マガジンのカバー画像

COLLECTIVE 2022 ZINE レビューまとめ

61
COLLECTIVE 2022 に全国から集まった ZINE を PARK GALLERY 加藤が1つ1つ向き合いレビューしていきます。まだ触れたことのないパーソナルな ZINE… もっと読む
運営しているクリエイター

#写真

COLLECTIVE レビュー #57 MIYA『明日も良い!』(東京都)

パークは台湾となにかと縁がある。旅行先としてシンプルに好きだというのはもちろんなんだけれど、パークのディレクターの加藤は(ぼくは)2011年~2012年に、台湾を拠点に日本でもブームを巻き起こしたオルタナティブバンド「透明雑誌」のジャパンツアーを手がけたメンバーのひとりでもある。透明雑誌とその仲間たちとの交流が、その後の台湾とのカルチャー的な交流を活性化させた。 透明雑誌は活動休止してしまっているけれど、現在メンバーはそれぞれ、台北のユースカルチャーを牽引する2つのストア

COLLECTIVE レビュー #52 Nobu Tanaka『みんなの思い出』(東京都)

もう10年以上も前、色の褪せた「レトロ」なことよりもヴィヴィッドでキラキラした「アーバン」なことが求められた時代、デジタルカメラ勢に押され、静かに「製造販売終了」を待つだけだった「写ルンです」を街中のカメラ屋からかき集めて、友人たちと、行く先々のパーティや旅行をひたすら撮影していたことがあった。街の在庫では足らず FUJIFILM の本社に赴き「写ルンですをください」と頼んでみたら「こんなのもう誰も使わないから」とでも言うかのように、たくさんの在庫をくれた。呼吸するかのように

COLLECTIVE レビュー #48 Atsushi Sen『hollow』(福井県)

前回のレビューで「ZINEって買うって決めた時がピークだよね」と言っていた友人の話をした。帰ってゆっくり読もうと思うことはもちろんあるんだけれど、なかなか帰ったら読まないよねと、話してた。でも、店頭で、ZINE に触れた瞬間に、「ピン」とくることがある。 「持っておくべきだ」 という力が働く。これがほしかったとか、この部分に感動した、とか、そういった心の動きではなく、ほぼ衝動的に、もしくはある種のしたたかな感情をもって、手元にアーカイブしたい、本棚の肥やしにしたいと思

COLLECTIVE レビュー #46 ひげおんな『some kind of happiness』(大阪府)

LOVE LETTER というのをもらった記憶があまりない。手紙を書く文化がなくなるほど若くもないし、手紙しかないというほど歳はいっていない。ぼくのことが好きだとペンを取る人がいなかっただけだと思う。ただ、1度だけ、高校生のころ、LOVE LETTER をもらったことがある。正式にはもらっていた、らしい。 ぼくは部活に熱心だったので、ほぼ部室に入り浸ってた。校舎裏の部室の前に自転車を停めて、部室で自分のバッグから指定のカバンに教材を入れ替えたり、スニーカーから上履きに履き

COLLECTIVE レビュー #39 FTR 『THE RUMBLE FISH』(東京都)

千利休の「好きこそものの上手なれ」と言う言葉がすごく好きで、なにをやるにも好きっていう感情って大事にしてる。 改めて調べてみると「楽しんでやることによってうまくなるものであるということ、又は、あることに熟達するには、それを楽しめるようになることが肝要であるということ」とあって、あ、やっぱり好きだなと思った。 そんな自分も、特に学校に行ったり誰かに師事したりするわけでもなく、クリエイティブなことが「好き」というだけで、いまフリーランスのディレクターとして仕事をするまでにい

COLLECTIVE レビュー #36 iSOP『架空の4人格』(福岡県)

前回、イラストレーターのびちゃさんの ZINE「AKUBI」のレビューで、福岡から届く ZINE が好きだ、ということを書いたので今回も福岡から届いた ZINE を紹介しようと思う。 COLLECTIVE ZINE REVIEW #36 iSOP「架空の4人格」 音楽と ZINE は相性がいい。レコードが出れば音楽雑誌はレビューで彩られるし、そもそも音楽雑誌自体がファンジンみたいなもので、ミュージシャンのインタビューも行われれば「ライナーノーツ」といって、楽曲の解説な

COLLECTIVE レビュー #27 下司悠太 『反抗的味噌汁』 (神奈川県)

写真をアート作品として語る時、「コンテクスト」が大事になってくる。かんたんに言えば、その写真を撮るに至った背景や、理由のようなもので、それを「ステートメント(声明文)」という形で写真家は発表したりする。コンテクストの深さやオリジナリティが写真の評価を大きく左右する。例えば同じ花の写真でも、感動できたりできなかったりする。フォトコンテストは、写真の見せ合いではなく、コンテストの殴り合いだと揶揄されることもある。極端に言えば、コンテクストさえしっかりしていれば、有名だとか無名だと

