に未払時には強制執行できるものだった。でも、私は子供達との静かな生活が乱されるのが怖かった。漠然と怖いと言うよりは、はっきりとした恐怖だった。だから、強制執行の手続きを取れずにいた。

「あ、そだ。今日は連れて来てくれて、本当にありがとう。」と言った。
カエルさんは、「いえいえ。喜んでもらえて良かった。ボードに行く約束が守れて良かったよ。」と嬉しそうな顔をした。

カエルさんの元家族は、カエルさんと公正証書を取り交わした後、家を出たとのことだった。

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