太古の地球に宇宙人?
古代宇宙人説は、太古の時代に地球外生命体が地球を訪れ、人類の文明や技術の発展に重要な役割を果たしたと主張する仮説。
幼いころ本で見て、センセーショナルな挿絵にも突き動かされ、胸をときめかせたことも。
年齢と共に「まさかなぁ」となったのですが、世の中にはこの論を信奉する大人もそれなりにいたみたい。
彼らはエジプトのピラミッドやペルーのナスカの地上絵、そしてそれ以外の数多くの世界中の遺跡や古代の芸術作品が、彼らの主張を支持する「証拠」だと考えています。
要するにこれらの創造物は、作られた当時の人々の技術では説明がつかないほど複雑で、宇宙人の高度な技術力を想定しないと実現不可能、と。
その考え、妥当でしょうか?
古代宇宙人説、その起源
古代宇宙人説は、主に1960年代から一般に広まり始めました。
その起源はエーリヒ・フォン・デーニケンというスイスの作家に求めることができます。
彼は1968年に出版した著書「未来の記憶」(原題:Erinnerungen an die Zukunft)(※)の中で、古代の記録や遺跡、芸術作品を「宇宙人の訪問の証拠」とする論を展開。
科学や考古学が説明できないような古代文明の驚異的な技術や建造物があるとし、それらは宇宙人が直接または間接的に関与した結果だと主張しました。
それにはエジプトのピラミッドやナスカの地上絵、さらにはイースター島のモアイ像など、様々な遺跡や地球上に残されたパターンが含まれます。
この理論は大衆文化に深く根を張り、数多くの映画、テレビ番組、書籍の中で言及されるまでになりました。
特にテレビ番組「エイリアン・エンカウンター」は、この説と彼の名をさらに広範に広めることに貢献。
この理論の根幹には地球外生命体が古代文明の発展に対して重要な役割を果たした、という考えがあり、その証拠としてピラミッドやナスカの地上絵などの建造物やアートが引き合いに出される訳です。
ピラミッドの例を挙げると、エジプトのギザにある巨大で精巧なピラミッドは、運搬困難な巨石の一つ一つがこれまた驚くほどの精度で組み合わされていることや、ピラミッドが地球の磁場や星々との関連性を示す位置に建てられているなど、その驚異的な精度と複雑さが指摘される、と。
これらはすべて、古代のエジプト人が持っていたはずのない高度な知識と技術を示しているとし、その建設に高度な文明と技術を持った宇宙人が関与したはずだと主張されます。
一方、南米のペルーにあるナスカの地上絵については、その描かれた技術や意図、さらには具体的な目的もはっきりとは解明されていないことから、古代宇宙人説は強い興味を持たれています。
これらの巨大な地上絵は地上からはほとんど認識できず、空から見ることで初めてその全体像が明らかになることから、地球外の存在へのメッセージであるとの見解がもたらされます。
「ピラミッドは宇宙人が‥」の証拠って?
古代エジプトのピラミッドが驚異的な技術力の象徴であることはまちがいないでしょう。
しかしそれは「宇宙人の」ではなく「古代エジプト人の」という意味において。
ピラミッド建設に要する技術は、大量の石材を運搬し、精巧に積み重ねる能力に集約されます。
これらの石材は、主にナイル川を使って運ばれました。
デーニケンは、当時のエジプト人が巨石を運搬するために必要なコロの材料となる木材やロープを持っているはずはなく、ピラミッドを建造する術を持っていなかったと主張しますが、これが事実ではないことは現在ではもはや常識となっています。
実際には、コロ用の丸木材はおろか、坂道や滑車のような道具を使って重い石材を動かすための技術も当時すでに発展していました。
ロープの類は大量に用いられており、その遺跡標本は複数の博物館に保存されています。
石材の細かな加工には銅製の道具が使用され、石工の技術が高度に発展していたことが分かっています。
宇宙人説はまた、ピラミッドが星座との関連性を持つという考え方が自説を支持すると主張します。
しかし、これらの「証拠」もしっかりとした科学的根拠に基づいているとは見なされず、科学コミュニティでは受け入れられていません。
例えばデーニケンは、「ケオプスのピラミッドの高さを10億倍するとちょうど1億6000万キロメートルになり、地球-太陽間の距離と一致するが、これは果たして偶然の一致だろうか?」と疑問を呈する。
おっしゃる通り、偶然でしょう。
数字の倍数や組み合わせの比率などが別の何かの数字と一致する、といったストーリーはわりと簡単に作れます。
例えば85.9を2で割って自乗すると、野球のピッチャーと本塁の距離の数字(1844㎝)と一致する。
だから体重85.9㎏の人は野球を始めた用が良い、なんて言います?
