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【 最終回 】 風のつぶやき #05 「壁画」 について | 小田佑二

ここ数年壁画の仕事をいただく事が増えた。有難い限りだ。今では自分なりの「壁画とは」もある。壁画を描き始めた頃はとにかくヤバい絵を描こうという気持ちが強かった。今もあるけど、同時にクライアントやオーナーさん、プロジェクトに関わる方々と一緒に壁画を創る事を楽しんでいる。その事でより壁画に愛着を持ってもらえるし、壁画のコンセプトや制作ストーリーを話してくれる人が増えると思っている。そうやって壁画が場所に馴染んでいく事が今の僕の興味で重要な部分だと感じている。

そんな考えに至ったきっかけがある。

2020年秋、僕は鳥取県は鳥取市八頭町の隼という地区にいた。この町にある廃校を利用した施設「隼Lab.」の50mプールに壁画を描きに来たのだった。普通は25mプールが一般的だが隼は水泳が盛んな地域で大きくて立派なプールがあった。ペイント壁面は長さ70m、高さは大体5m。これだけでも相当大きいのだが、現地に行ってみたら幅1.5mほどの屋根が50mくらい続いていて、その内側もペイントしようという事になった。納期は2週間、期間内に地域の方々と一緒に壁画を描くペイントワークショップが2日間予定されていた。この前年に千葉県成田市にある学校のプールに35mの壁画を描いていたのである程度は慣れてたつもりだったけど、実際の隼プールはそれよりも更に大きくどぉーんっとして存在感があってワクワクするけど大丈夫かなという心配が勝るサイズ感だった。

そんな中有難い事にスタッフや地元の方々に歓迎会を開いてもらった。そこで隼と水泳の歴史についてのお話を聞いた。
90年の歴史があって、優秀なスイマーを数多く輩出した事。
この地域で育った人にカナヅチの人はいない事。
昔は川の水を引いてプールに流していた事。
そして極めつけは、校歌とは別に存在する「プールの歌」だ。
歓迎会では「プールの歌」も歌っていただき、歌詞を壁画にも反映させましょうと盛り上がった。この地域の皆さんの生活の中には常にプールがあり、それは世代を超えて繋がっていると強く感じた。

果たして皆さんに気に入ってもらえる壁画を描けるだろうか。納期内に無事終わる事が出来るだろうか。色々な心配事が頭の中をグルグル周り、とんでもない仕事を引き受けてしまったという想いが頭をよぎったのを覚えている。

ただ、そんな想いは実際作業が始まるとすぐ消えた。皆さんホントにサポートしてくれるし、いろんな差し入れも頂いた。高い脚立が欲しいと言うと何脚も持ってきてくれたし、夜ご飯や晩酌用のおつまみを作っていただいたり。仕事の合間や休みの日に手伝いに来てくれる人もいた。僕は大体朝6時くらいから作業していたのだが、近所の方が犬の散歩中に僕を見ていて、僕がいる日は朝ごはんを届けてくれた。また泊まっている場所にも差し入れを持ってきてくれたり、夜ご飯にも誘っていただいたり、コロナ禍に東京から来た人間に対して皆さん本当に親切だった。
そしてペイントワークショップの日は沢山の方々が来てくれて、延人数は100人を超えていたと思う。

制作も後半戦に入り、相変わらず終わらないかもって不安はあったけど、これだけの応援や協力をしてもらっていると、隼の為になる壁画を作ろう!僕らの隼!のように自分もここの出身者と言わんばかりの気持ちになっていた。だからちょっとでも隼をアピールできる方法を考えていたし、絵も最初の下絵から変わっていった。今僕が壁画の仕事で意識する事の1つとして、プロジェクトチームの方々と同じ目線で壁画を考えるようにしている点があるが、これは隼での経験が大きい。難しいことも多いけど、ただ仕事で描くというよりも一緒に創るという方向に頭を切り替えれた時は壁画の方も良い出来になってる事が多い。

あとプールの歌を壁画に反映した事や、手伝ってもらう際中やペイントワークショップなどで、ペンキがはみ出したり、上手く塗れないとかで当初の絵柄からオブジェクトの形が変わっていく事を僕は楽しいと感じる。そこには僕だけでなく関わった方々のアイデアや気持ちが乗っていると思う。そういう事は場所に根付いた壁画になる為の必要な要素だ。

結局当初の予定より2日遅れて壁画は完成した。次の予定を後ろ倒しにしてたので仕方なかったが後ろ髪を引かれる思いだった。
楽しいし居心地が良すぎて、何日か延長してここでゆっくりしたいなぁと思っていたし、こうやって知らない土地に来て、そこに住む方々とコミュニケーションを取りながら壁画を描いて、美味しいご飯を食べて、お酒も飲んで、お金がもらえるなんて、なんて最高なんだ!!と新たに自分のやりたい事の発見もできた。もっともっと色んな場所で壁画を描いてみたい。

その後、翌年も僕は隼に行ってまた違う壁画を描いた。昨年は京都に仕事で行ったついでに隼を訪れた。ついでというには遠すぎたが僕が行きたかったので全然OKだ。毎朝ご飯を届けてくれた近所の夫妻とはその後も親交があって季節の果物を送ってくれる。手伝ってくれた方々とも今も連絡を取り合っている。壁画を描くために訪れた場所だったがホント良いご縁に巡り合えた。
そして、東京に戻ってからもこのご縁は続き、八頭町で壁画を描いた事がきっかけで八頭町出身のイラストレーターなかおみちお君を紹介してもらい、その流れからみちお君が展示をしている PARK GALLERY と繋がって、そして今、僕は PARK GALLERY で個展をしている。

人生何があるかわからないし、どうなるかもわからないが、こうやって面白い人たちと繋がっていけるのは楽しい。
もっともっとこんな事がしたいと思う。

ー 小田佑二


『風のつぶやき』完結

絵描きの小田佑二による連載『風のつぶやき』では、絵にまつわる自分事をご紹介してきました(「風のつぶやき」とは父が発行していた家族新聞のタイトルです)。お読みいただいていた皆さま、ありがとうございました。引き続き全5回公開しているので、見逃しているかたはぜひ全回お楽しみください。そして開催中の個展『ガーデン』も残すところこの週末までですので、どうぞお見逃しなく。

個展『ガーデン』に寄せて、インタビュー動画も公開しています。ぜひ小田さん自身の魅力も感じでください。

小田佑二
秩序ある即興のパターン化をテーマに、見た・聞いたことからのインスピレーションや情景を線や面の構成で表現している。 六本木アートナイト、GOOUT CAMP、FUJI ROCK FESTIVAL など、イベントでのライブペイント、ペイントワークショップや国内外での壁画制作・作品発表をはじめ、書籍、音楽、ファッションなど様々なジャンルのアートワークを手がける。
https://www.instagram.com/odarian

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