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税金と土地の問題をもう一度考えてみよう その3

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

税金の、いったい何が問題なのか?

税を払う人も、税を受け取る人も、税を管理する人も、じつは、同じ税を払う人間であるにも関わらず、その役割と立場が違ってくると、それぞれ異なった気分が発生するのです。税を払う側に立ったときは「損した気分」。税を受け取る側に立ったときは「得した気分」。税を管理する側に立ったときは「自分が自由に使える気分」の違いです。乱暴な言い方ではあるのですが、近代国家の成立に不可欠な立法・行政・司法の三権分立システムは、この<気分の違い>を中和するために生まれ、機能するものである、と言ってもいいでしょう。

従って、近代国家は、選挙民と、同じく選挙民の特権階級とも言える政治家と、官僚と、裁判官の関係で成立しています。選挙民は政治家に税の使われ方の希望を伝える。立法の役割です。政治家は官僚に税の管理を伝える。行政の役割です。裁判官は、それらの動きが適正であるかを判断した結果を伝える。司法の役割でした。政治家のいちばんの役割は、選挙民の話をよく聞くことであり、選挙民に希望を与えることでした。「私に投票してくれれば、これこれの公約を実現します」という図式でした。力のある政治家は、議員立法して官僚に対して公約実現のための実行を命令することに長けていたわけです。

官僚としては、力のある政治家の評価を得ることができれば、出世できるわけで、一生懸命、仕事をしたわけです。選挙民としては、力のある政治家に投票すれば自分たちの希望が叶うという循環です。この循環がうまくいっているときは、私たちが希望したことが現実化しているじゃないか、と納得できるチャンスに恵まれるわけです。しかし、この循環が上手く機能しなくなると、この<気分の問題>が、やがて不平や不満に結びついていくようになります。

では、この循環が上手く機能しなくなるのはなぜなのか? もちろん、始めはこの循環は上手くいっていたのです。「みんなでお金を出し合って、そのお金でみんながよくなるようにしよう」。これが始まりでした。当然、役割分担もスムーズに決まったのでした。「オレはお金を集める」、「オレはお金の使い途を考える」、「オレはお金を管理する」という具合に、です。全員が自発的に申し出て役割分担したはずです。しかし時が経つにつれて、それぞれの役割分担が専業化したのでした。自発的に役割分担を申し出ていた人間以外に、募集して雇用した人間もドンドン増えていきました。組織も膨らんでいきました。お定まりのように縦割り社会が誕生したのです。「オレはお金を集めるだけ」、「オレはお金の使い方だけを考えるだけ」、「オレはお金を管理するだけ」という<だけムシ>が蔓延しはじめます。そして<だけムシ>は、やがて「オレがお金を集めているんだ」、「オレがお金の使い途を考えているんだ」、「オレがお金を管理しているんだ」という<いるんだムシ>に進化し、特権意識を笠に着た<オレムシ>に突然変異します。

組織というものは、つまるところはすべて同じ歴史を繰り返します。“組織化とは、もともと無秩序に存在していたモノを秩序化するための手法であり、秩序化された組織は、やがて飽和、過飽和の過程を経て「播種」という異端の出現、もしくは「揺り動かされる」という外部圧力などの刺激が引き金になり、あるとき突然、2倍体の組織に進化するか、揺り戻されるか、崩壊して消滅するか、の選択に迫られる”のです。簡単に言ってしまえば、革命が起きるのです。組織に「集中と規制と権力」が三種の神器として君臨するようになるのは、あたりまえといえば、あたりまえのことなのです。

で、どうなるか?「オレ一人が頑張ったって、どうなるわけじゃない」というあきらめが蔓延します。近代国家は、一人一人が手に武器を手にとって「オレ一人」が頑張って誕生したのです。その近代国家において「オレ一人が頑張ったってしょうがない」という、近代国家以前の状態になりつつあるのです。<だけムシ>が蔓延して<いるんだムシ>に進化して<オレムシ>に突然変異したのです。しかしこの時、<オレムシ>は、同時に<無関心ムシ>にも突然変異したのでした。<オレムシ>は特権意識の塊ですから、善くも悪くも強固な意志があります。<無関心ムシ>は普遍意識の塊ですから、善くも悪くも強固な意志がありません。あきらかになった結果に対しては、突然、憑かれたように過剰反応するが、あきらかにならない結果や、それに到ったプロセスについては、ほとんど反応しません。

 仕事をつくるために仕事をする人たち

<無関心ムシ>は大衆、<オレムシ>は政治家、もしくは官僚、という構図にするとわかりやすくなります。<無関心ムシ>は、あきらかにならない結果や、それに到ったプロセスについては、ほとんど反応しない普遍意識の塊です。<オレムシ>は、結果をあきらかにし、それに到ったプロセスに反応する特権意識の塊です。