「○○と△△が一致する」だけを根拠にした論法には、したがって注意が必要です。
どれほど確率的にありそうなことなのか、本当に偶然とは考えられないのか、ほかに根拠(否定に対しても肯定に対しても)はないのか、とか。
なぜ取り立ててケオプスのピラミッドを取り上げるのか?
なぜ10億倍なのか?
そこに必然性はないのであり、85.9を2で割るのと同様の恣意性が隠れています。
ちなみに地球と太陽の距離は、実際には1億4960万キロメートル。
地球-太陽間距離について6.7%もの測定ミスをする程度の技術力の宇宙人の航法で、果たして地球まで無事にたどり着けたのでしょうか?
それは唐突に現れたものではない
科学者サイドは特に、人類の能力と知識の時間的進化についても強調しています。
これはデーニケンの、古代エジプト文化が「既存の有力な文明を継承したものではなく、むしろ唐突に現れたように思われる」との主張に対する回答です。
実際考古学的に、ピラミッドの建設が数世紀にわたって進化し、初期のステップピラミッドからクフ王の大ピラミッドまで進歩した過程が明らかになっています。
建造過程で間違いに気づき、建造プロセスを修正した痕跡もあります。
例えばメイドゥムのピラミッドは、建造開始当初の壁の角度がきつすぎて、全体の重みを支えることができなかったのです。
最初の構造の頂上部分が崩れたその瓦礫が、今でも残っています。
超高度文明の宇宙人がこのような失敗をするでしょうか?
これは、エジプト人が時間とともに自身の建築技術を改善した証拠です。
星座との関連性について言えば、ピラミッドが天文学的な目的で建設された可能性があることは認められています。
しかしそうだとしても、それは古代エジプト人自身の知識と信仰の表現であり、宇宙人の介入の証左とする必然性はありません。
ピラミッド建設に関する、石材の採石場、運搬路、労働者の宿舎など、ピラミッド建設の過程を物語る豊富な考古学的遺物は、それがすべて人類の手によるものであることを示しています。
ナスカの地上絵は宇宙人由来?
ナスカの地上絵についてはどうでしょうか?
ナスカの地上絵は、ペルーのナスカ砂漠に存在する巨大な地上絵で、動物、人、植物、幾何学模様などを描き出しています。
これらの地上絵は、紀元前500年から紀元後500年にかけてナスカ文化の人々によって描かれたと考えられています。
地上絵の創作方法は、砂漠の表面にある酸化鉄を含む暗色の石を取り除き、その下の明るい色の砂を露出させることで構成されました。
これ自体は難しいことではなく、足を引きずってでも線を描くことはできるらしい。
地上絵の目的は正確には解明されていませんが、一部の研究者はそれらが天文学的な目的や儀式的な目的で使用された可能性があると推測しています。
それぞれの地上絵が特定の星座や太陽の動きと関連づけられている可能性がある一方で、それらが雨神への奉納の一環として使用された可能性もあります。
しかし、一部の人々は、地上絵が古代宇宙人によって作られたか、または宇宙人の指示によって人間が作ったという説を唱えています。
その「証拠」として彼らが挙げるのが、地上絵の規模と複雑さ、そして地上からではなく、上空からしか完全には観察できないという事実です。
しかし、ピラミッドのケースと同様ここでも当時の技術力に対する過小評価が指摘できます。
はっきり言って地上絵が作られた時代の人々が持っていた測量技術や計画技術は、大規模な地上絵を描くことを可能とするほどに、十分発達したものでした。
また、地上絵が上空からしか観察できないという主張も誤りです。
地上絵の大部分は、地上から見ると十分に認識可能な形状となっています。
一部のものは地元の山の頂上から見ることができます。
人類の信仰の対象が多くの場合太陽に向けられていた歴史的事実から、当時のナスカの人々が太陽信仰を持っていた可能性は十分考えられます。
であるならば、空に向けて何らかの表象を行う呪術的意味があったであろうことも十分推測できます。
逆に研究者たちは、これらの地上絵は古代の人々の観測技術、数学、地理に対する深い理解を我々に教えてくれる教材と言える、と主張します。
それは巧妙な計画、労働組織、そして地元のリソースを使用した労働の成果であり、宇宙人の助けを必要とするほどの神秘的なものではありません。
繰り返しますが古代の人々の知識と技術は、我々が信じていた以上に進んでいたのです。
ナスカの地上絵、これについてもやはり、宇宙人によって作られたと考えるよりは、古代の人間の手によって作られたと理解する方が、より合理的と言えるでしょう。
古代宇宙人説の影響と問題点
古代宇宙人説はポップカルチャーと社会に広範囲に影響を及ぼしています。
