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【短編小説】理由さがし

なにも手につかない。
あの温もり。
髪の匂い。さらには頭皮まで。
柔らかい胸。
すべすべの太もも。
独特の感触、まだ覚えている。
気持ち悪いだろうか。

他人の目を気にして学校ではあまり話さなかったし、休みの日も地元は極力避けて会っていた。

なんで?

なんでだよ。


「ごめん、別れよう」

急だった。
予兆はなかった。と、思う。

「はっ!?なんで?」

「うまく言えない。ごめん。」

その後、1時間くらい理由を聞いては謝られるというのを繰り返した。
気付いた時には一人で公園のベンチに座っていた。

最後に『バイバイ』って言われたのは覚えている。
そういえば、鞄に付けていたペアのクマのキーホルダーも外してたな。

涙が溢れた。
こういうことか。別れるとは。

スマホを取り出し、待ち受けにしていた写真を眺めた。付き合って一年記念に、泊りで旅行に行った時の写真だ。

「かわいいな」

記念の写真でも前髪を気にしてる。
消せなかった。

花火を見に行った時の浴衣姿

食べ放題で気持ち悪くなっている様子

寝癖だらけのすっぴん

遡れば遡るほど込み上げてくるものがある。

ふと、彼女がSNSに何か投稿していないか気になったが、やはりフォローを外されていて、何も見ることが出来なかった。
尚更何か投稿しているのではないかと思った。

今度は名前で検索をかけた。
同姓同名のアカウントがいくつかある中、彼女のアカウントはどれも非公開。
その中に1つ気になるものがあった。
彼女がやりもしなさそうな動画配信アプリだった。

10件ぐらいの動画が一覧で表示されたが、その全てに衝撃を受けた。

帰宅途中の彼女やバイト先、自宅、そして手を繋いで歩いている男は、間違いなく俺だった。

誰だ?
ストーカー?悪質にも程があるだろ。

怒りしかない。
男か?いや、もしかしたら、、、

俺の足は時間帯も気にせず、彼女の家に向かっていた。



『木梨』の表札の前でインターホンを押せずにいた。

気持ち悪いよな。別れた男が家に来て、お前の動画が投稿されてるって。
引くよな。話なんかまともに聞いてくれないだろう。
家の前をウロウロしていた。

「拓海君?」

彼女の母親だった。
買い物袋を下げている。

「春香ならまだ帰ってないわよ」

「えっ!?」

彼女と別れてすでに2時間は経とうとしている。
まだどこか彷徨いているんだ。
探さなきゃ。
LINEで通話をするが繋がらない。メッセージを送っても既読にならないだろう。

「春香のお母さん、これ観てください」

スマホを渡した。

「俺、ちょっと探してきます」

胸騒ぎと、ある予想が交互に頭をめぐっていた。


//わたなべさん、写真を使わせて頂きました。//






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