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光の街ドバイ

4週間のドバイ出張に行ってきました。国際無線通信連合ITUの世界無線通信会議WRC-23に参加するための出張でした。WRCは、世界の無線通信の使い方や周波数の割り当てが記載されている無線通信規則を改訂するために約4年に1度行われているもので、世界中から4000人近い人たちが集まって議論します。様々なサービスや装置で電波を出していると、場合によっては電波天文観測の障害になることもありますから、そんなことがないように電波天文観測に適した環境を守るという立場で議論に参加するのが今回の出張の目的でした。
 
という本筋の話はまたどこかでご紹介するとして、ここでは人工光の観点から見たドバイについて書いてみたいと思います。ドバイといえば、世界一高い建物であるブルジュ・ハリファをはじめとした超高層ビル群のイメージがあるかと思いますが、夜もそれはそれは華やかです。

世界一の超高層ビル、ブルジュ・ハリファ

まずこの超高層ビル群は、たいてい光ります。輪郭が光るもの、側面にカラフルな電飾があるもの。窓からの明かりが漏れるのではなく、積極的に光っているわけです。電気代なんて何のその、これがオイルマネーの力でしょうか。

WRC-23の会場だったドバイ国際貿易センター(DWTC)の前に広がる景色。
左のツインタワーはエミレーツタワーズ。その間にブルジュ・ハリファも見えます。
右側、てっぺんが光で縁取られているのはゲボラホテル、右下の輝く文様は未来博物館。
中央奥に見えるThe Address Sky Viewも各階がしっかり光っていてかなり明るいですね。
DWTCの北側を通るドバイのメインストリート、シェイク・ザーイド・ロード。
摩天楼が立ち並び街明かりが空を照らしている様子がよくわかります。
AL Jaddaf周辺から望むドバイ・クリーク・ハーバーの遠景。
青く光るのはAddress Grand Creek Harbour。
5つ星のAl Jaddaf Rotana Suite Hotel。私が泊まったのはここではありません、念のため。

こちらはホテル。右のホテルは間接照明的に光があてられていてまだ趣が感じられなくもないですが、その左奥の建物は輪郭が光に縁取られていて主張が強い。
 
小さな商店もたいへんよく光ります。下の写真レストラン。実際はもっとまばゆい印象でした。何もそんなに光らなくても。 

レストラン Green Land。インド系から中華系までメニューは豊富。

こちらはビルの1階に入るカフェと小さなスーパー。この明かりはまだかわいい方かもしれません。そもそもひとつひとつの店の看板照明が、日本のそれよりずっと明るい印象です。

赤と白と緑と黒はアラブの色。ドバイの属するアラブ首長国連邦(UAE)の国旗の色でもあります。会期中の12月2日はUAEの52回目の連邦結成記念日"Union Day"ということもあって、ビル上部に国旗の電飾が輝いていました。

DWTCの隣に立つツインタワーOne Za'abeel。これも縁取りが光るタイプのビル。
2つのタワーをつなぐ構造が目を引きます。設計を手掛けたのは日建設計だそうです。
シェイク・ザーイド・ロード脇に立つドゥジャタワー。ビルの縁取りが緑と白と赤。

WRCの初日夜にはUAE政府の通信担当部門によるレセプションが開かれたのですが、その会場も、これでもかというほどの光の乱舞。

観覧車アイン・ドバイが見える海沿いに作られたレセプションの会場。まぶしい。

国際天文学連合では暗い空と電波静穏な環境の保全を求めて”Dark and Quiet Skies”を提唱していますが、ここはどう見てもBright and Noisy Sky。今回集まっているのは電波の専門家なので、暗い星空なんて考えたことがないのかも知れません。ちなみにこのレセプション会場はヤシの木の形の人工島パーム・ジュメイラのすぐそばです。対岸には大きな観覧車アイン・ドバイが立っていて、そこにITU WRCのロゴを出すという演出も。

観覧車に輝くITU WRCのロゴ。音楽に合わせてスクロールしていました。

そんな環境なので、当然ながら星はほとんど見えません。そもそも空が霞んでいる日が多かった印象です。風が強いとはあまり思いませんでしたが、砂漠の砂が舞っているのかも知れません。そんなところに地上からの明るい光が散乱するので、星を見る環境としては最悪の部類。しばらくは月と木星しか空には見えませんでした。「この辺にオリオンがいるはずだけどな」と思って意識して見るとベテルギウスとリゲルが分かり、目を凝らすと三つ星が見える、というわけで、2等星がギリギリ見える空でした。
 
ドバイの街は海岸線に沿って伸びているので、少し南の砂漠の方に行けば夜空は暗いのでしょうか。町はずれまで足を伸ばす機会は1度しかありませんでしたが、車でせいぜい30分走ったくらいでは大して星が見えるようにはなりませんでした。ドバイ空港着陸前後に空から見た印象では、町はずれでも町はやっぱり光ってる。

ドバイ空港から東に25kmほどの場所。大きく正方形に区分けされた中に家々があります。

Googleマップだとこのあたり。

電球色の街灯と白い街灯と2種類あるようですが、その区分けされた中の家々の敷地の輪郭が光っているように見えます。防犯や交通安全のためにある程度の光は必要でしょうが、敷地を縁取って光らなくても、という気はします。もちろん地上の様子は詳しくはわからないので、何か事情があるのかも知れませんが。

世界の夜間人工光の分布を見ることができるlightpollutionmapではどうでしょう。 ブルジュ・ハリファのあたりでは2015年のデータでスカイクオリティメータ(SQM)による夜空の明るさは17.18mag/arcsec^2、輝度は14.5 mcd/m^2。ちなみに新宿は17.43 mag/arcsec^2、11.5 mcd/m^2ですから、ドバイ中心部のほうが輝度で25%明るいことになります。

2等星がギリギリ見えるという空では、結べる星座はほとんどありません。世界一大きいというショッピングセンター、ドバイモールのカメラ屋にはいちおうセレストロンの望遠鏡が置いてあったりしましたが、こんな空だと星空に興味を持つ人はあまり多くないんじゃないかと想像してしまいます。
 
UAEの中で、ドバイの隣にあるのがシャルージャ首長国。ここにはメガスターが導入されたプラネタリウムがあります。残念ながら行く時間は取れませんでしたが、肉眼で見えない星までがびっしり空を埋め尽くすメガスターの星空と実際の夜空の違いを、地元のお客さんたちはどんなふうに見るのでしょうか。
 
そんなドバイですが、街灯は上に光の漏れない(上方光束ゼロ)のものもそれなりに見かけました。全体としてこれが徹底されているわけではないのでたまたまなのでしょうが、光を出せばいいってわけじゃないんだよ、という考えが少しでも浸透してくれるといいのですが。

ジュメイラ・モスクの近くの街灯。上に光が漏れない、光害を生じにくい設計です。

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