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よむラジオ耕耕 #14 『見て聞いて思ったことを言語化することの大切さ』


加藤:どうですか最近は。

星野:最近は *PUNIO にエアコンがつきました。

*星野蒼天が友人たちと運営する北千住の居住権ギャラリー『プニオ』。

加藤:なかったんだ今まで(笑)。

星野:去年の夏は男3人で干からびてましたから(笑)。涼しいって当たり前じゃないんだなって思いましたね。

加藤:去年はなんで付けなかったの?

星野:予算が合わなくて諦めてました⋯ケチりましたね⋯。


自分のことを話す難しさ


加藤:さて、7月になりましたが先月届いたお便りがまだ残っているので、今週紹介していけたらと思います。

最近、"自分のことを話す" ということについて考えています。
今まで聞き役として「八方美人」をきわめてきた自分には、どうもそれが難しくて、すべて「利他精神」にもとづいて、人と関係性を築いています。
「自分をおもしろいと思う」、その自信をもう少し持つべきなのかもしれません。どんなふうに会話のバランスを取ればいいのか、自分のことにも興味を持って欲しいという想いを、どうしようかと。考えております。

東京都在住 20代 PUNIO 蓮

星野:身内からのお便りです。

加藤:うれしいですね、聞いてもらえるのは。

星野:結構ちゃんと聞いてくれてるらしいです(笑)。

加藤:PUNIO の蓮くんてずっとアフリカを旅してた人だよね。自分のおもしろさについて悩むんだね。

星野:半年くらい行ってました。

加藤:半年もアフリカに行ってるやつはだいたいおもしろいでしょ。大丈夫だよ。

星野:解決(笑)。

加藤:蓮くんは会ってみるとすごく聞き上手だし話していても誠実に向き合ってくれる印象があるけどね。

星野:聞き上手がゆえに、自分のことを話せないことが多いんでしょうね。

加藤:聞かれたらきっと話せるのだろうし、悩む必要もなさそうな気もするけど。もう少し自分のことに興味を持ってほしいとか、プレゼンテーションしたいっていう気持ちがあるってことだよね。

星野:ちなみに加藤さんは自分の話をよそでしますか?

加藤:自分の話はよそであまりしないね。このラジオで自分の話ばかりしてるし「何言ってんだ」と思う人もいるかもしれないけど(笑)。もちろんパークにいるときや友達と飲みに行った時は自分の話はするよ。それはパークにチャンネルを合わせて来てくれているひとがいるからなんだけれど。でもそれって、前提には「自分のことを知ってほしい」っていう思いよりも、せっかく会いに来てくれたんだから、一緒にいるんだから、自分が日々集めている話のネタでそのひとたちが笑ってくれたり喜んでくれたらいいなというモチベーションで話すことが多いかな。

星野:なるほど。相手ありきだ。

加藤:そう。だから蓮くんも自分のことに興味を持ってほしいと思うなら、自分のアフリカでのエピソードとか PUNIO の、例えばエアコンがやっとついた話とかで「誰かを喜ばせる」というのを意識していくと自然と自分のことを話せるのかなと思うね。

星野:自分を宣伝するという意識ではなくて、その場を楽しくするということを考える。おもしろいですね。

加藤:その場の盛り上がりやおもしろみのために自分のカードを切っていくというか。例えば、ぼくがよそで話すとするならば末広町でギャラリーをやってる話とか、神奈川県で畑をやっている話とか。ギャラリーやっているひとも畑をやっているひとも珍しいと思うので、みんな興味をもってくれるし、自然とプレゼンテーションのターンになる。

星野:加藤さんはラッパーという肩書きもありますしね(笑)。

加藤:そうそう。とにかく相手を楽しませるっていうビジョンでいればいいんじゃないかなと思うけどね。

星野:自分のことを話すのがニガテな人が周りに多いので、そのアドバイスは役に立つ人はいると思います。仕事先でも「自分」を主張しなきゃいけない場面があったりしますしね。例えば名刺を出したときにいかに自分を覚えてもらうかのコミュニケーションを必死に考えてたりしましたけど、相手やその場を楽しませるっていう意識でいれば、少し気が楽になるというか。

加藤:そうそう、だからというわけではないけれどぼくもギャラリー以外の仕事の時にもパークギャラリーの名刺を渡すようにしていて。そうすると言葉にしなくても名刺を見ただけで「ギャラリー?」って興味を持ってもらえるし、話も広がるんだよね。そういう工夫はしているような気がするね。

