【滑り台の疑問】大人の方が滑り台が速い謎を解いたぞ

立教大学は、1874年に米国聖公会の宣教師チャニング・ウィリアムズによって東京・築地に設立された私塾が起源の私立大学です。現在は、池袋キャンパスと新座キャンパスを有し、11学部16研究科を擁しています。国際性やリーダーシップを育むリベラルアーツ教育に力を入れており、世界の聖公会系大学が加盟するCUACにも属しています。また、東京六大学の一員として、スポーツや文化活動にも活発に取り組んでいます。理学部の村田次郎教授と塩田将基氏は、重い人ほど滑り台を速く滑る謎を解明する研究を行い、物理教育誌に掲載されました。

アポロ12号の宇宙飛行士が月面で羽根とハンマーを落下させた所、同じ速さで落下したパフォーマンスが知られています。空気抵抗がなければ、ガリレオ・ガリレイの「ピサの斜塔の実験」として知られる「自由落下の一様性」という性質によるものです。質量が大きい程、慣性が大きく動きにくい一方、重力も全く同じだけ強くなるため、動きにくさと重力の両者が相殺して質量に依らず加速度が一定になるのです。これが有名な重力加速度で、地上では g=9.8 m/s^2と学習するものです。一様な重力場の中で全てのものは、この同じ加速度で落下します。自由落下ではなく摩擦のはたらく斜面を物体が滑り落ちる際には、その摩擦力も質量に比例すると学習します。その結果、重力と摩擦力の比も質量に依らず一定となり、斜面を滑る加速度はやはり一定になるはずです。


図1 自由落下の一様性:重いものも軽いものも、同じ加速度で落下する。慣性の大きさも重力も質量に比例する。摩擦のある斜面を滑るときも、摩擦力は質量に比例するため、同じ加速度で滑るはず。

しかし、現実にはそうではありません。滑り台を滑る時、大人は子供よりも速く滑ります。これはどうしてでしょうか?この問題を解明するために、村田教授と塩田氏は滑り台を使った実験を行いました。その結果、以下の二つの発見をしました。

  1. 滑り台では加速しないで、一定の速度で滑ります。これは、抵抗力が速度に比例して増えるためです。

  2. この一定の速度は質量が大きいほど大きくなります。これは、抵抗力が質量にも比例して増えるためです。

つまり、滑り台では動摩擦係数は速度と質量に依存することがわかりました。これは通常の物理学では考えられない現象です。この研究は滑り台だけでなく、他の摩擦現象にも応用できる可能性があります。

物体は終端速度に達し、重い方が速い事が明らかとなりました。この現象は、ローラー式の滑り台でのみ観測され、金属板式の滑り台では見られませんでした。この研究は大学4年生の探究学習の一環として行われ、物理学の概念に挑戦する面白さと難しさを体験しました。

図2: 本研究で得られた結果。物体は終端速度に達し、重い方が速い事が明らかとなりました。95.5 kgは人が重りを抱えて滑ったもの(図3)。

ローラー式の滑り台では、物体の質量が大きいほど終端速度が大きくなるという傾向が見られました。これは、ローラーと物体の間の摩擦力が質量に比例するからだと考えられます。一方、金属板式の滑り台では、物体の質量に関係なく終端速度がほぼ一定でした。これは、金属板と物体の間の摩擦力が質量に依存しないからだと考えられます。

この研究は、教科書で学んだ物理法則をそのまま適用すると混乱が生じる可能性があることを示しました。実際に観測してみると、摩擦力や空気抵抗などの非保存力が重要な役割を果たしていることが分かりました。また、物理学の概念に知らず知らずのうちに入り込むバイアスにも気づくことができました。例えば、重い人ほど速く動くという日常感覚は、ローラー式の滑り台に限定されている可能性があります。

この研究は大学4年生の探究学習の一環として位置づけられました。自然科学の研究ではデータ解析ではなく、信頼できるデータを取れるようになるまでの準備が最も大変なことでした。しかし、その過程で物理学の基本的な法則や概念を再確認し、実験的に検証することで、物理学への理解を深めることができました。


キン肉マンというマンガで、ロビンマスクとネプチューンマンとの対戦で、お互いが落下するシーンで、ロビンマスクは鎧を着ているから、速く落ちるので得意技のロビンスペシャルを決めるはずが、ネプチューンマンに鎧を奪われて、先に着地されてしまいロビンスペシャルを逆に受けてしまう。

だけどまってほしい。重さはどうあろうと自由落下は一定のはず。空気抵抗はもっと距離がないと差が出ないだろう。でも、小学生にこれを先に読んでしまったら、重いものは先に落ちると信じてしまうだろう。多分、当時の自分もそう思っていただろう。

でも、物理的に間違っているからと作品を非難してはいけない。これはこれで面白いから。話はそれた。

物理学は厳密な条件下の元で計算式を求めているので、現実に実験を再現してみると、誤差が生じてしまうもの。滑り台がローラーと金属板との比較では一見自由落下のような結果が想像されるけれど、やっぱり陥りがちな検証だったわけで。なにごとも実際に試してみることやっぱり大事。
ついつい頭の中で結論を作ってしまいがちになるけれど、まあこれは物理学を学ぶ人よりも、あんがい学生時代で勉強が止まっている人の方がはまりやすい気もしている。

#日本の研究

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