見出し画像

言霊よもやま話 Vol.12 〈百味の飲食(おんじき)〉其の一

原典:『世界維新への進発』(小笠原孝次 著)
編集:新谷 喜輪子 / 監修:杉山 彰

かつて日本には、「少名彦命(すくなひこのかみ)」なる小さな医術の神がいた。

神代の昔、日本に「少名彦命(すくなひこのかみ)」の医術というものがあったと漢法医家は語る。しかしその原理の伝統は長く途絶えて今日知る人がない。ときに神代のことを知る一法として神憑りや霊媒の助けを借りる。神代に薬草園であった木曽の御嶽山の行者は、よく神憑りで薬の処方を出してくれる。 

日本で断絶した薬(くし)の神「少名彦神」の神法の一端が彼地に伝わって発展したものが今日の漢法医学である。漢法には鍼灸経絡の学と本草薬餌の学と物理的化学的の両面がある。今日物質科学に基礎を置く西洋医学がある意味で行き詰りを来たし、その打解法として彼地の医家で東洋医学を学ぶ者が多い。 

ところで今日我々神道家の研究によって神代における精神文明の基礎学、人類の種智学、生命学である言霊布斗麻邇の内景がようやく明らかになって来た。この上に立って、同じく人間の生命の肉体的方面を担当した「少名彦神」の医術を復元することが可能であるという曙光が見え始めた。その第三文明の内容として最初に現出するものは、恐らくは医学である。言霊イの学である五十音布斗麻邇と、胃(脾)の学である漢法医学の綜合原理がすなわち「少名彦神」の医学の復元であり、この復元の上に近代西洋医学を摂取するとき、第三文明の医学が成立する。 

第三文明には桜沢如一門下の玄米菜食運動の人々が集って来る。人間の病を癒す薬と肉体を保つ食物とは同じものであって、その間に截然たる区別があるわけではない。漢薬の原理は直ちにいわゆる正食、健康食の指針となるものである。ところが従来の食養研究家やその信者の中にかえって健康を損ねたり、あまり健康でない人が多いと批評されている。これは色々な理由があるだろう。第一にたとえば易経的な弁証法的な対立する陰陽二個の要素だけを取り上げた簡単な原理をもって複雑微妙に変化する肉体と食物の関係をすべて律しようとするところに無理が存する。第二にその研究家自身の体質の陰陽に適するように発見した主観的な食餌法を対者の肉体の陰陽を顧慮することなしに適用しようとするところに誤りがある。 

第三にその偏りのままを宗教(セクト)団体の形態をもって教えるとき、これを信じる者を食物嫌悪や食物恐怖症に陥れる。この恐怖の心理が逆に内臓の活動を阻害する。小鳥や獣が嬉々として食べている果物を敢えて人間だけが忌避嫌悪しなくともよかろう。食物はまず感謝し親しんで口にすべく、「我等に日用の糧を今日も与へ給へかし」という主の祈りこそ食養法の第一義である。この事を前提として、しかる後食物の選択に誤りなきを工夫することが文明である。また第四に、食養研究家の多くが半面に食品販売の営業に従事していることである。このとき営利が第一の目的となって、健康指導が販路拡張のための手段に過ぎないという傾向が強い。 

健康食運動は現在一つのブームであって、これは明らかに文明の大きな進歩であるのだが、その進歩の道程において、指導者の主観に起因する禍から脱却して、気の毒な犠牲を生ぜしめないために、正しい食餌の原理をいかに樹立したらよいか、このとき改めて考えられることは、「少名彦神」の医術薬餌法であって、その神代の薬餌の基礎である言霊布斗麻邇の上から、改めて人類の薬と食物の原理原則を稽えて行かなければならない。

(次号に続く)

画像1

・・・・・・・・・・

【小笠原孝次(おがさわらこうじ)略歴】
1903年 東京都にて生誕。
1922年 東京商科大学(現在の一橋大学)にて、
吹田順助氏よりドイツ文学、ドイツ哲学を学ぶ。
1924年 一灯園の西田天香氏に師事し托鉢奉仕を学ぶ。
1932年 元海軍大佐、矢野祐太郎氏および矢野シン氏と共に
『神霊密書』(神霊正典)を編纂。
1933年 大本教の行者、西原敬昌氏の下、テレパシー、鎮魂の修業を行う。
1936年 陸軍少佐、山越明將氏が主催する秘密結社「明生会」の門下生となる。明治天皇、昭憲皇太后が宮中で研究していた「言霊学」について学ぶ。
1954年 「皇学研究所」を設立。
1961年 「日本開顕同盟」(発起人:葦津珍彦氏、岡本天明氏ほか)のメンバーとして活動。
1963年 「ヘブライ研究会」を設立。
1965年 「ヘブライ研究会」を「第三文明会」に発展。
1975年 「言霊学」の継承者となる七沢賢治(当時、大学院生)と出会う。
1981年 「布斗麻邇の法」を封印するため七沢賢治に「言霊神社」創設を命ずる。
七沢賢治との連盟で山梨県甲府市に「言霊神社」創設する。
1982年 79歳にて他界。

【著書】
『第三文明への通路』(第三文明会 1964年)
『無門関解義』(第三文明会 1967年)
『歎異抄講義』(第三文明会 1968年)
『言霊百神』(東洋館出版社 1969年)
『大祓祝詞講義』(第三文明会 1970年)
『世界維新への進発』(第三文明会 1975年)
『言霊精義』(第三文明会 1977年)
『言霊開眼』(第三文明会 1980年)

この記事は素晴らしい!面白い!と感じましたら、サポートをいただけますと幸いです。いただいたサポートはParoleの活動費に充てさせていただきます。