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進化論的倫理学から見た社会規範と「より良い社会」

「人を殺してはいけない」、「ウソをついてはいけない」といった社会正義や道徳上のルールは、なぜ生まれるのか?
 
特殊詐欺、耐震偽装、食品偽装、年金記録改ざん、政治資金虚偽報告などはなぜ「いけないこと」なのか?
 
なぜ個人的な利害損得だけで行動するのはダメなのか?
 
そういった行為は犯罪とみなされ刑事罰を受けるから、という答えもあり得ますが、ではなぜ刑法はそれを禁ずるのか?
 
なぜそれを禁ずる刑法を人間は作ったのか?

道徳という行動規範の背景にある進化論

こういった問題に答えるのが倫理学。
 
取り得る立場には二つあります。
 
一つは「実在論」
 
これは、道徳には個人の主観を離れた客観的な基準がある、というもの。
 
もう一つは「反実在論」
 
道徳に客観的な基準などなく、判断する者の主観的態度の表れであり、道徳とはすなわちその人の感情表現である、ということ。
 
専門家の間でも、これら二つの立場で分かれており今のところ決着はついていないそうです。
 
あなたはどう思いますか?
 
内藤淳氏は後者の立場、道徳もつまるところ個人の利害損得に発する、という考え方に立っています。
 
 
そしてそれには進化論的背景がある、と。
 
「ウソをついてはいけない」という倫理観は、うそをつく不正義という客観的な大道がどこかに存在するのではなく、ウソをつく行為がまわりまわってあなたの損につながりますよ、ということです。
 
ウソをつく、人のものを盗む、浮気する、人を殺す等の行為は、短期的には被害者の受けた被害が強調されるけれども、これらの行為は社会的互恵関係を崩すものであるため長期的には行為の主体の側に不利益となる、と。
 
だから人間は、明文化されるものもされないものもありつつ、進化の過程で社会の中での道徳観や倫理観を醸成して、そういった行為を禁止するようになった、ということです。
 
短期的な利害に目が行ってしまいがちですが(バレなきゃいい、とかね)、なぜ存在するのかわからなかった道徳観に対し、現代倫理学は進化論的背景まで含めてこれを論じることができる。
 
 
偽装や捏造が横行し社会の荒廃が指摘されている今日、一考すべき倫理観ではないでしょうか。

正しい社会とは?

内藤はここでも、個人の行動規範としての道徳論のように、「良い社会」、「正しい社会の在り方」という概念が客観的に(天賦的に?)存在するのではなく、利益から発するものとして考えられる可能性を指摘します。

結論としてそれは、「自分にとっても他人にとっても利益的な社会」、すなわち「社会の中の誰に焦点を当てても、その人の『利己的』な志向にかなう社会の在り方」だと言う。

そんな都合の良い社会形態があるのかとも思えるが、内藤はそれを「利益獲得機会の配分」に求めています。

権力者など一部の人が地位や権限を独占し、お金をはじめとする資源を入手する機会を目いっぱい享受し、それ以外の人が生きるために最低限の資源すら手に入れられないというのではなく、どんな人でもある程度の資源は得られるように、その機会が社会を構成する人全員にいきわたる様に、制度やルールがつくられることが大事だ、と言うことです。

例として、野球チームで上手い人だけでレギュラーを組むと、初期段階では連戦連勝だがいずれチームは立ち行かなくなる。そうではなく、全員にある程度の試合出場の機会を与えること(配分)が、結果として全体の利益になる、としています。

仮にこの論法が正しいとしても、チームとしては試合をやる以上勝ちたい訳で、様々な才能がある中でどの程度の機会をどのくらい配分するか、その判断はやはり難しいでしょうね。

ましてや国家レベルでの社会の規範やルール策定となると‥

共産主義について

ところで氏は共産主義について、「平等な社会では経済活動が停滞し(中略)自由への抑圧が生じると言った弊害が生じやすいことは、20世紀にそういう理念の実践を試みた東側各国の歴史に顕著に表れている」とします。

多くの論者が共産主義・社会主義について20世紀に存在した東側諸国を引き合いに出しますが、どうなんでしょう?

成立過程を見ると資本論で説かれているような、民主主義が一定程度進展した発達した資本主義を経て、矛盾を解決する止揚として新たな経済体制が生まれた国は一つもありません。

その意味では未だかつて共産主義・社会主義国家は存在していなかったということも言える訳で、私はこの辺はあまり短絡しない方が良いと思っています。

参考:内藤淳「進化倫理学入門 -『利己的』なのが結局、正しい」、光文社(2009年)

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