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私を優しく包んでくれて、ありがとう。

急に引っ越しがしたくなって
ここマレ地区の古いアパルトマンに
住んだのが2019年の10月。
前の家が嫌だったわけでも
飽きたわけでもなかった。
突然引っ越そうと決めて、
インターネットで見て一目惚れ。
翌日見学をして、即決だった。

よく考えると、東京の家を含め
今まで家選びに迷ったことはない。
一度目の見学で気に入って
すぐに契約というパターンだ。
他も見てみようと思ったことが
一度もなかった。
そして、一度も後悔をしたことがない。
どの部屋も「ここが一番!」と思えたし、
近隣の生活音さえ、居心地がよかった。

その中でも
今のこのアパルトマンは特別だった。
ロックダウンで
外出できないことが多かった2020年、
青空や美しい夕焼け、
毎回違う姿を見せる雲の形を
窓から見せてくれたアパルトマン。
出好きな私が全く退屈することなく、
静かで、心豊かなロックダウン生活にしてくれた。

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私はここでロックダウン中に
たくさんの人と出会った。
リアルではなかったけれど、
それ以上の繋がりを持つことができた。

自分を見つめる2020年でもあった。
いろんなチャレンジもした。
本を書こう!思いついて、
フランスに来るまでの自分と
来てからの自分を書いて見ようと思った。

その本の中でも書いたけれど、
フランスに来る前に書いた「夢ノート」。
引っ越しの日に偶然見つけた
そのノートには
「パリの中心地に住む!」
と書かれていた。
まさしく、このアパルトマンは
パリの中心の中心、ど真ん中。
そんなことを書いたことさえ
すっかり忘れていたけれど、
このアパルトマンが
「私を待っていてくれた」ような
気持ちになったものだ。

今この部屋を見回すと、
この、ある意味特殊で
大きな変動があった期間を過ごした私を
ずっと守っていてくれたように思う。
もしかしたら
家とはそういうものかもしれない。
今まで、気にもしなかったけれど
住む人を静かに、優しいエネルギーで
包み込んでくれている。

大学時代から数年間、
大好きだった私の車への思いと重なる。
トヨタの真っ赤なカリブ。
楽しい時も、孤独な時も
いつも私と一緒だった。
いよいよくたびれて止むなく
中古車屋さんに運ばれる時、
私は泣いた。
遠くなって見えなくなるまで
私は西麻布の路地で、
泣きながら立ち尽くした。

そして、
2年足らずの短い期間だけれど
私といつも一緒だった
この大好きなアパルトマンを
もうすぐ卒業することになる。

それは、新しいステップで
嬉しいことではあるけれど、
きっとここを去る日は
ありがとうの気持ちで
胸がいっぱいになるだろう。
あの日、真っ赤なカリブと
お別れした時みたいに。


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