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日本の「ピラミッド」考

クロマンタピラミッド説

秋田県鹿角市大湯地区にある黒又山(通称クロマンタ、以下この呼び名で)は、昔からピラミッドであるとの説がささやかれけっこう有名。

「環太平洋文化」第6号巻頭写真、(日本環太平洋学会編1993)より

写真の通り、地上からは見事な三角形が見てとれます。

エジプトのクフ王のピラミッドは人工物、形状としては四角錐ですが、クロマンタは地形図を見るにどちらかというと三角錐。

しかも上空から見たその三角形はいびつで角もかなり丸っこい。

このことからもクロマンタが、少なくとも大元は人工物ではなく自然の造形なのが読み取れます。

クロマンタピラミッド説は1988年5月、地元のテレビ局・秋田テレビでまず取り上げられ、1991年8月26日には秋田魁新報で取り上げられました。

これがきっかけで同志社大学・辻維周(つじまさちか)講師が来県し本格的な調査へ。

ピラミッドの定義

「ピラミッドであるか否か」を論じる際、重要になるのはそのピラミッドの定義。

酒井勝軍(さかいかつとき)は昭和初期、日本におけるピラミッドの定義として

  1. 整然とした三角形を為している事(人工物でなくともよい)

  2. 頂上に太陽石を中心とし周囲に石を配置した磐境(いわさかい)があること

  3. 近くに本殿を拝する山があり祭祀用の施設が置かれている事

の3つを上げクロマンタは全てを満たしている、とします。

酒井自身は、あの竹内文書で有名な竹内巨麿とも交流がある宗教者・オカルト主義者ですが、ピラミッドか否かを議論する上でその定義を明瞭にしたのはよし。

ただ、我々がピラミッドと言われてすぐ思い浮かべるエジプトや中南米のものはほとんどがこの条件の2と3、場合によっては1すら満たさないことには注意が必要。

クロマンタにピラミッドの称号を与えるため、恣意的に定義したともとれます。

これとは別に環太平洋学会はピラミッドの定義として

  1. 美しい三角形の自然の山。又は、人工的に形を整えた山

  2. 山頂部が儀式を行えるように平らであること

  3. その山を中心に周辺に祀り場が存在すること

とし、これまたクロマンタはすべて満たしている、と(※)。

くっ、残念!
せっかく定義しているのに「美しい三角形の」とは。
なにをもって美しいとするのか‥。

環太平洋学会会長・小川光暘は、メキシコやインドネシアには数多くのピラミッドが存在し、それらは正面に頂上に達する石段が設けられ(後述)、頂上部が平坦になっていて祭壇の役割を担っている事を共通の特徴としている。

そしてクロマンタもその環太平洋域のピラミッドの特徴を共有している、とします(※2)。

縄文期、これらの地域と文化的交流があったのでしょうか?

浦島太郎伝説が、古代の南太平洋域の島々との交流を物語るという説もあり、興味深い。

ちなみに「ピラミッド」の語源について同志社大学講師・田中嗣人は、紀元前七世紀ごろ、エジプトを支配下に入れたギリシア人が、日常食べていた三角形の小麦粉菓子「ピラミス」にちなんで名付けた、とします(※)。

これに対し現地エジプトでは、方錐型建造物のことを「ムル」とか「メル」と呼んでいて、それは「昇天の場」を意味した、と。

近年ピラミッドは王の墓ではなかったという説も根強くある中で、もしこれが本当だとすると、やっぱりお墓だったんでしょうかねぇ。

なお、前出の辻講師自身は1993年4月の第二回調査の報告書の中で、このピラミッドの呼称が考古学上なにかと誤解が生じやすいことを考慮に入れ、クロマンタに対しての使用を取りやめる、としています。(※3)

これはこれで賢明な判断でしょう。

地中レーダーによる探索が洗い出したもの

1991年、地中レーダー技術者・渡辺勝弘は地中へ向けたレーダー探索により、クロマンタの地中構造を探索しました。

図1の赤い直線に沿って斜面をレーダー探索し、階段状構造を見出した、とのこと(※4)。

図1 測定箇所(※4,5)

この測定から、山全体が蛇がとぐろを巻いているような構造をしていることが分かったとします(図2)。

図2 渡辺の主張する、山全体の構造(※4,5)

しかし斜面の1か所における直線状の測定から、どうして全体がとぐろを巻いたよう、と特定できるのか?

渡辺技師の測定を紹介するこの動画を観ても、渡辺自身が著した「クロマンタレポート2」を見ても、その辺がどうしてもわかりません。

とにかく学術論文が一篇も出版されていない。

渡辺が故人となった今、本人に確かめようもありません。

生前彼と親しかった石井巡堂氏(動画の作者)に聞いても、分からないとのことでした。

また、頂上の平坦部を調査し、得られた画像が図3(※4)。

図3

画質最悪ですが‥。

aは箱型の構造、bはその中が空洞であることを示し、このことからクロマンタ頂上の地下には箱型の空洞構造が存在することが読み取れる、と渡辺は結論付けています。

寸法についての明示はありません(最低限必要だろ!)。

それが本当ならまるで石棺が埋まっているかのような印象を与える叙述ですが、本当でしょうか?

