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パンデミック対策の切り札?「オープンサイエンス」

「このコロナ・パンデミックに一つでも良いことがあったとするなら‥、」

国立研究開発法人理化学研究所(通称「理研」)の数理創造プログラム副ディレクター:C. ボシゥメン氏はこのように問題提起し、
 
1)感染者数や死亡者数、病床使用率やワクチン接種率など世界中の様々なデータを全ての人が速やかに利用できることになった事、
 
そして
2)最新の研究成果がインターネットを通じて即座に無料で手に入り、世界中の誰もが自分の研究や分析に使うことができるようになったこと(オープンサイエンス)
 
の2点を挙げています(※)。

社会の問題・科学の役割

コロナ禍を契機として、科学の最先端の成果やデータへのアクセスがより一般向けにオープンになり利用しやすくなった、と言うのです。 

これに関して私が大事だなと思うのは、
 
1)市民の科学リテラシーと社会の情報リテラシーです。

後者の社会の情報リテラシーはまた、2)個別のテーマに関するShared Decision Making(市民と専門家がコミュニケーションを密にし、政策決定に対等に関与する)と、3)研究成果の市民への開放に大別される、と思っています。

 1)は、科学的合理的思考の重要性や、科学的に考えるとはそもそもどういうことかを含む大変深い問題であり、一口に語られるようなものでもありません。

ここには、科学の問題は10:0で正否が白黒つけられるような問題は中々ないということ、「ある、ない」ではなく「どの程度存在するのか」、「何と比較して多いのか、少ないのか」といった定量思考が重要であること、因果関係を明らかにするためには統計調査が求められること、などが含まれるでしょう。

私が日頃行っているエセ科学・疑似科学への問題提起も、この文脈で行っています。

2)は、原発の問題やコロナの問題等、科学が大きく関与する問題だが科学だけでは解決できない(社会的体制作りが必要、経済的コストがかかる等)問題、いわゆるトランスサイエンスの問題について、専門家と市民とがオープンにそれぞれの立場で意見を交換し合う場を十分作って、その中で方針決めや政策立案をする、ということです。

私が定期的に行っているオンライン講座SOS("Second Opinion in Science")は、「科学はたった一つの真理を明確に証明してくれるもの」といった科学への誤解や偏見に対して、科学思考の本質的な分かりにくさ・割り切れなさを示し、問題への解決策をどう導いていったらよいのか、一緒に考えましょうという提起です。

これはトランスサイエンスを念頭に置いた活動ですが、本当はこういった個人レベルの努力を越えた、社会的に解決すべき課題もあると感じています。(この活動に協力してくれる方を募集しています。)

データの解放は重要、しかし‥

ボシゥメン氏の論考はここでは3)に関するものでしょう。
 
データや研究成果に誰でもアクセスできるようになることは確かにとても重要なことです。

逆に、これらの隠匿はエセ科学・疑似科学に直結します。

というか、エセ科学の骨頂と言っても良い。

ただ、残念ながらこのことだけでは、彼女の言うように「パンデミックに打ち勝つ」というのはちょっと無理な気がします。

それは、それだけでは上記の1)や2)の問題が置き去りにされるから。

彼女はオープンサイエンスが身近になり、「誰でも、世界のどこにいようとも、データをダウンロードし、それを自身の研究や分析に使うことができる」ようになったと述べています。
 
例えば問題の一つは、市民がそれを利用するハードルが現状では高すぎる、ということ。
 
専門家にとってオープンだとしても、それを市民が広く自由に使えるとは限りません。

データや研究成果を理解し活かすには、やはり専門知識が必要です。
 
そしてその、専門家と一般の方々との橋渡しを担うのがコミュニケータということになるのでしょうが、科学コミュニケータは数的に圧倒的に不足しているというのが今般の社会の実態です。
 
「オープンになった」で喜んでいては、相変わらず「専門家が一般人に専門知識を授け渡す」旧態依然たる20世紀型科学コミュニケーションを抜け出せないでしょう。

このような記事が最新号の理研の雑誌に載ること自体、私にはちょっと残念な気がします。
 
これが日本の現状、ということなのでしょう(この方はカナダ人ですが)。

(※)「パンデミックに打ち勝つオープンサイエンスの力」、RIKEN NEWS、理化学研究所(2023年1月)

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