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ストレートに叶うハッピーエンドについて

コロナ期間に入ってから、アプリで無料漫画を貪る時間が増えた。

いわゆる少女漫画の色々を読んだうえで、学園生活ものはどれも似たような話に感じた。(よく言えば、設定とテーマが普遍的なので読む側の負担が少ない)「もっとしっかり読めば違いがわかるのに貴様は怠っている!!」と第3の自分からツッコミが入った。私はニットが欲しいとデパートを一周し、どれも同じに見えて眠くなり何も買わずに帰った人間なので、そう言われるとそうなのかもしれない。

アレコレ言って終わるのもつまらないので、自分ならどんな少女漫画をかいてみたいか妄想してみた。

重たいと笑われる人間の欲望

主人公はアラサー会社員で、恋愛について自分の考えを大切にしている。結婚が生涯の苦楽をともにすることを約束するように、彼女は死ぬまで愛し続ける誓いを守りたい。それは、たとえ相手が死んでも、ということだ。

死んでも愛し続けるというのは理解に苦しむだろう。彼女は誓った時の「相手を愛している自分」を守ることに固執したいのだ。今こんなに彼を愛しているのに、相手の死後、徐々に忘れて他の誰かに目を移すのは過去の自分を裏切るに等しい。

だから決心が揺らがないよう、誓いの象徴をそばに置くことを望む。

よくよく考えた結果、それは相手の左腕の骨がふさわしいと思った。今まで、ずっと肉に阻まれてさわれなかったもの。どれだけぎゅうと抱いても奥に届かないじれったさからの解放でもある。白い骨。うっとり。

死んだら骨が欲しいと相手に頼んでみるが理解されず、衝突も生まれる。しかし、付き合いを重ねることで主人公の多様な面が浮かび上がり、骨を渡せば救えると感じた相手は遺書に記し、そして亡くなる。

葬儀が終わって、自室の机の上に骨を置いてみる。あえて無造作に。このひとりの空間にもっと溶け込むように。

骨を見つめているといろいろなことが思い出される。あの日のディナー、寝坊した日のブランチ、これまで一緒に食事をしてきた栄養が、ここに詰まっている。思いを馳せながら、骨に手をすべらせる。牛乳ばっかり飲んでるからこんなに骨が白いの?と聞くとうるせえよと返ってきた。よかった、もう嫌われる心配などせず、心置きなく愛し続けることができる。彼女はハッピーエンドを迎える。

骨NG

自信たっぷりに説明を終えると「これはちょっと」と編集者に首をかしげられた。なぜだどうしてなんでだ!と鼻息荒くまくしたてると、
「ちょっと、うーん、刺激的なので、ゴールは骨でなく別のものにしませんか?相手と付き合う過程で得られた価値観をもとに、骨以外の大事なものに気づくという・・・。物ではなく、心が大事だと気付いたとか。死んでからではなく、今を大事にしようとか」

それでは、他の少女漫画と差をつけられないではないか。いや、少女漫画とはこのようにAの目標をもった主人公が、B、もしくはA+に到達するものだったのか?

完全無欠な生徒会長を目指した主人公は途中でボロがでて、違うかたちで人から愛される。自分よりも背の高い彼氏が欲しいと願う主人公はいがみあっていた低身長と付き合う。主人公が最初に持っていた望みがそのまま綺麗に叶うストーリーが思いつかない。

少年漫画は素直だ。海賊王になりたいといって海賊王になれたらハッピーエンドだろうし、描いた漫画をアニメ化したいという目標は物語の最後に満足する形で叶う。

なにくそ。女性の理想は叶わず、周囲の状況や"今"の価値観を飲み込んで変形していかないと幸せは手に入らないのだろうか。

少女漫画の話は置いといて、現実ではあるあるだ。ほしかったものがどうしても手に入らない。そうしたら手に入る別のものを持って、そうそうこれが欲しかったのと思い込む。仕方がないのかもしれない。誰にだってそういう時はある。自分の傷を最小限におさえるための一つの知恵だ。

でも、理想を持っていたその時の自分はどうなる?愚かだったなんて笑わないでほしい。完全無欠な生徒会長を演じきれるのならそれもかっこいい。高身長の彼氏と出会えたのなら、違う幸せがあった。私には骨をください。



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