児童文学「あの子の秘密」感想

近況

三か月くらいnoteに何も書いていなかった。年も越して二月になって新年の抱負とかそういうテーマも過ぎ去っているよ!
十二月は公募原稿を書いて投稿して、一月は新しい公募も見据えて最近の本のトレンド研究……と読書欲が沸いてきて読書趣味へ行っていた。

あれこれ面白い本はあったんだけど、今のうちに(と書きつつだいぶ記憶が薄れてしまったけど……)感想を書き留めておきたかった一冊がこちら。

「百合的に面白い」と紹介されているのを見かけて、「どれどれ」と思い手に取ったのだが、百合的な部分よりも、主人公がイマジナリーフレンド持ちであることが興味を引いた(ちなみに雄猫っぽいのでそこの関係は百合ではない)。
私は自分に脳内住民がいたり創作のテーマにしたこともあって、こういうイマジナリーフレンドものの作品は結構読んでいるのだが、これだけイマジナリーフレンドについて具体的に解説しつつ、イマジナリーフレンドに優しい結末を用意している作品ってあんまり無かったんじゃないかと思う。(かつてこういう作品を書きたかった……!と、「創作する自分」としては打ちひしがれた)
ネタバレ込みでここから感想を書く。

イマジナリーフレンドを扱った児童文学「あの子の秘密」について

厭世的なところを持っていて、他人に冷たい主人公、小夜子の造形がイマジナリーフレンド持ちのキャラクターとしては珍しい。今まで読んできたイマジナリーフレンド持ちのキャラクターは、孤独で優しい子(日本の作品に多い)だとか、想像力みなぎるパワフルな子(海外作品に多い)として書かれていることが多かった。
そんな小夜子の前に、誰とでも友達になれるタイプの転校生、もう一人の主人公である明來が現れる、というのがこの物語の始まりだ。

……「孤独だが優しい子」とか「想像力みなぎる子」とかの従来のイマジナリーフレンド持ち主人公だったら普通にお友達になれそうなタイプが明來だ。しかし、小夜子は突っぱねる。イマジナリーフレンドの黒猫は、最初は明來を警戒していたが、彼女と仲良くなれと言っていなくなってしまう……。

ここからがこの物語のポイント。
明來は「人の心が読める」から、その能力を使って「誰とでも友達になれてきた」のである……(この作品は小夜子と明來の一人称が交互にあるため、明來が本当は道化を演じているが、本当は色々考えながら行動している子だと分かる)。能力のおかげで、明來は小夜子の黒猫をも見ることが出来た。そして、そのことを知った小夜子は見失った黒猫を探すために、明來に協力を求めるのだ。

明來が「イマジナリーフレンド」という概念を、年上の人物から教わる箇所がある。その説明も、簡素で的確である。
「イマジナリーフレンド」が一般的な概念過ぎてあまり説明がないことが多い海外のイマジナリーフレンド作品と、ファンタジー的に「見えないお友達」等として処理して特に説明のないことが多い日本のイマジナリーフレンド作品を考えると、この作品での「イマジナリーフレンド」の扱いは結構特異なのではないだろうか。

明來と他のクラスメートと打ち解けていく小夜子だが、彼女らと仲良くなることで黒猫が帰ってこなくなるのではと不安にもなる。
(この、他のクラスメートも、かつて黒猫の存在をクラスに悪気なくばらしてしまい、小夜子がからかわれてしまったことを後悔していた……という過去があり、イマジナリーフレンドの扱いの難しさを示している)
イマジナリーフレンドの代わりに現実のお友達を持てましたのハッピーエンドじゃないんだ。その先を書いた話だ。そこがいい。

明來は小夜子と夢で繋がることによって、黒猫を探すことになる。黒猫に出会った明來は、小夜子が待っているからという説得から、黒猫自身の気持ちを聞き出すことに切り替えた。つまり黒猫を小夜子の一部としてではなく、一人格として捉えてくれたということになる。本当に「イマジナリーフレンド」に対して優しいストーリーだと思う。

その後、現実世界に黒猫が戻ってきたけど、しばらく小夜子の元には行かずに明來の元に留まってるのが素直じゃなくて可愛い。

というわけで、「イマジナリーフレンド」に焦点を当てて感想を書いたが、それぞれのキャラクター性も深くて印象的だった。(ちなみに「百合」の子に対しては、あ、確かにいい百合だけど……!百合だとこの子のダークヒーロー性みたいなものが薄れてしまうのでは……!みたいな板挟みを感じた)

そんなわけで、ちょっと記憶違いとかあるかもしれない(記事を書き始めてからも時間が経っているもので……)けど「あの子の秘密」感想でした。

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