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人をあざむく様々な事情

覚えていますか?

その昔、ガラスの涙を流す少女が話題になりました。

1996年、報道ではこの年の3月以降、レバノンに住む12歳のハスナ・ムスレマーニという少女が、目から小さなガラス片が出てくるようになった、と。

私など目にガラスが入るのを想像するだけでもおぞましい。

けどこの少女の場合は出てくる、目からガラスが。

しかし痛みなどは無く眼球に損傷もないらしい。

そしてこの話、一少女にまつわる怪奇話にとどまらず、後日談がすごかった。

少女が一国を動かした

中東の大国・サウジアラビアの王族で、当時第二副首相を務めていたスルタン・ビン・アブドルアジーズがこの事件に興味を持ち、なんと自国医師団に調査を命じたのです。

そして同年10月、サウジアラビア紙はその調査の結果を報告。

それによると、まずこのガラスというのは比喩などではなく、二酸化ケイ素を主体とした本物のガラスである、と。

で、ハスナのこのガラスの涙、結論としては生理現象ではない。

実は彼女が周囲に注目して欲しいがために、自らガラスを目に入れた戯言であり、背景には思春期の不安定な精神状態が原因としてあった、とのこと。

霊が音を立てたり物体を動かしたりする心霊現象、いわゆるポルターガイストが、のちに思春期の青少年のイタズラと判明するケースはよくあることです。

ハスナのケースもそれに類することだったということらしい。

彼女に必要なのは外科的と言うよりは精神的な治療だったのでした。

医師団は調査しただけでなく治療にも力を尽くし、その結果彼女がガラスを目に入れる行為から足を洗うのに2カ月はかからなかった、とのこと。

最終的には佳きところに落ち着いたわけです。

それにしても、私などまつ毛が目に入っただけでかなり強い違和感があるのに、自らガラスの小片を目に入れるとはね。

よほど屈折していたのでしょう。

血の涙を流す少女の場合

似たようなもので、血の涙を流すケースが複数報告されています。

例えばインドのラシダ・ベグムという少女は、2007年から断続的に血の涙を流すようになった。

地元の眼科で検査を繰り返しても、なんの異常も見つからなかった、と。

ついには首都デリーにある、同国随一の規模を誇る医学研究所のラジャバルダン・アザド医師の検査を受けることに。

残念ながらここでも原因は判明せず、目に異常は認められませんでした。

しかしそこは名門の意地(かどうかは知らないけど)、目だけでなく全身の検査をしてみた。

すると、なんと大腸に穴が開いていることが判明したのです。

さらにその後の検査で彼女の血の涙の原因は、突き詰めればこれまた精神性のものであることが判明しました。

身体の他の部位に傷を作っておき、人目を忍んでその傷口を自分で開いて血を取り、瞼の下につけてそれらしく見せていたのでした。

では自作自演の上に自傷行為も加わったこのようなことを、なぜ彼女は行ったのか?

その理由は、アザド医師の診断によれば、別の原因へ注目してほしいがためのアピールでした。

「注目してほしい。」

これだけだと「なんだ目立ちたがり屋か」となりかねませんが、実際にはやや深刻な社会的背景が絡んでいます。

常日頃彼女は、大腸の疾患に悩まされていましたが、それだけでは単なる腹痛ととられがち。

副症状として現れていた倦怠感も、ともすると怠け者扱いに。

そしてなにより、彼女の住むインドという国は女性が軽んじられる風土がある。

こういった状況の中彼女は、血の涙を流すという奇病を装い話題になることで、検査費や治療費をなんとか工面しようとした、というのです。

これは、彼女の精神疾患のみならず、もっと社会的な問題に目を向けなければならないことを示しています。

というのも、インドでは同様の自作自演のケースが結構起こっているから。

特筆すべきはこのアザド医師、ラシダへの対処が素晴らしかった。

彼はこれらのことをすべて理解した上で、あえて役に立つはずのない目薬の処方をしたのでした。

彼女に目薬を毎日さしてもらいつつ、「大腸の手術も受ければ血の涙は止まるよ」と告げたのでした。

なぜ目薬を与えたのか?

アザド医師によれば彼女には、腹痛と倦怠感の苦しみを周囲に理解してもらえない不安感があり、まずはそれを取り除く必要があった。

偽薬である目薬を与えたのは、彼女のメンツを保ちつつ不安感を和らげるため。

事実目薬の正体はただの水であり、それを本人だけでなく家族にも本物の目薬だと伝えていたのでした。

手術を終えた彼女は今、血の涙を流す以前の生活を取り戻している、とのこと。

悪質なものは峻別を

以上、様々な内面的・社会的要因で社会を惑わせる行為について見てきました。

背景を知ってみると、ただ当人を責めるのは筋が違うというのは分かると思います。

目からガラスが出る、血の涙が出るというのは、現象だけを捉えるとオカルトまがいですが、実情を精査した上で対処することが大事だということを、上述の二例は教えてくれます。

しかし世の中には、これらとは真逆とも言うべき事例、専門家がその専門分野で、専門知識を駆使してオカルトまがいのデマを吹聴するという、なんとも悲しい事例が存在します(拙ブログ「デマを吹聴する『理論物理学者』保江邦夫」)。

これは非常に罪深く悪質な行為と言えるでしょう。

一般向けの人向けに、事実と異なるということを当人は十分認識しているはずの内容を、専門家としての強い立場で発信しているのですから。

その目的は売名・金儲け。

全て一括りにデマと言えば言えるかもしれません。

しかし前二例と後者とは峻別されるべきであり、私たちはこのような詐欺師まがいの「専門家」が現に存在するという事実を受け止めて、あふれる情報の大海原を航海してゆかなければならないのです。

(※)ハスナについては「世界のオカルト遺産調べてきました」(松岡信宏、彩図社、2022)、ラシダについては「謎解き超常現象III」(ASIOS著、彩図社、2012)より事実関係を引用。

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