テレビ番組、映画、書籍、インターネット上のディスカッションなど、多くのメディアがこの説を取り上げ、それが視聴者や読者の間で非常に人気を博しています。
特にテレビシリーズ「エンシェント・エイリアンズ」のようなメディアは、このトピックを大衆文化の一部として広め、大衆の好奇心を掻き立てています。
この説の人気は、人間が未知の存在や自分たちの起源について常に好奇心を持っていることを反映しています。
宇宙という未開拓のフロンティアからの来訪者が、我々の歴史に直接影響を及ぼしたという考え方は、確かに神秘的でロマンチックな魅力を持つかもしれません。
しかし、その一方で、古代宇宙人説の普及は一部の問題も引き起こしています。
まず、科学的根拠に乏しいこの説が大衆の間で広まることで、科学的思考や批判的思考のスキルが軽視されることが挙げられます。
古代の人々が偉大な建造物を作り上げる能力を持っていたという事実が、この説によって見落とされてしまう可能性も問題です。
古代宇宙人説が提供する「簡単な解答」が、我々が自分自身の歴史や文化について深く理解しようとする努力を妨げてしまうのです。
これらの古代の遺跡や芸術作品を作った人々は、私たちと同じ地球の一部であり、彼らの偉大な業績を宇宙人の仕業と片付けることは、彼らの遺産に対する敬意を欠いている、とも言えるでしょう。
ピラミッドやナスカの地上絵のような人類の奇跡は、数千年前の人々の集団努力と創造力の産物です。
これらの古代の人々は、今日の私たちが理解しきれないほど巧妙な技術を駆使し、あらゆる自然の挑戦に立ち向かいました。
彼らの達成は、彼ら自身の知識、技術、そして精神力の証です。
古代宇宙人説がその存在を主張することで、私たちは彼らの成果を誤って他者のものとしてしまい、それらが実は私たち自身の種族の範囲内で達成可能であったことを認識することを遠ざけてしまいます。
これは、科学的な観点から見ても、文化的な観点から見ても不適切です。
古代の人々の知恵と技術を認識し、尊重することは、我々が自分たちの起源と、その起源がどのように私たちの現代社会を形成したかを理解する上で重要です。
古代の建造物や芸術は、私たちがこれらを築いた古代の文明と共に成長し続けることの証であり、彼らの成果を宇宙人の仕業にすることは、私たちが自身の可能性と過去に実際に生きていた我々人類の祖先の偉大さへの真の理解を妨げることになるでしょう。
最後に
我々は日々、さまざまな情報に溢れた世界で生活しています。
インターネットの進化は情報へのアクセスを容易にしましたが、同時にデマや誤情報も広がりやすくなりました。
そのため、情報を適切に分析し、信頼性を評価することが重要となってきています。
それが科学的思考とクリティカルシンキングの重要性です。
その為にも、観察、推測、試験、そして再評価といった手順を通じて情報を評価することが重要です。
このプロセスは、自然現象を理解するために科学者が使用するのと同じです。
科学的思考は、情報が事実であるか、それとも誤解や誤情報に基づいているかを判断するための基本的なツールです。
情報を受け入れる前に、その情報がどのように得られ、解釈され、提示されたのかを疑問に思うことは、私たちが真実を見つけるための重要なステップです。
このプロセスは、情報の源を確認し、その情報が公正かつ正確に報告されているかを確認することを含みます。
たとえば、古代宇宙人説のような主張は、表面的には魅力的に聞こえるかもしれません。
しかし、科学的思考を用いると、その主張が確立された科学的知識と一致しないこと、そして主張を裏付ける具体的な証拠が不足していることが明らかになります。
情報の源やその情報がどのように解釈され、提示されたのかについて理解を深めることにより、我々は真実と誤情報を区別する能力を養うことができます。
(※)邦訳本は「未来の記憶 : 超自然への挑戦」(松谷健二訳、早川書房、1969年)
○新刊 脳は心を創らない ー左脳で理解する「あの世」ー
(つむぎ書房、2023年)
心の源は脳にあらずとする心身二元論と唯物論を統合する新説、「PF理論」のやさしい解説。テレパシーやミクロ念力などの超心理現象も物理学の範疇に。実証性を重視し、科学思考とは何か、その重要性をトコトン追求しつつ超心理現象に挑む、未だかつてない試み。「波動を整えれば病気は治る。」こんな「量子力学」に納得しちゃう人、この本を読んだ方が良いかも!?あなたの時間・お金・命を奪うエセ科学の魔の手から自分を救うクリティカルシンキング七ヶ条。本書により科学力も鍛えられちゃう。(概要より)
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