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光害関連ニュースまとめ 2024年3月

2023年3月の光害関連ニュースです。3月上旬はニュースが少ないかなと思っていましたが、後半にどっと増えました。光害と野生動物、光害とアストロツーリズム、衛星コンステレーションをめぐる動きなど、話題はさまざまです。


地上の光害に関するニュース

ボン条約第14回締約国会議、移動性野生動物種の保全を目指す多くの決定をして閉幕

2024年3月6日、EICネットに掲載された記事。ボン条約(移動性野生動物種の保全に関する条約)の締約国会議がウズベキスタンで2024年2月に開かれ、保護すべき動物種の追加が行われたほか、光害が渡りを行う動物に与える影響に対処するための新しい国際的ガイドラインの決定もなされたというニュースです。そのガイドラインに関する決議と、ガイドラインそのものはそれぞれ以下の通りです。

決議文には、人工光が毎年増加していること、夜間の人工光が野生生物の保護、天文学、人の健康にとって新たな問題であることなどが書かれてあります。オーストラリア政府とニュージーランド政府がこのガイドライン策定に大きく貢献したことも記載されていますね。ガイドライン本体は136ページもあるのでまだ全部読み切れていませんが、人工光が野生生物に与える影響や屋外照明を設計するときの考え方など、かなりしっかりまとめられているようです。このnoteでも何回かに分けてご紹介する価値がありそう。

日本やアメリカ、中国などはボン条約を批准していませんが、ガイドラインの決議には非締約国もこのガイドラインを使うことが勧告されています。日本には環境省の光害対策ガイドラインがありますし共通点も多いと思われますので、まずは国内では光害対策ガイドラインを広めていくことが大切ですね。


110万羽が大量死したケースも!野鳥の生命を脅かす「光害」の実態

2024年3月18日に@DIMEに掲載された記事。ニューヨークで9.11テロの追悼として2本の強い光の塔を空に打ち出すイベント "Tribute in Light" が開催されたところ、ちょうど渡りの途中にあった野鳥たちに影響を与えてしまったということが冒頭に紹介されています。以前NHK BS1で放送された「星降る夜よふたたび」でも取り上げられていました(番組を見た後のnote記事)。記事では「110万羽が大量死」となっていますが、番組のほうでは「7年間で110万羽以上の鳥に影響を与えた」という説明でした。例えばNewsweekの記事でも"the light show distracted 1.1 million birds"とあり、distracted=取り乱したにすぎません。記事の「110万羽が大量死」というのは早とちりでしょうか。

ともあれ光が野鳥に影響するのは事実で、環境省の光害対策ガイドライン
でも、ひとつ上のボン条約に関連する光害ガイドラインでも実例として紹介されています。対策としてこの記事では

地球環境やエネルギー問題が注目されている一方で、無駄な光を使い、夜空を明るくさせて野鳥に被害を与えるのは、もはや時代錯誤だろう。安全性や防犯の理由で光を消せない場所以外は、光を消したり、できるだけ自然に近い色の人工灯に代えるべきだろう。

@DIME

とまとめられています。何でも明るく照らせばいいという時代ではない、という点は全くそのとおり。明るくする必要があるところとないところをうまく峻別して、メリハリの利いた照明環境を実現したいものです。

照明「住民コンセンサスを」 星空との共生でシンポ 石垣市

2024年3月21日に八重山日報に掲載された記事。星空保護区として認められた西表石垣国立公園に位置する石垣市でのシンポジウムの紹介記事です。照明デザイナーの面出薫さんが「環境にやさしい照明デザイン」という講演をされたほか、ダークスカイジャパン代表の越智信彰さんが司会、面出さんと中山義隆石垣市長、ホテルの支配人の方が登壇したトークセッションもあったとのこと。観光振興と星空保護の両立を目指すには、天文関係者だけでなく、ホテルなどの施設運営者や照明デザイナーの方の協力が欠かせません。もちろん、そのまえに住民の理解があってこそ。こうしたシンポジウムをきっかけにいろいろな立場の人が自分事として星空保護を考えるようになれば、いい方向に進んでいく期待が持てますね。

