都会で育った新卒社員のわたしが、森に木を植えて「生きる」ことについて考えた
「parkERsのプランツコーディネーターは、ときに「森レンジャー」に変身し、月に1度、神奈川県横須賀市の“湘南国際村めぐりの森”を訪れています。
「森レンジャー」とは、一般社団法人Silvaさんと共に、持続可能な地球を実現するために取り組んでいる森づくりの活動のこと。
▼parkERsメンバーで「植樹祭」に参加した際の記事
[NEWS]一般社団法人Silvaさまと共に、持続可能な地球を実現するための「森づくり」に取り組んでいます
なぜ、森を作るのか?森でいったい何をしているのか?筆者はプランツコーディネート室のGoogleカレンダーを見ながらいつも疑問に思っていました。今回のnoteでは、parkERsの森づくりの取り組みに完全密着した1日をご紹介するとともに、筆者が個人的に、森に木を植えて気づいたことをお伝えしたいと思います。
はじめに:なぜ「森レンジャー」を取材しようと思ったか
緑の少ない都会に、公園のような心地よい時間をデザインしているparkERs。わたしがparkERsのことを知ったのは、3年前の新卒向け会社説明会でのことでした。
「都会の建物は、直線など無機質なもので作られていて、人々は知らず知らずのうちにストレスを感じています。そこで、花や緑、木や水などの自然の有機的な要素を使って空間デザインをすることで、parkERsは心豊かな時間を作っています。」
東京生まれの東京育ち、成果を求められる社会に疲弊して逃げ込んだ美術大学で、絵筆を片手に、キャンバスの平行な四角にすらストレスを感じていたわたしは、この話を聞いたときに、(これはまさにわたしが感じているストレスだ。そしてその答えは植物にある!)と共感し、入社を決めたのでした。
社会人になり2年間、parkERsでPRの仕事をするなかで、わたしはどこかでいつも「正しいこと」を言わなきゃ、と思っていたのですが、parkERsの取り組みを自分の目で見て、自分の心で感じて伝えられる、もっと心のこもった発信がしたいと感じ始めていました。そして、この「森レンジャー」の取り組みに手を挙げて参加することとなったのです。
2月27日、春の風を少し感じる逗子にて
“湘南国際村めぐりの森”を訪れるために、足を運んだのは逗子駅。ここで一般社団法人Silva代表・植生管理士(環境省・農林水産省登録)の川下都志子さんと合流し、植樹の現場へと向かいます。
この日の参加者は、川下さんと横浜国立大の3年生 森林再生指導員のせき君とまー君、parkERsから児玉と矢崎(筆者)の5名。
めぐりの森に到着
30分ほどで湘南国際村めぐりの森に到着しました。
神奈川県横須賀市に位置するこの場所は、ゴルフ場を作るために森を壊し、その直後のバブル崩壊とともに神奈川県に返還された112ヘクタールの土地。10年前から植樹を行なっています。
写真の山の左半分は、植樹をした部分。右半分は、誰かが植えた落葉樹の部分。本来であれば、関東以南の山は常緑樹が生えていて、冬場でも緑色をしているはずなのです。
「生態系機能回復式」の植樹とは?
Silvaの取り組む植樹の方法は「生態系機能回復式」。
これは、「そこにある命を活(生)かす」ことにより、人間以外の生物の力も借りながら、失われた生態系機能を回復させていく手法です。
土地本来の樹種を混植密植で植えて、原生林に近い森林を形成します。あえて密植にすることで種類によって異なる根が絡み合い強く張り、地盤が強くなることで災害に強い森づくりに繋がります。
まずは、今の植生を調査して「植生シナリオ」を作成。植樹をするために今ある木をどかしたり、他の場所から土を運んでて更地にするのではなく、今ある地形や地理、土着菌や草木をそのまま活かして森を作っていきます。土地本来の木を30〜50種類ほど「植樹」。その後1〜3年は、苗木の周辺の草刈りをするなどして「育樹」を行ないます。
通常200〜300年かかると言われる森の再生。この「生態系機能回復式」の植樹を行なうことで、それが20〜30年に時短されるそうです。
午前:どんぐりを植える
持ち運べる「神社」で、植樹をさせていただくことに感謝して、いよいよ植樹地に入っていきます。川下さん曰く、植樹をすることで「いいことをやってあげた」と思うのは大きな勘違い。これは人間の叡智の実験であり、正解であるかどうかはわからない取り組みなのです。
川下さんが取り出したのは、たくさんのどんぐり。午前中は、植樹をした土地にどんぐりを植えるそうです。
このどんぐりは、横浜国立大の森でひとつひとつ拾ってきて24時間以上水につけたもの。ここから芽が出ていずれは木になるのです。
