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人類の行く末を決める?物理学者の多様性

私は常々人の本性というものは言葉より行動、特に何かうまくいかないことがあったり、人から批判を受けたりした際にどういう行動をとるかに現れる、と思っています。

心理的負担のない平常時に口にする言葉・立ち居振る舞いは、言ってしまえば粉飾可能。

「人あたり」を演出できます。

しかし例えば、自分の非が明らかな事案について人に批判を受けた時、その事実に真摯に向き合った行動がとれるか、やみくもに言い訳したり反発・逆切れしたりするのか。

これは大きな違いですね。

普段見せる人柄はよくても、いざとなると謝るべき時に謝れない大人、結構いませんか。

大天才の人生観

ジョン・フォン・ノイマンは言わずと知れた天才数学者。

数学における集合論や物理学における量子論の発展、応用数学におけるコンピューターアーキテクチャやゲーム理論の発展に多大な貢献をしました。

そしてその人柄は温厚で誠実。

人当たりの良いことで有名でした。

そんな彼はしかし、まさにマッドサイエンティストと呼ぶべき一面も併せ持っています。

私たち日本人には因縁深いあのマンハッタン計画。

第二次世界大戦時、アメリカは砂漠の真っ只中にあったロスアラモス研究所を舞台にした原爆開発計画ですね。

フォン・ノイマンはじめオッペンハイマー、ボーア、ファインマンなど、ノーベル物理学賞受賞者を含む名だたる物理学者が数多く参加していました。

ある時、非人道的兵器の開発に自問自答を繰り返し苦悩する若きファインマンにフォン・ノイマンは声を掛けます。

「今生きているこの世界に我々は責任を持つ必要はない」と。

フォン・ノイマンの言葉に大分救われたと、のちにファインマンは述懐しています。

フォン・ノイマンのその後の行動はある意味一貫していて、科学で可能なことはたとえそれが非人道的であろうとも徹底して突き詰めるべきという科学至上主義、非人道主義、そしてこの世界には普遍的な責任や道徳など存在しないとする虚無主義に貫かれていました。

大量殺りく兵器に向き合う科学者たち

これに対し量子力学創始者の一人・ボーアの行動はある意味では対局的。

非人道的兵器の使用を疑問視し、原子力開発は人類の未来のため平和利用に限るべきと考えました。

そのため、米英ソが原子力に関する国際的な管理協定を結び、三国の科学者が中心となって原子力を管理することを提案し、チャーチルとルーズベルト(※2)に掛け合いました(結果的には両者ともに全く相手にされませんでしたが)。

余談ですが、その後チャーチルとルーズベルトは密約・ハイドパーク協定を結びました。

1972年に公開されたその中身によれば、原爆は完成後ドイツでなく日本に投下することが記されていました。

これはチャーチルの発案だったらしい。
 
ドイツが降伏したから日本にという俗説はどうやら事実ではなく、1944年の時点で日本への投下は決まっていたのです。

シラードの苦闘

マンハッタン計画で中心的な役割を果たしたシラードは、このボーアに刺激を受けそれまでの原爆推進から一転、兵器利用反対の立場をとり、7人の連名でフランクレポートを大統領に提出。

原爆を都市に落とすのは非人道的なので、日本人を連れて来て砂漠で原爆実験を見せ降伏を促せば良い、と提案しました。

さらにその後70人連名で原爆使用中止の嘆願書を提出。

ルーズベルト死去後就任したトルーマンは当初原爆使用を躊躇しましたが、チャーチルが先の密約実行を迫り、最終的には原爆使用の決断に至りました。

ところで「人あたり」という点で言うとこのシラードは一癖も二癖もあり、中々とっつきにくい人物だったらしい。

この点ではフォン・ノイマンとは対極的だったようです。

人あたり、特に第一印象で人物評価は大半が決まってしまう傾向があることは、認知心理学が認めるところ。

しかし本当は、人物の評価というものはもっと多面的に行うことがある必要があることを、上述の歴史の経過は示しているかも知れません(あくまで「かも」ですが)。

分かりやすい悪人面は水戸黄門だけ

今日の日本で様々なエセ科学やデマを流布する人がいます。

その中で特に、専門家がその専門分野で明らかに間違った情報を提供している事例もあります(一例として本ブログ「デマを吹聴する『理論物理学者』保江邦夫」)。

彼らの意思は一にも二にも金儲け、それしかないでしょう。

だって彼らの専門性から言って、本当は「嘘」であることを分かっているはずなのです。

しかしてそういう人たちの「人あたり」は得てして良いものです。

皆さん本当に笑顔が素晴らしい。

それを見るにつけやはり、人物の評価基準は見た目の人あたりばかりであってはならないと思うのです。

最後にビジネスコンサルタント・細谷功の言葉をかみしめたいと思います(自戒を込めて)。
「ほとんどの人は多かれ少なかれ『言っていること』と『やっていること』は違います。(中略)ほとんどの人は『自分』という世界にどっぷりつかった状態で自分自身を見ているので、自分のことはよく見えていないのです。」(「メタ思考トレーニング」、PHP研究所(2016))

(※)上述の歴史的事実は「フォン・ノイマンの哲学」高橋昌一郎、講談社現代新書(2020)による。
(※2)今の学校教育では「ルーズベルト」は「ローズベルト」と表記され教えられているらしい。しかし私にはしっくりこないので従来の表記で統一しました。

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