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植物が求められる社会と、室内緑化の未来を考える。“人×環境×植物”の最適解を追求する取り組みとは?

近年、世界的にも緑の重要性が認知され始め、アメリカのGAFA含め多くの企業が特にオフィス空間に緑を導入しています。日本はどうかというと、国が進める働き方改革やWell-Being、ESG投資、SDGsの浸透などにより大企業を中心に積極的に緑を取り入れ始めました。雑誌やNEWSでも室内に緑ある空間を目にすることが増えてきたかと思います。

しかし、実際の現場はどうかというと、「緑にかけるお金の費用対効果はどんなものか?」「人にどのくらい効果があるのか?」「室内でも緑はどのくらい育つのか?」などなど、数値をもとにした説明を多く求められます。
そんな声にエビデンスを基にしっかり答え、緑をさらに広めていくため、2019年7月、parkERsにリサーチ&ディベロップメント室が発足しました。

わたしたちのミッション

わたしたちリサーチ&ディベロップメント室(以下、R&D室)のミッションは、エビデンスを通して社会に、人が緑とともに過ごすここちよい空間・環境を広めることです。
まず第一にあげるテーマは「人×環境×植物の最適解を求めよう」ということ。
昔から言われていることですが、植物にとっていい環境は人にとって良いとは限りませんし、その逆も然りです。人が過ごす空間の中に植物をいれるためには、両者にとって悪くない環境を導く必要があります。

自然界で、動物や植物、菌類などがその土地の環境に合わせてバランスをとって成り立っていることを、“生態系”という言葉で表します。室内空間においても人と植物が共存するバランスを取れる関係性=“室内の生態系”があるのではないか?とわたしたちは考えました。この最適解を求めようというのが、R&D室のテーマです。

ただ、それを明らかにすることはとても難しいことで、業界でもなかなか研究を進められずにいました。しかし、先述した近年の緑のニーズの高まりによって、分野を問わず多くの企業や研究機関が緑に関する研究を始めています。わたしたちも、このプロジェクトに興味を持っていただいた各分野のグローバル企業様、大学機関とパートナーを組み、エビデンスづくりを進めています。

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大学の教授と学生との交流の様子

わたしたちの取り組み

R&D室の最初の取り組みとしてリリースしたものが、BtoB向け室内緑化のオートメーション管理システム「Indoor Park Monitoring System(インドアパーク モニタリングシステム)」(特許出願中)の開発です。

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Indoor Park Monitoring System

このシステムは、室内環境(室温、湿度、CO2濃度、PM2.5、照度など)と土壌水分、画像などをセンサーやカメラで観測し、そのデータをクラウド上で管理。それらのデータとモニタリングした植物の状態に応じて、自動潅水(かんすい)システムと連動して給水を行います。

農業の分野では珍しい技術ではないのですが、実は室内緑化で実現するには非常に困難な技術でした。人が過ごす室内環境においてどのような要素が植物に強い影響を与えるのかはまだまだ分からないことが多いのです。わたしたちはこのシステムを使いながら大量のデータを集め、植物がより育ちやすい空間を追求していきます。この分析によって生まれるメリットがたくさんあります。

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①植物のランニング費を削減
植物は生きているので、メンテナンスが必要です。通常parkERsでは、月に2回ほど植物の専門家であるグリーンライフチームが現場に伺って、植物が成長するための処方を行ないます。それにより発生するのが、ランニング費用。その内訳は「専門家の作業費」と「枯れ保証費」です。

システムを導入し、自動潅水などの作業の自動化を取り入れることで、まず「専門家の作業費」を抑えることができます。そして「枯れ保証費」。これは、環境に合わず、万が一枯れた場合に植物を無償で交換する費用のこと。今まではお客さまの環境が実際にどのような環境なのかが感覚値でしかわからなかったため、枯れ補償費を多く見積もることしかできませんでした。しかしシステム導入にあたり環境評価をすることで、環境を数値として把握でき、その後の経過もモニタリングができるので、「枯れ補償費」を抑えることができます。

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上部プランターに水分センサーが設定されていて、自動潅水と連携している

② ソフトサービスを増やして植物との距離を縮める
自動化によって生まれた新たな時間を使い、お客様に植物のある空間を楽しむためのソフトサービス=プランツプログラムを提供することができます。これまでスタッフは作業効率を考え時間に追われていました。植物のある空間は入れて終わりではなく、入れてからがスタートです。パーカーズでは植物の魅力や効果を感じるための様々なサービスを実施しており、この幅が格段に広がります。

例えば、季節のお花の一輪挿しをお配りするのはもちろんのこと、剪定材の生け込み、植物の植え込みWS、植物の香りの講習会、屋外に出て街の植物の観察会などなど、植物に直接触れて効果を体感するサービスから、新たな知識を得られる講習会まで様々なアクティビティを提供することができるようになります。