星野:なるほど。

加藤:あと大前提として自分のことばかりしゃべっている人は嫌われるんで、いまのまま八方美人の方がよっぽど良いと思います。まぁ蓮くん、アフリカの話も PUNIO でのエピソードもおもしろいと思うので自信をもって良いと思います。

今の道にすすんだ理由


星野:続いてのお便りです。

私は27年間生きてきて「これがやりたい」ということが最近ようやく見つかった気がします。ただその道に進むかは踏ん切りがつかないでいます。加藤さんと星野さんはいつごろから今の道を歩みたいと思いましたか? ちなみに私の母は、高校時代にお弁当に使うきゅうりを切っていた時に料理人になりたいと思ったそうです。

東京都在住 20代 ラジオネーム 坊主マン

加藤:母のエピソード、すてきだよね。

星野:お母さんから詳しく話を聞いてみたいですね(笑)。というわけで、「今の道を歩みたいと思ったのはいつですか?」という質問。加藤さんはどうですか?

加藤:いまだにどの道に進んでいるかわからないからなんとも言えないけど(笑)。星野くんはどう? 今は PUNIO とお父さんの会社でアートの仕事をしているわけだけれど。

星野:そうですね⋯。実は PUNIO をはじめたきっかけはネガティブな理由からでした。こっちの道を断ち切られたら、 PUNIO という道しかないな、という感じで。大学2年生の当時、少し早めに就職活動をしていたんですけど、その時のインターン先の会社のぼくに対する評価が、普段まわりにいるひとたちと真逆で⋯。「星野くんは人を見下す癖があるから、もっと素直になった方がいいよ」って言われたんです。

加藤:え!まさか(笑)ラジオ聞いてる人はそんなはずないと思うだろうけどね⋯。背が高いから見下していると思われたのかな。

星野:だいぶ物腰がやわらかい方だと思うんですけどね⋯(笑)。まあそれを言われた時に、この先、就職したり社会に出たらこういう場面って多かれ少なかれあるだろうなと思ったんです。その時に相手の評価を気にするのではなく「自分で何かやるしかない」と思ったんです。そこで何か言われても、自分の立ち上げたことなら素直にどんな評価も受け入れられるなと思って、 PUNIO をはじめました。

加藤:なるほど。頼まれてやるのではなくね。

星野:PUNIO と並行して父の会社に就職しようと思ったのは、 PUNIO をはじめたことで芸術の分野に興味が湧いて、この分野のプロフェッショナルになりたいなと思ったのと、自分のやりたいこと、学びたいことをこの会社なら尊重してくれるだろうなと思ったからですね。

加藤:なるほど。そういえば坊主マンさんが悩んでいる「進む道」について、ちょうど現在 PARK GALLERY で開催中のエキシビジョン『:P』(終了しました)に出展してくれている写真家の植村マサさんがインタビューでとても参考になる話をしてくれています。

これは高校の恩師から言われた言葉なんだけど、「道が分かれているならより困難な道をいけ」って。難しいと感じる方に行けばその道がダメでもきっと何かしら力がつく。留学していたアメリカのラスベガスにも「Go Big or Go Home」という標語があって、より大きな方に賭けるか、家に帰るかっていう。その感覚のおかげで、写真家の道を目指せた気がする。

SUNNY BOYS PODCAST『写真家・植村マサ編』より一部抜粋

加藤:この感覚がすごくすてきだなと思って。選択肢がふたつ以上ある時に、難しい方を選ぶ。もっと若いうちに聞きたかったなって。だからもし坊主マンさんが、いま行こうとしている道に対して「難しい」と感じているなら、その道にいくべきだよね。

星野:確かにそれはありますね。誰かがきっかけを与えてくれることも。これは PUNIO でいちばん最初に展示をしてくれた作家との出会いの話なんですけど。彼とはじめて出会ったのは6畳くらいの狭い和室で、そこで彼の作品をはじめてみたんですけど、作品に囲まれて声も出せなくなって。海の底に落ちていくような感覚だったんです。その瞬間「この感情を正当化したい」と思って、彼のそばについて彼や彼みたいなひとたちの作品を届けるこの仕事をしたいと思いました。そういうきっかけとなる出来事は加藤さんはありましたか?