今ある地形や地理、土着菌や草木をそのまま活かして植樹をしているというだけあり、素人のわたしは、どれが植樹した苗木で、どこを踏んでいいのか、踏んではいけないのかわからない…。四苦八苦しましたが慣れている4人に教えていただきながらどんぐり植えをすすめます。
ここで、わたしはどんぐりを効率よく早く、全部埋め終わろうとしている自分に気がつきました。急ぐ必要なんて全然ないのに。とにかく早く成果を出すことばかり考えていた自分が急に恥ずかしくなりました。
東京で社会人になり「自分なんていくらでも代わりが効く人間だ」とどこかで思っていたかもしれない。直線でできた世界で常に時間に追われてあくせくしていたのかも。そう思ったら、自然と向き合って願いをかけるようにどんぐりを植えることができました。
自然の中では「枯れて死ぬ」
お昼過ぎ、現場にトラックが到着。植樹をするための土に混ぜる炭の納品です。袋に入った炭を5人でひとつひとつ荷下ろししました。
限界集落の炭焼き活動を支援するため、Silvaは炭部会長の富山さんという方から炭を仕入れています。使う資材のトレーサビリティも精査しながら、森の再生を進めているそうです。
富山さんが、みかんをくれました。このみかんは無農薬で無添加なので、皮ごと食べられるとのこと。都会っ子も恐る恐る皮ごといただきました。美味しい!むしろ、皮の方が美味しかったです。
「このみかんは、ずっと置いておいても腐らない。しぼんで枯れていくの。植物がそうであるように、本来は人間も枯れて死ぬはずなんだ。」
枯れて死にたい。そう言う富山さんは、普段から添加物の無い食事を心がけていらっしゃるそう。
森の中で、普段だったら考える暇もない「死」について想いを馳せます。死は生きることの反対語ではなくて、生きることの一部。
(実は、わたしがわたしとして時に喜んだり悲しんだりしながら生きてきたことは、かけがえのないことなのではないのか?)という想いが湧いてきました。
成果を出さないとダメとか「正しいこと」を言わなきゃダメではなくて、地球上で、目に見えないサイクルの中で生かされている小さな生き物であるということに、どれだけの感謝ができるだろう? そんなことを考えていました。
午後:土に炭を混ぜる
午後は、届いたばかりの炭を土に混ぜます。
土に炭を混ぜることで、空気の穴ができ微生物の住みかとなり、微生物が住むことでたくさんの土壌生物が住む豊かな土になります。この土を植樹地に使うことで木が育ちやすくなるそうです。
満遍なく土の上にかけたら、フォークでかき混ぜていきます。ここにたくさんの生物が住んでくれるといいな。
道具を大切にすること
作業が終わると、使った道具を丁寧に磨きます。このフォークはSilvaでずっと使っているものだとか。
「道具を大事にすると、道具もわたしたちを大切にしてくれるからね・・・」と川下さん。
ふと思い出したのは、「星の王子さま」のお話。何万もの薔薇の中でも、たった一輪に時間をかけて世話を焼くことでかけがえのないひとつの薔薇になる。
都会にいると、自分の代わりはいくらでもいるような気がする。でも何かを大事にするだけで、代わりのきかない、かけがえのないひとりになれる。そんな風に教えられたような気がしました。
まとめ:「森レンジャー」の取り組み
この日植えたどんぐりのうち、何個が発芽して、いつ芽がでるのかはわかりません。でも現場に足を運んで手を動かすことで、確実に地球や自然のサイクルを意識できる機会になります。
月に1度、森レンジャーとしてプランツコーディネーターが都会から森に行くこと。これは都会で生きているわたしたちが、持続可能な社会をつくるために企業として何ができるのかを考えることに繋がっています。
さらにはparkERsが、都会にいても生態系のサイクルを感じさせるようなデザインを提案できるきっかけにもなっていると感じました。
室内でひとつの生態系として成り立つ“アクアポニックス”を開発中の
parkERsオフィスの壁面緑化
さらには、わたし自身がparkERsのいちスタッフとして、PRという立場で何を発信していけるのだろう?と考えさせられるきっかけにもなった日でした。
パーク・コーポレーションの企業理念は「Living With Flowers Every Day」。花や緑を使って少しでも多くの人々の日常を豊かにし、より良く持続可能な社会に貢献できるよう、取り組んで参りたいと思います。
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この記事を書いた人
parkERs ブランドコミュニケーション室
矢崎
キャンバスの四角にストレスを感じていた頃の作品(大学1年)
ちなみに唯一合格した武蔵野美術大学の入試問題は
一番得意なモチーフだった「植物」でした。
(合格再現作品(懐かしい))