<オレムシ>の側には善くも悪くも強固な意志があります。プロセスと結果を把握し網羅すると、既得権益がドンドン増えていきます。行政の場合ですが、例えば時限立法として設立された特殊法人や認可法人や公益法人を、役割を終えたにも関わらずたたむことをしなくなります。あたりまえです。当該所轄官庁は、前述の法人組織を天下り先にしたからです。

いったん割り当てられた天下り人数を削減することは、削減した当事者の失点につながるうえ、自らの就職の場を失うことで、自らの首を自らが絞めてしまうことなのです。いろいろな理由を付けて役割を終えてしまった法人組織の生き残りをはかります。時限立法ではなかったのですが、雇用促進事業団が、炭鉱閉山による離職者の職業訓練や移転就職者用宿舎建設を目的としていた炭坑離職者援護会が、その前身であるにもかかわらず、その役割と使命を終えた後も、対象を一般離職者に広げて雇用・能力開発機構として存続させている一つの例です。じつはこんな例は山ほどありました。

例えば、ある法案を立法化します。自動車重量税とします。この立法も時限立法でした。税収入の8割以上が、一般道路建設の費用となります。「うちの村にも立派な道路を建設して欲しい」という選挙民=大衆の陳情を受けてつくった法律だったのでしょう。始めは選挙民=大衆から感謝されました。同時に建設会社からも、自動車メーカからも感謝されました。それこそ、ありとあらゆる会社から感謝されたのです。ですから、いったんこの立法を核にして動き出したビジネスタームが無くなることはありませんでした。私たちは、いまだに新車を購入するたびに自動車重量税を支払い続けているのです。

一般道路はどうなったのでしょう? 日本各地に一般道路が建設され、財源は異なるのですが、高速道路までもが網の目にように建設されました。そして「なんで、あんなところに道路をつくっているのだろうか。クルマなんてめったに通らないの」という道路まで、現在も、延々とつくりつづけているのです。これらは、ほんの一例にすぎません。その結果、ちょっと古い数字で申し訳ないのですが、平成18年度末時点で、わが国の長期債務額は、国と地方を併せて767兆円。それに政府保証債務の50兆円を加えて817兆円。そして特殊法人、認可法人の債務残高と財投からの借入残高を足した260兆円を加えて、およそ1,080兆円。じつに1,080兆円が、わが国の借金総額です。恐るべき数字です。これらのような事実は、トーマス・ホッブスが、彼の著書「リヴァイアサン」で見事に言い当てています。

やがて官僚たちは自らのしっぽを食べはじめるようになるだろう、仕事をつくるための仕事をやり出すようになるだろう、と。

そして、その官僚たちをコントロールするべき政治家も、同じように自らのしっぽを食べるようになってしまったのです。選挙のための選挙をやりだすようになったのでした。そして選挙民である私たちは・・・。一人一人の力が集まると強大な力となることを自覚して近代国家を築き上げた私たちも、やはり自らのしっぽを食べてしまっているのです。

今こそ私たちは、モノゴトの発生起源と、そのプロセスをよく見つめる必要があるのです。じつは、ネットワーク社会の最大のメリットは、モノゴトの発生起源と、そのプロセスを、よく見つめるためのコストと時間を圧倒的に減らしてくれるのです。誰でもが知りたいと発信すれば、たちまち「これが知りたいことじゃないでしょうか」というレスポンスが、それこそ山のように返ってくるのです。

ちなみにネットワーク社会は組織化社会と違って、初めは最小単位の2という、きわめて秩序的なモノだったのですが、その最小単位が2、4、8、16・・・、というように拡大していくに従って無秩序化になっていく性質があります。インターネットが普及した今日のネットワーク社会を見てみれば、あきらかです。混沌の極み状態になります。混沌の極み状態になったモノは、本シリーズで何回も言及しているように、やがて飽和、過飽和の過程を経て、「播種」という異端の出現、もしくは「揺り動かされる」という外部圧力などの刺激が引き金になり、あるとき突然、2倍体の組織に進化するか、揺り戻されるか、崩壊して消滅するか、の選択に迫られる”のです。

ネットワーク社会は、ネットワークに参加している一人一人が絶対者なのです。組織社会と違って三権分立は機能しません。というより分立する必要がないと言えるのです。一人一人が三権のすべてを持って存在している社会なのです。「分散と自由と自発性」という三種の神器が、デンと真ん中に鎮座している社会なのです。(つづく)

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その4に続く→

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

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