その美しさに世界が納得。島を愛する人が守るヨロン島の星空

2024年3月26日にOVOに掲載された記事。与論町のPR記事です。和歌山大学観光学部との協力によって、「①光害の影響を抑えて美しい星空を守る」「②島に伝わる天文文化を継承する」「③ガイド活動を通じてあらたな経済価値の創出」の3点を進めているそうです。光害対策ガイドラインでも推奨されている色温度の低い街路灯に取り替えたり、リゾート施設の照明も光害を考慮したものにしたりと、島を挙げてこのプロジェクトを進めていることが見て取れます。地元に伝わる天文伝承とアストロツーリズムを組み合わせるのは重要なポイントですね。空が暗ければ、(日本国内なら)緯度の違いによる差異を除けばどこでも見える星はほとんど同じ。ただその土地に伝わる文化と結び付ければ、星空もまた違った味わいを生み出してくれるはずです。観光客誘致を目指した星空保護区認定も進められていますが、「夜空はどこもほとんど同じ」ことをきちんと意識しないと見込みが外れてしまうかもしれません。そうすれば、住民からの支持も得られないことでしょう。すでに星空保護区が国内に複数ありますから、観光振興のためなら暗い夜空を守ったうえでどんな価値を追加できるかを考える必要があるでしょう。

暗い夜空を守る「星空条例」制定 環境保全と滞在型観光を推進 スポット紹介など専用HPも 沖縄・国頭村

2024年3月27日に琉球新報に掲載された記事です。星空保護区認定のための申請準備をしている沖縄県国頭村。認定を目指して星空公園設置条例屋外照明管理規則を制定したそうです。前者は対象となる公園を指定し「光害の防止に努めなければならない」とするシンプルなもの。後者は光害対策ガイドラインの規定にあわせて色温度の制限や閉店後の店舗屋外照明の消灯、「上方光束ゼロ」など細かく規定されています。「やんばるダークスカイフォレスト」というしっかりしたウェブサイトも開設して、周知にも力を入れているようです。

“都内”で見る日本随一の夜空、「星空保護区」に認定された神津島の知られざる絶景

2024年3月27日にPen Onlineに掲載された記事。神津島のPR記事です。神津島はダークスカイ・インターナショナル認定の星空保護区のひとつです。

自然の風景であることが信じられなくなりそうな、プラネタリウムも顔負けの全天の星。この美しい星空は、神津島の人々が光害対策に取り組むことで守り育ててきた。

たとえば、屋外の防犯灯や道路灯。従来のものに比べ、光の届く範囲を真下に限定し、光量も最低限に抑えたものにすべて変更した。そのおかげで、港湾施設の業務や日常生活に必要な明るさは十分担保しつつも、夜の光量の測定値や電気使用量に顕著な変化をもたらす結果に。そのためか昨今、静かで暗い砂浜を好むといわれるウミガメの観測数も増えてきているという。

"“都内”で見る日本随一の夜空、「星空保護区」に認定された神津島の知られざる絶景"
Pen Online

街路灯・防犯灯を取り換えることで電気使用量が減ったりウミガメの観測数が増えたりと、目に見える成果が出ているのは素晴らしいことですね。

切実な「光害」をなくせるか? パナソニックの屋外グラウンド向けLED投光器「アウルビームER」

2024年3月26日にマイナビニュースに掲載された記事。光害対策を施したパナソニックの屋外グラウンド向け照明を紹介しています。グラウンドの照明は非常に明るいものが多く、照らすべきグラウンド以外の道路や周辺建物に光が届いてしまうと眩しさをもたらしてしまいます。運転に支障を来したり睡眠を妨害したりする可能性もあるので、必要なところだけを照らす照明器具が求められます。うまく光を制御できれば眩しさを抑えるだけでなく省エネにもつながります。記事では、グラウンド利用者や周辺住民へのアンケート結果やパナソニックの新しい照明の特徴がくわしく紹介されています。パナソニックはダークスカイ・インターナショナル認証の星空に優しい街路灯も作っていますね。照明は、必要な時に必要なところにだけ。それを支える技術も進んできています。