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ワークショップの様子

③ お客さまが自ら育てる楽しみを提供できる
究極の目標は、お客さまに植物を育ててもらうことです。植物は自分で育てると愛着が生まれる、触れることで脳が活性化される、など直接植物に関わることで人への効果が最大化されることが分かっています。
これまで室内の植物は水の管理がとても難しく、お客さまにお任せすることができませんでした。アドバイスするにしても、水をやった・やらないの話になり責任の所在があやふやになってしまいがちだったからです。

そこで、このシステムを導入することで、環境や水の状態がリアルタイムにモニタリングできるので、専門家もお客様への的確なアドバイスが可能となります。これまで植物から距離を置かなければならなかった室内緑化も人とぐっと距離を縮めることができるようになるのです。

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R&D室が勝手に考える、室内緑化の未来

室内緑化の流れは文頭に述べた社会的潮流に加え、バイオフィリックデザイン(※)を筆頭にしたデザインの潮流も交わり、今後もしばらく大きく広がっていくと思います。

(※)バイオフィリックデザインとは、バイオフィリア(人間にはもともと生き物や生気に惹きつけられる心理的傾向があるのではないかという仮説)に基づいたデザイン手法のこと。


室内緑化が広がっていったその先、どんな課題が出てくるか?それは省資源、省エネルギーの問題と、デザインの単調化です。それぞれの課題と、わたしたちが行なっている取り組みについてご紹介します。

①資源の大量消費からの脱却
室内緑化をするために、どれだけの資源とエネルギーが使われているのでしょうか?例えば植物を育てるためによく使われる“ピートモス”は何万年もかけて植物が堆積し腐食してできた地球の貴重な資源です。“パーライト”は高温で熱処理して発砲させたものです。

わたしたちはできる限り持続可能な資源を使って緑化をしたいと思っています。
オリジナルの土、“parkERs soil”は、スターバックスさんのコーヒーの殻など現在使われていないものを使用し、新たに地球を掘削しないため環境に負担をかけません。また、近年日本で問題となっている“竹害”(※)から日本の森を守るため千葉の竹林の間伐材を炭にしたチップを入れる改良も行ないました。

(※)“竹害”とは、驚異的な成長スピードと生命力を持つ竹林が放置されることで周囲の森林に侵入し、植生を破壊してしまう被害のこと。

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parkERs soil

他にも、室内にスギやヒノキの間伐材のチップや樹皮を敷く、伊豆大島の溶岩石を活用するなど、処理に困っている資源を加工し、室内のデザインに生かしています。

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シダ植物を着生させている溶岩石

② エネルギーの大量消費からの脱却
エネルギー問題も重要です。私たちの身の回りはいまやセンサーに囲まれています。これからの社会が“Trillion sensors universe”(※)と言われているようにたくさんのセンサーが電力を消費していく時代です。それを解決するためにR&D室では室内における自家発電について研究を進めています。例えば室内の照明で発電できるソーラーパネルを導入することを検討中です。室内に置いて光が必須である植物とソーラーパネルは相性が良さそうですよね。

(※)“Trillion sensors universe”とは毎年1兆個のセンサーを活用する社会のこと。2023年に毎年1兆個を超えるセンサーを活用して社会問題を解決しようとするビジョンを2013年にJanusz Bryzek氏が提唱した。

③ 日本らしい植栽デザインの追求(脱欧米化)
室内緑化というと大抵は熱帯に生息しているような観葉植物を大量に入れることをイメージしがちです。アマゾン本社のようなイメージですね。わたしたちは、どこも同じ植物だと、近いうち日本人は室内緑化に飽きてしまうのではないかと勝手に懸念しています。日本には自生種が5000種もあると言われています。欧州ではせいぜい5〜600種しかなく、日本の植生の多様性は群を抜いています。

室内緑化でもこの多様性を生かすべきだと思っています。自生種を室内で使うことでデザインの多様性も生まれ、何と言っても日本人が愛着を持つ植物は人への心理・生理的効果も大いに期待できます。

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室内に自生種を植えた様子

私たちR&Dは他チームと共に未来の室内空間を想像し、それに必要な研究を積み重ねていきます。研究のための研究は、parkERsでは必要ありません。研究をどうやって社会に落とし込んでいくか?その結果どんな社会にしたいのか?と考えていくことがとても重要です。そのため、R&Dはロジカルな思考ももちろん大切ですが、実はクリエイティブな発想が最も必要。ワクワクするような発想を忘れずに、これからも人が緑とともに過ごすここちよい空間・環境を世の中に広めていきます。

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この記事を書いた人
辻永岳史(つじえ たけし)
parkERs リサーチ&ディべロップメント室マネージャー
プランツコーディネーター

大学院にて壁面緑化を中心に都市緑化技術を研究。
その後、大手花屋でフラワーデザインや空間装飾を学ぶ。
専門的な知見を生かした植物のコーディネートや土地本来のあり方から導く
豊かなコンセプトメイキングで数多くの空間デザインを手がける。