ピラミッドのイメージにはピッタリですが。

少なくともこの図から誰しもそれが分かる、というものではありません。

渡辺自身、画像から地中の構造を読み取るには経験とコツが必要、と言っています。

このレーダー装置の制作会社に問い合わせ、この渡辺解釈の妥当性を確かめたかったのですが、残念ながらご返答いただけませんでした。

端的に「分からない」のではないでしょうか?

現在はもっと精密なミューオン測定技術があります。

ただこれは反射式の電波とは異なり透過式。

クロマンタ底部に穴を掘って、宇宙から飛来するミューオンを検出するという、はるかに大掛かりな測定が必要。

予算付きますか?

「地中の気の通り道」の我田引水

同志社大学の田中講師は報告の中で、気功術で言う「気」の流れのような大地のエネルギーの流れがあり、「ツボに鍼を刺すように巨石遺蹟や神社・聖所が配され一種のエネルギー・コントロールが行われていたことが推測される」(※)と言います。

その根拠としてクロマンタから火の玉が飛ぶ怪奇現象がよく見られること、クロマンタを水源とする水が良質なこと、1992年の台風19号がクロマンタを迂回したこと、などを挙げています。

根拠にならない根拠を挙げて、勝手な憶測を補強する、オカルトによくある我田引水ですね。

大学教員といったっていろんなのがいる、もう慣れっこですが。

大テーマがピラミッドだとどうしてもこういうビリーバー的な議論が出て来てしまうのか。

報告書の大部分は科学的に妥当な(謙虚な)内容ですが、部分的にはオカルト好きの面目躍如たるところもあり、面白くも残念です。

皆神山ピラミッド説

皆神龍太郎は作家であり疑似科学ウォッチャー。
 
その彼が、長野市近郊・松代にある皆神山のピラミッド伝承について検証しました(※6)。

見事な独立峰・皆神山(「ながの観光net」より)

ピラミッドと言うとすぐ思い浮かべるエジプトのやつは正四角錐。

それとは異質な形状ではありますが、これもなかなか立派な独立峰です。 

もちろんエジプトピラミッドと異なり、こちらもクロマンタ同様あくまで自然の造形です。

ピラミッドの由来は家族愛!?

松代と言えば有名なのは、終戦間際に大本営と皇居の機能を移転するために掘られた広大な地下壕。
 
皆神山はその地下壕の至近。
 
Google Earthで見ればわかる通り、平地の中に見事にボコッとそびえています。
 
独立峰であることと、大きさが人工物として適正だったのでしょう(あまりに大きいと受け入れられない)、ある頃から超古代文明によって築かれたピラミッドである、とのうわさが。
 
昭和の末ごろにサンデー毎日という週刊誌でも報じられ広まったこの伝説、いつからあった伝説なのか。
 
超古代文明というからにはかなり昔からの伝承なのかと思ったらそうでもなく、皆神氏の調査では1979年、山田久延彦(やまだ くえひこ)という人の著作からでした、新しい!
 
ではこの山田さん、どんな根拠でこの皆神山をピラミッドだと主張したのか?
 
皆神氏は実際に当人に会って、聞いて見たそうです。
 
すると答えはなんと、「松代が自分の妻の出身地だから」

いともた易く広まる流言

愛妻なのはよいことです、まずもって。
 
しかしそんな私情で世論が振り回された実態(そして振り回す週刊誌)が、ここにはあった。
 
皆神さんはかつて、山田氏の主宰するオカルト団体の地域幹部的なのをしていた時期があり、この件から自戒を込めて自分の名前を「皆神」としたのだ、と。
 
やはりものごとは「信じたい」から出発してはいかんのですな。
 
それは誤信念につながる、これはその好例です。

(※)「黒又山見聞記」、田中嗣人、「環太平洋文化」第6号(日本環太平洋学会編、1993)

(※2)「日本・環太平洋のピラミッド」、小川光暘、第十一回東京新島講座(1995)

(※3)「平成五年度黒又山調査結果に関する一考察」、辻維周、「環太平洋文化」第8号(日本環太平洋学会編、1994)

(※4)「クロマンタレポート2」、渡辺広勝、古代世界配石文化研究会機関紙080001

(※5)Youtubeチャンネル、"Jundo Ishii"、「②地中レーダーで地下室発見」
最終更新日:2019年12月28日、最終確認日:2023年9月17日

(※6)「謎解き 古代文明」、ASIOS著、彩図社、2011年。

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