COLLECTIVE レビュー #17 秋光亜実 『TRIP』(東京都)
ぼくの好きな ZINE のジャンルの1つに「旅」系の ZINE がある。国内外問わず、パーソナルな視点で切り取られた街の風景、暮らしの延長にあるささやかなドラマ、光と影が織りなす時間や季節。その瞬間にしかない特別な時間が、写真や、時に言葉でつづられる「旅の手帖」。その旅先に行った気分になれたり、知らなかった街のことを知れたり、誰かの思い出の中にお邪魔させてもらっている感じが心地がいい。
今回紹介する ZINE も、旅の手帖的1冊だ。タイトルは「TRIP」。作者は金曜日のパークギャラリースタッフとしてこの夏から働いてくれている秋光亜実(つぐみ)さんだ。パークで働きながら、フリーのグラフィックデザイナー、フォトグラファーとしても活動しているということもあって、B5版で100ページにもわたる ZINE は、写真はもちろん、写真の組みやデザインまでをすべて1人で手掛けている。
COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #17
秋光亜実「TRIP」
シリーズ3作目にあたる本誌。2018年に発行された00はサンフランシスコの旅、2019年の01は大阪や地元の長崎、東京での旅行をまとめた1冊。そして2020年から2021年にかけて、コロナ禍で発刊された02のテーマは「暮らす部屋、生きる街」。自身の暮らす街の周辺が写真で切り取られている。わりと選ばれやすいテーマではあるが、3作目にして「あえて、近所に目を向けている」ことに注目をしてほしい。
何気なく見上げた空や、路上の花、部屋の片隅、公園。世田谷の何気ない日常が、淡々と流れて行く。「コロナ」という暗闇の中で、一瞬の光を探すように、時間や季節の中を旅する。「TRIP」には旅以外にも、「幻覚」や、「非現実」と言った意味を持つ。まるで幻みたいな時間や景色の存在を、このコロナ禍で街を歩いて見たという人は少なくないと思う。嘘みたいな、現実なのに非現実みたいな時間や景色が確かにあの時、この街には、あった。
そんな街中で、空気中に漂う光の粒子を、まるで深呼吸をするかのように記録した日々。それは2020年だからこそ発見できた光だとも本人は話しているが、まさにそうだと思う。
街の景色が変わったことや、光と影のありかを伝えるための ZINE 。それが確かにここにあったという証明としての ZINE 。100ページという厚さでは伝わりきらないことも伝わってくる。おそらく00~02を通じて、ようやく1つの作品になるようなそんな感覚さえする。
秋光さん本人が店頭に立つ明日から週末にかけて、00、01もサンプルを置いておきます。ぜひスタッフに声をかけて手に取ってみてください。
忘れていた何かを思い出すような、そんな記憶の TRIP 。みなさんもぜひ。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
シリーズで制作しているTRIP、今作02のテーマは「暮らす部屋、生きる街」2020年、暗雲に包まれるコロナ禍で複雑に入り乱れる胸中を安らかに穏やかに解してくれたのは今暮らしている部屋と生きている街だった。「部屋」は今の私をこれまで養い育ててくれた何かを目に見えるかたちにした結晶でありそれらが集まる空間。つまり私自身。2020年だからこそ、発見できた光である。突発的で単独的なものではなく、これまでの全ての流れ、その積み重ねがあってはじめて生まれるべくして生まれた作品。
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