加藤:ここでそんなに簡単に話すことではないかもしれないけれど⋯東日本大震災にきっかけを与えられたひとりではあるね。誰しもが明日にでも死んじゃうかもしれないと思った時に「今の道でいいのか?」という問いが頭によぎったんだよね。当時の(デザイン)会社でいろいろなことをさせてもらえているというのは、その会社に資本があったり社長の才能があるから依存できていたことにすぎなくて、だから自分の感覚でどこまで何ができるかを死ぬ前に挑戦してみたいと思った。それは間違いなく『3.11』が大きなきっかけだった。子どもの頃に見ていた美しかった宮城の海沿いの景色がなくなっちゃうんだと思ったら、生きているうちにいろいろな景色を見たいと思ったし、ただ、被災地に暮らしているひとたちの気持ちを考えると想像に及ばないというか。想像にも限界があるなと。だからぼくらはもっと「想像すべき」ではないかと思うようになった。

星野:それでアートの仕事を。

加藤:そう。江戸川区の平井で障がいを抱えているひとたちとアートギャラリーをやる話がきた時も、ここに訪れたひとたちと一緒に想像力を育てられるかもと思って引き受けた。人の想像力を育むことができる『アート』というピースを自分の中の引き出しに入れておこうと思ったかな。

星野:「想像力を育む」ということは難しいことだと思います。ぼくらはそのために何をしたらいいんでしょうか。加藤さん的に想像力を育む方法とかアイデア、あったりしますか?

加藤:ぼく的にというよりも芸術の鑑賞の際によく言われることのひとつだけれど「複数の視点で複数の言語化」というのはアートならできるし、想像力を育むのにはいいと思うよ。やっぱりアートって見る人によって印象が違うし、それを言葉で表現した時に、同じ作品でも選ぶ言葉が違うとおもしろいと思えるし。

星野:まさに PUNIO や PARK がギャラリーという場でやりたいことですね。

加藤:例えば精神的な障がいを抱えているひとの中には、ぼくらよりも「想像力の幅」が広いひともいたりするし、うまく話ができず言語化できないひとたちもいたりするなかでただただ「この絵は好き」と言い切ってしまえることに感動したし、僕らが「あたりまえだ」と思っていた考えを崩される瞬間がたくさんあったんだよね。さっき星野くんが「正当化したい」って言葉を使っていたけれど、ぼくもアートを観て感動して言語化したり、それぞれが自分の体の中にアートをインストールする行為っていうのは正当化したいし、その積み重ねや常在化が、みんなの想像力を拡張すると思っているよ。

基本的に想像力が広がるということは自分の中で語彙(ごい=言葉の数)が広がるということでもあると思っていて。それは想像力がいかに豊かだと思っていても外に表現しなかったらそれぞれ個人の頭の中で完結してしまって、豊かかどうかなんて測れない。井の中の蛙じゃないけれど、自分の位置がわからない。だからと言って何も饒舌(じょうぜつ)にアートのことを語れと言いたいわけではなく、心の中に湧いた語彙があって、それを対外的に表現する方法は言葉でもジェスチャーでも絵や歌でもいい。涙や笑顔やハグでも。たくさんの語彙で言語化や会話をせよということじゃなくて、逆に言葉なんか「好き」だけでも「楽しい」だけでも良い。大事なのは心の中に湧いた「語彙」をガソリンにして想像をふくらませることだと思っている。それが想像力の豊かさであり、相手に対する思いやりにもつながったりすると思うんだよね。

星野:アートを通じた対話も重要になりそうですね。

加藤:そう。だから PARK GALLERY はサロン的な要素を大事にしているつもり。口下手なひともいるからお酒も飲めるようにしているしね。 改めて思うと、PARK GALLERY っていうのは「言語化するための場所」なのかも。

星野:すごい話しやすい空間ですよね。

加藤:かなりフレンドリーだよね。

星野:まとめると坊主マンさんは難しい方の道へ進む。そして、想像力を広げたい人はぜひパークへってことですかね(笑)

加藤:うん。あと以前リスナーさんからおすすめの映画を募集していて、インド映画の「きっとうまくいく」という作品をオススメしてもらいましてこのあいだやっと見たんだけれど、坊主マンさんも「きっとうまくいく」を見てなかったらぜひ見てください。自分の進みたい道を選ぶことって大事だということ、気付かされます。きっと今の道にすすみたくなりますよ。

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おしまい

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