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issue 02 「さらば、私の秘密基地 〜音の中で朽ち果てた青春〜」 by ivy


青春の場所!
といわれて、みんなならどんな場所を思い浮かべる?

学校とか、塾とか、みんなで遊んだ場所とか……
少なくともローティーンについて思い浮かべるなら、それほどレパートリーはないはずだ。何せ行動範囲が狭い。せいぜい学校から自宅の間、もっといえばあまり途中下車をしないから、学校と自宅の半1km 程度か。少なくともローティーンについて思い浮かべるなら、それほどレパートリーはないはずだ。何せ行動範囲が狭い。

で、私の場合は、今はなき神保町の老舗 CD ショップ「ジャニス」がそれにあたる。友だちも彼女もおらず、こじらせた自我と、異様に伸ばした前髪でさらに視野を狭めていた私にとって、文字通り、友だちは音楽だけだった。

そんな私にとって、人生を、大好きなこと起点で、少しだけ前に向けてくれたのがこの「ジャニス」。今でも音楽は好きだけど、この時代、そしてあの店がなかったら、少なくともこんな人間(サブカルお喋りクソヒゲメガネ)にはなっていない(なりたかったとはいっていない)!

今回は、そんな私、サブカルお喋りクソヒゲメガネの原点である青春の思い出の残像について ーー

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まだサブスクはなかったし、ギリギリ音楽にお金を払わないと触れられない時代だったように思う、2013年。

小遣いも少ない中学生の私にとって、最大の楽しみは CD を買うこと。当時は90年代の US オルタナ、グランジに衝撃を受け、どっぷり浸かっていたんだけど、当然ながら同じ音楽の趣味を持つ人なんて、身の回りにゼロ。古い音楽雑誌やディスクレビューを漁り、YouTube やら MySpace やらを駆使してどうにかこうにか一部を聴いて、気に入ったやつを中古のレコ屋に探しに行く毎日……。

そんな日々で足が向くのは、やはり自宅の側である神保町〜御茶ノ水のレコ屋群だ。井の中の蛙どころか水溜りのボウフラのようなスケールで毎日を過ごしていた当時の私には、渋谷や下北なんて、行きたくても遠い場所。遠征くらいの感覚。ただ、今考えてみても、仮にそういう場所へ足が向いていたとて、たぶん地元で充分だと思っていたんじゃなかろうか。なんせ、最新の音楽どころか、自分が生まれるちょっと前の、アメリカのムーブメントの作品。そういうものが、安くすんなり手に入るお店なんて、そう多くないわけで。その一つが、「ジャニス」だった。

「ジャニス」の何がすごいって、まず、その品揃えのマニアックさ。
一体この日本で90年代、オルタナ全盛期に時代の徒花のように散っていった日本未発売のバンドたち。TAD、Screaming Tree、Cat Butt …… これはまだまだ納得できる。さらにいくと、ムーブメントにすら乗っていない、後追いの、インディーズバンドやら非アメリカのバンドまで扱っている。当然ながらググってもバンドの ホームページかレーベルページしか出てこないバンドもあるし、ネットにまともな情報すらないバンドもザラにいる。

そんなある種の狂気ともいうべき在庫の山が、所狭しと、整然と並ぶ。で、もう一つ、これが安いんだ。「ジャニス」は、レンタルと販売両方やっているけど、レンタルは当然、販売と比較にならないくらい安価だし、販売もダンボールにずらりと並んだ100円コーナーから、相場より安めな中古棚もある。懐の寂しい中学生にこれ以上ありがたいことはない。

だから、本当に、ひたすら通った。CD 屋だから、他の人と話すことなんてほとんどないけど、この狭い空間に、誰も知らないと言われそうな音楽を求めてくる人が、いると思うだけで、なんだか普段住んでいる世界より、本当はもっと楽しい場所があるんじゃないか、と。前向きになれたから。

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今、WEB や ZINE 、生での会話、ポッドキャスト……
大好きな音楽の素晴らしさを語る機会には幸い恵まれているし、聴いてくれる人もいるけど、本当に最初の原点は「ジャニス」。自分が楽しいことを楽しいと思う人が、そう遠くない場所に必ずいる、そう思える空間だったから。もう閉店してしまったけど、同じように救われた人がもっといるはず。そういう人のための場所が、今もまだあるといいんだけどーー。



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ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside​

イラスト:あんずひつじ
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