マガジンのカバー画像

短編連作小説『透目町の日常』まとめ

15
短編連作シリーズ『透目町の日常』をまとめました。基本的には一話完結なので、気になった作品からご覧いただければ幸いです。
運営しているクリエイター

#並行世界

短編連作シリーズ『透目町の日常』を紹介する

はじめまして、四十九院紙縞と申します。 この記事では、唐突に投稿を開始した短編連作シリーズ『透目町の日常』についての話をしていこうと思います。 通りすがりに偶然この記事を見かけたかたに興味を持っていただければ幸いです。 やんわりと世界観の話と、現時点で投稿している作品の紹介をしていきますが、この記事を読まないとこのシリーズの世界観がわからなくなるということは決してありませんので、ご安心ください。 「透目町」とは 物語の舞台となる「透目町」とは、架空の町です。 町の名前

【短編小説】突如現れた正体不明の女性と同居することになった「私」の話

『名無しの名無花さん』  ある月曜日の朝、リビングで知らない人が家族と朝食を食べていた。  両親はとっくに食事を済ませ、母は早々に仕事へ行く準備を、父は家族全員分の弁当の用意をしていて。それを横目に、兄はテレビを観ながらトーストに齧りついている。  毎日代わり映えのない光景に、しかし今日は、異物が一人。  その知らない人は、兄の正面の席に座り、同じように朝食を食べていたのである。  見た感じ、二十代前半ほどの女性だ。胸元まで真っ直ぐに伸びる黒髪は、どんなヘアケアをしているのか

【短編小説】極端に影の薄い「私」が、並行世界から来た人間と、しがない喫茶店のマスターに救われる話

『透明人間はスパゲッティで孤独を癒やす』  物心がつく頃には、私は透明人間になっていた。  否、透明人間と言うと流石に語弊がある。  正確には、極端に影が薄い人間になっていた、だ。  一人で飲食店に行けば入店したことすら気づかれず席に案内されないことに始まり、やっとの思いで注文ができても、注文したものが出てくるまで通常の三倍は時間がかかる。  学校生活においては、とにかく出席しているという証明をするのが難しかった。なにもせずにいると、席に座っているにも関わらず、居ないことにさ

【短編小説】並行世界へ渡る力を持つ「私」が元の世界へ帰れなくなった話

『彼方此方に彷徨う蝶はほぞを噛んだ』  大人になった今でも忘れられない、鮮明で鮮烈な記憶。  それは、私が十歳のときに足繁く通った田舎町の記憶だ。  そうはいっても、その町は実在していない。それは私の夢の中にだけ存在していて、私は続きものの夢として、その町を頻繁に訪れていた。  始めのうちは、リアルな夢だと思うだけだった。日差しの暖かさも、風の冷たさも、怪我をしたときの痛みも、人に触れたときの感触も、全てが現実と同じだったのだ。十歳という年齢でそれだけリアルな夢をみ続けると、