COLLECTIVE レビュー #23 YU TANAKA『Mood Swings』(東京都)

PHOTO ZINE と写真集の違いっていうのは言葉にするのはなかなか難しい。一般的に PHOTO ZINE は、写真集よりもステートメントが熟考される前の状態の冊子(写真業界ではダミーブックともいう)、もしくは直近の作品をまとめたポートフォリオ的な役割を持つ冊子で、比較的、コピー機やキンコーズで刷った紙を簡易的に製本したものとされるが、近年ではネットプリントで製本までを任せているものもある。ネットで注文したものなんて ZINE とは呼べない、という原理主義者がいるけれど、ま

COLLECTIVE レビュー #22 田中まりな『⋯』(東京都)

10代の頃は無印良品の茶色いリングノートがおしゃれだと思い込んでいて、よくそのノートに思いの丈や落書きを書いてた。たまにコンビニや図書館でコピーして友人に渡したりするのだけれど、見開きでコピーするとリングもスキャニングしてしまい、それがかっこいいと信じていた。ゼロックスがいいという噂も流れてた。 20代になると、ノートには罫線がない方がいいと思うようになるし、ノート自体がダサい物だと考えはじめて、日々の思いをパソコンにぶつけては印刷して、ホチキスで止めて持ち歩いてた。デザ

COLLECTIVE レビュー #17 秋光亜実 『TRIP』(東京都)

ぼくの好きな ZINE のジャンルの1つに「旅」系の ZINE がある。国内外問わず、パーソナルな視点で切り取られた街の風景、暮らしの延長にあるささやかなドラマ、光と影が織りなす時間や季節。その瞬間にしかない特別な時間が、写真や、時に言葉でつづられる「旅の手帖」。その旅先に行った気分になれたり、知らなかった街のことを知れたり、誰かの思い出の中にお邪魔させてもらっている感じが心地がいい。 今回紹介する ZINE も、旅の手帖的1冊だ。タイトルは「TRIP」。作者は金曜日のパ

【 ゲストレビュー 】 下司悠太 『反抗的味噌汁』 レビュー by 秋光つぐみ

反抗的。反抗するようなさま、また、反抗する気持を態度や言動に表わすさま。味噌汁。みそをだしにとかし、刻んだ野菜や豆腐やわかめなどを入れて煮た汁。 反抗的。むき出し、刺激的、あるがまま、不安定。 味噌汁。溶ける、吸い込む、ひと息つく、安心。 これは私のイメージ。 一見、相反するような気がする二つの言葉が並んでいることに「はて・・?」とかすかな疑問を無意識に抱き手に取るも、するりとその手中から抜け落ちそうな滑滑した真っ赤な装丁が、凝り固まった私の何かを破壊してくれそうな予感が

COLLECTIVE レビュー #14 小竹優太『窓の溶けのこり』(新潟県)

世の中にはいろいろな ZINE があるけれど、「写真」は本当に相性がいいと思う。その理由は「軽さ」に尽きる。「軽さ」とは誰がなんと言おうと、ZINE というメディアが持っているメリットの1つだ。 この「軽さ」を履き違えるとよくない。テキスト中心の ZINE だとしゃべりすぎの場合が多いし、絵が中心の ZINE はよほどのテーマ性がない限り、ただ軽く見られてしまう。それただのポートフォリオじゃんっていうことが多い。 写真の場合も、写真を ZINE にすることで、「写真家

COLLECTIVE レビュー #11 Non. 『Blooming!』(福島県)

5年も COLLECTIVE を続けていると、SNS を追ったり、新作の ZINE などを手にすると作家の変化にも気づけたりもする。成長とか、浮き沈みとかそういうことではなく、あくまで「微細な変化」。それは言葉にできる時もあれば、言葉にできない時もある。 今回、何がどう変わったのかわからないけれど、4年前から写真を断片的に見てきて、少しだけ変化を感じた作家の ZINE を紹介する。 COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #11 Non.「Blooming!

COLLECTIVE レビュー #01 新多正典 『Re-vision 1.0』 (京都府)

今年も COLLECTIVE がはじまった。PARK GALLERY が ZINE というメディアについて向き合うために、そして、カルチャーが過剰に一極集中する<東京>という地から、全国の表現者にタッチするためにはじめた企画で、もう5年経った。 思えばたくさんの ZINE を通じて多様なコミュニケーションをしてきたように思う。この毎年のレビューシステムもそう。すごい大変な作業だけれど1つ1つ ZINE に向き合い、そこでキャッチした思いをまっすぐ綴ると、多くの ZINE 作