令和5年度冬の星空観察 デジタルカメラによる夜空の明るさ調査の結果について

2024年3月28日に環境省から発表された記事。環境省が毎年夏と冬に実施している夜空の明るさ調査について、今年の1月に行われた調査の結果が公表されました。今回の有効データ投稿数は584件、そのうち「夜空の明るさ」が20等級以上(≒天の川が見やすい夜空)であった地点は106地点。中でも21.6等級より暗いのは小笠原諸島父島、和歌山県田辺市、鹿児島県瀬戸内町と竜郷町(いずれも奄美)、沖縄県竹富島。撮影したタイミングでの空の状態にもよるのであまり細かい数字の比較は意味がないと思いますが、これらの場所は日本でトップクラスに夜空が暗い場所と言えるでしょう。

天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

国際天文学連合IAU-CPS、初の提言書で行動を促す

2024年3月14日に公開された記事。国際天文学連合(IAU)が衛星コンステレーションの影響から暗く電波静穏な空を守るために作ったセンター(CPS)が提言書をまとめたことを紹介しています。提言の主な内容は

  1. 暗く電波静穏な空へのアクセスを守ること

  2. 天文学への財政支援を増やし影響を軽減する策を取ること。

  3. 衛星事業者と天文コミュニティの協力を奨励し、規格制定に繋げること。

  4. 衛星事業者が影響緩和策を取るためのインセンティブを設け、対策を試す試験施設を作ること。

  5. 長期的には影響緩和のための認可や監督についての規制や条件を確立すること。

  6. デブリ問題も含めた宇宙の持続可能性の解決策を見出すための支援を継続すること。

衛星コンステレーションによる天文学への影響、天文学側と衛星事業者側で取りうる対応策などがまとめられています。これも、また改めて詳しく紹介したいと思います。

電波天文観測を守る米国立電波天文台とSpaceXの協力

2024年3月18日に米国立電波天文台(NRAO)が発表した文章と動画。SpaceXのスターリンク衛星が出す電波が電波望遠鏡に直接入って観測が邪魔されたり装置にダメージが出たりすることのないように、2者が協力して実験を行っています。NRAOの電波望遠鏡が向いている方向と観測している周波数をリアルタイムにSpaceXと共有し、望遠鏡が向いている方向にスターリンク衛星が来たときには衛星からの電波が電波望遠鏡のほうに向かないように制御する、というものです。これで最悪のケースは回避できますが、厄介なことにパラボラアンテナは真正面の方向以外にも感度があり、今回の仕組みでは電波望遠鏡の脇の方から回り込んできてしまう電波による干渉は避けられません。一歩前進ではありますが、万全ではないのです。しかもこれはNRAOとSpaceXの2者の協力であり、他の衛星コンステレーション企業とはまだ同様の対策が取られていません。やはりボランティア的な協力ではなく、何らかの法的な枠組みが必要でしょう。

サステナブルな空と地球周回軌道空間

2024年3月18日にNature Sustainabilityに掲載された記事。欧州南天天文台の渉外担当Andrew Williams他による記事で、近年の急激な宇宙開発の進展に伴って軌道空間のサステナビリティ(持続可能性)をめぐる状況が急変していることを述べています。スペースデブリはもちろんのこと、天文学業界として取り組んでいる"Dark and Quiet Skies"の考え方を紹介し、国際的に歩調を合わせた取り組みが必要である、という考えが記されています。筆頭著者のXのスレッドもご参考に。衛星コンステレーションがもたらす影響を受けるのは天文学だけではありませんので、デブリも含めた様々な観点からの議論が必要です。

今回も、ヘッダ画像はMidjourneyによる作画です。

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