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[読書感想文] ある行旅死亡人の物語

前から良い本だという噂は聞いてたが、本当に良い本だった。一気に読み終わってしまった。

とある行旅死亡人がいた。
行旅死亡人とは、身元も不明、引き取り手もわからない死者。
こんな死者が年間数百人もいるらしい。
野垂れ死にとは違い、いわゆる孤独死でも似た状況になる模様。

この行旅死亡人の詳細が、国籍、住所、氏名不明、年齢75歳くらいの女性で、右手指全て欠損、現金約3500万円を持っていたという、謎すぎる人物。

しかも死後一年が経っている。著者がダメ元で調査をしてみよう、と問い合わせ先に連絡してみると、一年前の記事にも関わらず、すぐに「あっ、タナカチヅコさんの件ですね」というのが一章の終わり。

情報がないのではなかったのか?既に解決している?それだったら本になるわけないし。どういうこと?
と、これでグッと引き込まれた。

他にも章タイトルやたまにあるアタマの抜き出しセリフが熱い。
「この事件はかなり面白いですよ」「千津子は私の叔母でした」など、書き方によってはただのネタバレになるものが、早く続きを読みたい!となる。

調査開始

著者が担当の弁護士と話したり、調査に行くと、一年前というのもあるが、いろいろな証拠になりそうなものが消えている。誰かが処分した?金庫には元々現金と宝石類があったが、宝石類だけ後でなくなっている。

残っていたのは「沖宗」という実印や写真など。

ベビーベッドに歴史のあるぬいぐるみが置いてあるというのが、確かに気になりすぎる。逆にそれがなかったらこの調査も始まってなかったのかもしれない。

昼すぎにこの街を訪れたときとは、風景が違って見えた。

p50

見通しが良くなって明るく見えたわけではなく、謎が増えすぎて困ってしまった著者。読んでるこちらも同じ気持ちだった。

有能記者コンビ

弁護士や警察が調査して全然わからなかったという状況の後に、新聞記者コンビがガンガン新たな事実を発見していく。

まず沖宗という実印を頼りに検索して、沖宗家系図を作ろうとしているブログに連絡するとブログ主から返事があり、家系図を強化することに協力することで、沖宗一族へのインタビューを勝ち取る。

確かに記者がいきなり行っても拒否されそうなところ、家系図作ってるんです、は強い。

実際、広島に調査に行った時に政治家にアポを取ろうとしたとき、最初はすぐに電話を切られそうになったところ、家系図を作ってるんですで態度が急変。

しかもなんとこの人がタナカチヅコさんの甥だったという大発見。警察は何をしとったんや。

チヅコさんが四人姉妹だったということも判明し、姉妹や親戚を追っていくという、ここからが本当の戦いだモードに。

「だけど、一人の死者の人生を丁寧に追うって、本当に大切な仕事だと思いますよ。さすが君たちやなあと、感心してます。期待してますから、また話を聞かせてください」

p122

デスク、いい人じゃん… マスコミがみんなこんな人だったらマスゴミにはならないのに…

まだ原稿になるのかわからない先の見えない取材では、会社から出張費は支給されない。

p167

フリーの記者ならともかく、会社に所属しているのに原稿にならない場合は出張費が出ないって、すごいな。まあ、原稿にならない作業をしていても給料は出ると考えるとまだマシなのか…

物語の終わり

だが、政治家の沖宗さんとの繋がりができたのがピークだったようで、そこからは残念ながらチヅコさんの同級生や知り合いなどがちらほら見つかっただけで大きな発見はないまま。しかし、誰も60年70年前のことを覚えているのがすごい。

そしてよくある新聞記者の調査だとほとんどが門前払いされそうなものの、この調査は分かりにくい道を案内してくれる人や、知り合いにコンタクト取ってくれる人が多くホンワカしていた。

でも、そこまでの調査をウェブ記事に発表したらすごいバズって終わった。

結局3400万円はなんだったのか、そしてこれは正明さんに行くのだろうか。そしてぬいぐるみの謎は…?夫と思われる謎の男性は?そもそもなぜ部屋にものが少なく、ほとんど周りと関わりなく生きていたのか?などはわからないまま終わった。

途中で北朝鮮研究者の人が言っていた、宝くじに当たってそこからひっそり生きていた、が正しいような気もした。

まあ、元々はただの行旅死亡人として無縁仏になるところ、きちんと姉妹や親戚は見つかって一族のお墓に入れたわけだし、ものすごく素晴らしい調査結果だった。できる新聞記者はできるなぁ。

チヅコさんの同級生だった川岡さんが、取材では100歳まで生きるって言われたガハハと言ってたのに、その1年後には亡くなっていたのが切ない。でも、タイミングがずれていたら川岡さんから話を聞くこともできなかったわけか。

そういうのも含めて、人生というのはやはり人間関係なんだな、人が亡くなっても終わりではなく、その人について知っている人が誰もいなくなったら終わりなのかもしれないなとか色々と思うところがあった。

表紙イラスト

表紙イラストが良すぎる。後ろ姿の女性が、印象的なデザインの犬のぬいぐるみを持っている姿。

読み始める前は意味がわからないが、読み進めると「おいおい、まさかアレは…」と推理小説を読んでいるような気分になった。

そしてカバーを外した裏表紙はただの模様かと思いきや、表紙イラストのチヅコさんもぬいぐるみも建物すらないと、地面に散らばっている落ち葉だけが残っている、しかもチヅコさんの影はあるという、なんかよくわからないけどグッと来るもの。

高妍さんというイラストレーターのようで、なんか聞いたことある気がして調べたらビームで連載しているらしい。「緑の歌」というコミックの表紙は見たことがある気がした。

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