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COLLECTIVE レビュー #14 小竹優太『窓の溶けのこり』(新潟県)

世の中にはいろいろな ZINE があるけれど、「写真」は本当に相性がいいと思う。その理由は「軽さ」に尽きる。「軽さ」とは誰がなんと言おうと、ZINE というメディアが持っているメリットの1つだ。
 
この「軽さ」を履き違えるとよくない。テキスト中心の ZINE だとしゃべりすぎの場合が多いし、絵が中心の ZINE はよほどのテーマ性がない限り、ただ軽く見られてしまう。それただのポートフォリオじゃんっていうことが多い。
 
写真の場合も、写真を ZINE にすることで、「写真家としてのプライドはないのか」「こんな印刷で納得できるのか」「お前のコンテクストはこんな冊子で伝わるのか」「おれはどこどこの出版社から出すんだ」(あーうるさい)という時代があったけれど、そういう考えの作家はまもなく神宮前から表参道あたりを再開発する時にいずれ化石で発見される。
 
僕自身、10年前、写真家のエージェントやデザイン会社で働いていた時に、そういうことを言う写真家をたくさん見てきた。そういう人たちをたまに見かけると、いまだに写真集なんか出せていない。いまも活躍している当時の作家は、とにかく柔軟に発表していたと思った。奥山由之氏の「Girl」はいわずもがなZINEだったし、川島小鳥氏も写真集を出しながらも積極的に他の作家とコラボをしていた。ライアン・マッギンレーのアシスタントだったColey Brownも自身の ZINE を当たり前のように見せてくれた。当時まだ無名だった植本一子もZINEを名刺代わりにしてそしてZINEの延長線上で文筆家としても活躍している。
 
この SNS 時代に、サブスク時代に、写真家だけが出版社から「写真集」を出したがる。そいう時代ではないように思うのだけれどどうなんだろう。偉そうだし、重いし、高いし。そんなことより、
 
「いま私はここにいる」ということを示すことがどれだけ大切か。と、僕は強く思う。

COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #14
小竹優太「窓の溶けのこり」

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前置きが長くなってしまったけれど、新潟を拠点にしながらもひとりの写真家として、ZINE「窓の溶けのこり」を発表することは、小竹優太さんにとって重要なことだと思う。日々、人が動き、出会いや撮影の機会が多い東京だと気づきにくいかもしれないけれど、名刺のような ZINE を1つ持っておくというのは絶対的に不可欠で、その時に、仰々しい写真集よりも ZINE がいいのは明確だと思う。インスタグラムのアカウントより、手ざわりのある ZINE が必要だ。
 
古くから課題とされている写真の<見方>はより自由になるし、哲学みたいに小うるさいステートメントも、ZINE に落とし込めばコラム感覚で読めてしまう。代金が発生すればそれは作家へのドネーションになるし、作家の意思で無料で受け渡しが行われればポートフォリオや名刺代わりになる。コストよりも大事なことがある。「軽く」すべきところが全てスマートになるのが写真とZINEの相性がよい理由だ。

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そんな ZINE のおかげで、ぼくは名前も知らなかった新潟在住の小竹優太という若い写真家を知ることになったし、いくつかの写真を見せてもらっただけで、いい写真を撮るなと、わかり、今度パークギャラリーで展示をしてもらう話にまでことが進んだ。
 
軽さが導く重さ。それは切実さにも伝わる。ZINE にはそういう魔法がある。いや、そもそも写真っていうのはこのくらいがいいのかもしれない。コレクターや謎の審美眼のせいで高貴な物になりすぎてはいないか。
 
写真家になりたいなら ZINE を作りなよ。と、ぼくはいう。それでも腰の重い、若き写真家たち。ぼくなら月1で作る。
 
「窓の溶けのこり」

自分の暮らしの、その延長にある生き様(生き方かも)を鏡に写ったアナザーワールド的に投影した風景(心象)写真が並ぶ1冊。内容は語るまでもなく、すばらしいです。写真のよさについても触れたいのだけれど文字数の限界。今回のレビューでは、写真家が自分の分身となるようなフォトジンを作ることの大切さ、美しさを感じ取ってもらえればうれしいです。会場でぜひ手にして欲しい1冊なのは間違いないです。気になった人はオンラインでも購入できるのでぜひ。

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レビュー by 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----

【 ZINE について 】
 ZINE を作るときはいつも「どんな感覚が自分に写真を撮らせるか」という問いについて考えます。自分が撮る写真と自分の記憶は相互に連関しているけれども、記憶そのものが写真に宿ることは決してないと思っています。それでも何かを期待して写真を撮ってしまうし、撮れた写真を眺めてしまう。そうやって集めた記憶の断片とも呼べるような写真たちをまとめたのが「窓の溶けのこり」です。

タイトル『窓の溶けのこり』
価格:¥1,100(税込)
ページ数:44P
サイズ:A5

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作家名:小竹優太(新潟県)
1997年生まれ、新潟県在住の写真家。学生時代を東京で過ごし、卒業を機に地元にUターンする。2020年頃から自らの写真をまとめたZINEの製作を開始。2022年6月には ZINE をもとにした初の個展「窓の溶けのこり」を新潟市の上古町で開催した。学生時代の専攻は歴史学。その時に探求したテーマ「風景と記憶」は今では写真表現における1番のキーワードになっている。写真を見た人が、こんなことを思い出したと教えてくれる瞬間が好き。https://instagram.com/otke_ytaa_
https://twitter.com/tokugawasmile
【 街の魅力 】
海と山がどちらも近くて、景色も食べ物もバラエティに富むところ。北陸新幹線の駅があるので、東京や金沢へのアクセスも良いです。
【 街のオススメ 】

① 樵Cafe(カフェ)... コーヒー狂の店主こだわりのコーヒーが本当においしい。ドライヤーの送風機能でチャフを飛ばす人を初めて見ました。

② そば処 泉家(蕎麦屋)... 数年前の糸魚川大火からの復興を果たした蕎麦屋。数量限定の手打ちそばが本当に本当に美味しい。休憩無しの通し営業なのもありがたい。
【 同じ地域で活動するひと 】
qucecke ... 「誰かのコンプレックスは誰かのあこがれ」をテーマに作品を作っている友人のイラストレーターさん。個展を開いたり、地元のお店の販促イラストを描いたり、フジロック関連のお仕事をされたりと精力的に活動されています。

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